【インドネシア政経ウォッチ】第97回 憲法裁判断にみる民主主義の成熟(2014年8月28日)

8月21日、憲法裁判所は裁判官全員一致で、プラボウォ=ハッタ組から出された大統領選挙に対するすべての不服申し立てを棄却した。これにより、7月22日に総選挙委員会が発表した大統領選挙でのジョコウィ=カラ組の勝利が確定し、正式に次期正副大統領となった。プラボウォ=ハッタ組も憲法裁判所の判断を受け入れた。

プラボウォ=ハッタ組は当初、「証拠書類をトラック10台分用意する」などと豪語していたが、実際の証拠書類はトラック5台分に過ぎず、かつ証拠として不備が多かった。証人の多くも事実に基づかない証言に終始し、裁判官が思わず失笑する場面さえあった。これに対し、訴えられた側の総選挙委員会はトラック21台分の証拠書類を用意し、必要に応じて密封された投票箱を開封するなどの対応を行った。

プラボウォ=ハッタ組は、連日、憲法裁判所前へ支持者の動員をかけた。動員されたのは、イスラム擁護戦線(FPI)、パンチャシラ青年組織(Pemuda Pancasila)、パンチャマルガ青年組織(Pemuda Panca Marga)などの暴力沙汰をよく引き起こす団体。金属労連などの労働組合組織も加わった。

しかし、彼らの抗議デモは、4,000人の警察官による催涙ガスや放水などによって抑えこまれた。ジャカルタ市内には「暴動が起こるのではないか」という噂が強く流れたが、一部で交通渋滞が発生したほかは、平穏に終わった。

暴力集団の動員や暴動の噂による威圧は、結果的には、憲法裁判所の判断に何の影響も与えなかった。もともと、プラボウォ=ハッタ組による不服申し立ての稚拙な内容からして、大統領選挙結果が覆る可能性はほとんどなかった。

しかし、憲法裁判所はこの不服申し立てを決してないがしろにせず、手続きに従って丁寧に対応した。国民の多くは、大統領選挙後のプラボウォの態度に大きく失望したが、不服申し立て自体は制度上認められた権利であるとし、静かに見守った。そこに見られたのは、インドネシアにおける民主主義の成熟であった。

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