【インドネシア政経ウォッチ】第3回 イスラム化現象を気にする必要はない(2012年 8月 16日)

世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシア。以前よりもジルバブ(スカーフ)を着用する女性や1日5回、しっかりと祈る割合が増えているほか、コーランの勉強会が盛んになるなどイスラム化が進んでいる印象を受けるかもしれない。しかし、それらはインドネシアのイスラムがより原理主義的になっている現れでもないようだ。

政治勢力としてのイスラム政党は、ますます国民の支持を失ってきている。契機は2002年、04年に起きたバリ島での爆弾テロ事件にあったと考えられる。当時のインドネシアでは、民族主義とイスラム主義が拮抗(きっこう)しており、イスラム国家になるのではないかという懸念があった。実際にイスラム法の適用運動が盛んになり、複数の地方政府は関連する条例を成立させた。だが、今ではイスラム法を適用する運動は影を潜め、反汚職の清新なイメージで過去の選挙で躍進した福祉正義党(PKS)をはじめ、イスラム政党は軒並み支持率を下げた。

04年から2期続くユドヨノ政権は、イスラム政党を追い込まず、与党政権の内部に取り込んで実質的に無力化させた。かつてスハルト政権がパンチャシラ(建国五原則)を1985年に法制化して組織存立原則とし、それを拒むイスラム勢力を敵視したのとは対照的なやり方である。

イスラム政党が影を潜めた今、イスラム擁護戦線(FPI)のような組織が示威行動をとるようになった。一方で、彼らの暴力行為を支持する国民は少数派にとどまる。FPIらの行動は、イスラム勢力の拡大を目指すというよりも、政治家が利用できる一種の暴力装置として力を誇示することに重きが置かれている。

ジルバブを着用する女性も、敬虔(けいけん)なイスラム教徒としての部分のほかに、そう見せることで異性の好奇の目を避ける、単にファッションとして好むといった面もある。インドネシアは、イスラム教が多様性を尊重する宗教であることを強調する穏健な考え方が主流である。われわれ外部のものが、見た目のイスラム化現象を過度に警戒する必要はないと考える。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20120816idr025A

※この記事は、アジア経済ビジネス情報を発信するNNA(株式会社エヌ・エヌ・エー)の許可を得て掲載しております。

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