【インドネシア政経ウォッチ】第2回 急速に進む技術格差と脱工業化(2012年 8月 9日)

あるインドネシア企業を訪問した際、複数台のNC機械が止まっているのを見かけた。30年ほど前の日本製の機械だろうか。故障したが修理方法が分からないので、2カ月間放置されているという。日本でも古いNC機械を修理できる人材は少なくなり、新品に替えるのが一般的とのことである。

そんな話を聞きながら、ジャカルタ首都圏を走る日本製の中古の電車やバスのことを思い出した。日本から次々に流れてくるので、修理して長く大事に使う感覚がインドネシア側に生じない。構造的に技術吸収のプロセスが起こらなくなっているのだ。

インドネシアの経済発展は脱工業化を伴っているという指摘がある。実際に製造業でも好調なのは、電化製品、二輪車、自動車などの組立産業である。部品などの現地調達率を高める努力もなされているが、インドネシア企業が部品産業で技術集積・蓄積を進めていくことが、ますます難しくなっているように見受けられる。

日本企業は技術開発を進め、少量・高価格で製品を市場へ出す。生き残るためには、技術が汎用化される前に、さらなる技術開発をしなければならない。一方、後発のインドネシアでは技術開発の資金も人材も乏しく、中古技術を取り入れて吸収しようとするのが精一杯になる。こうして両国企業の技術格差は、埋まらないどころか拡大する。日本企業がインドネシアに進出する際には、必ずこの技術格差の問題に直面し、結果的に日本から機械や技術を持ち込まざるを得なくなる。

「日本企業の進出がインドネシアの工業化で欠けた穴を埋めていくのではないか」という期待もある。しかし、急速に広がる技術格差を考えると、インドネシア企業が独自に工業化を果たすのは難しいのではないかという気がしてくる。昨今メディアを賑わす「経済ナショナリズム問題」も、こうした文脈と決して無関係ではない。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20120809idr020A

※この記事は、アジア経済ビジネス情報を発信するNNA(株式会社エヌ・エヌ・エー)の許可を得て掲載しております。

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