【インドネシア政経ウォッチ】第80回 政府、工業団地開発に積極的関与へ(2014年3月27日)

2013年工業法の成立を契機として、政府が工業団地の量的・質的向上へ積極的に関わる姿勢を見せ始めている。インドネシアでは工業団地の9割以上が民間主導で開発されたことから、政府には、マレーシアのように政府主導で開発を進めた国に比べて土地収用が遅れ、用地価格も高めになったという認識がある。

政府は、14年から、品質基準を定めて工業団地を評価し、2年間有効の認定証を出すほか、優秀な工業団地を表彰することを検討している。また、ジャカルタ周辺から地方への産業分散を図る観点から、25年にジャワ島外の工業生産比率を40%以上にすることを目標に、特にジャワ島外での工業団地開発を促す意向である。

工業団地は現在、全国に74カ所・約3万ヘクタールあるが、そのうちジャワ島には55カ所・2万2,796ヘクタールが集中する。しかもそのほとんどはジャカルタ周辺に立地する。残りはスマトラ島に16カ所、スラウェシ島に2カ所、カリマンタン島に1カ所である。今後、少なくとも20カ所、合計約3万ヘクタールの工業団地開発が計画されている。

ジャカルタ周辺の工業団地拡張の余地は限られている。西ジャワ州カラワン県は、空間計画による工業向け用地2万ヘクタールが満杯となったとして、新たな工業団地向け認可を行わない方針を示した。全国有数の米作地でもある同県には、農業用地を確保する狙いもある。今後の工業団地開発では、まだ余地の大きい東ジャワ州、中ジャワ州、ジャワ島外への注目度が増すだろう。

ジャワ島外の工業団地は、経済特区(KEK)指定と絡めた展開となる。中国などが工業団地開発に興味を示しているが、経済特区といえども、投資企業自身がインフラ整備をせざるを得ないのが現状である。

インドネシアの工業団地開発は、実は1989年まで国営企業が担っていたが、需要増加に追いつけず、民間の参入を認めて対応した経緯がある。政府の積極的な関与が民間の事業意欲を圧迫しないことを願うばかりである。

【インドネシア政経ウォッチ】第79回 闘争民主党と「空気」を読む政治(2014年3月20日)

3月14日、闘争民主党のメガワティ党首は、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)州知事を同党の大統領候補と正式に決定し、ジョコウィもそれを受諾した。ジョコウィの出馬表明で、4月9日投票の総選挙(議会議員選挙)と7月9日投票の大統領選挙が一気に動き始めた。

過去に大統領を務め、前回も前々回も大統領選挙に出馬したメガワティ党首は、今回も出馬に固執しているという見方もあった。なぜなら、闘争民主党はメガワティの父であるスカルノ初代大統領の政治思想を継承し、今回の大統領候補決定を含め、メガワティがすべてを決める「メガワティの党」だからである。当然、ジョコウィを利用して総選挙に勝利し、それを踏まえて自分が出馬、というシナリオもあり得た。

だが、世論調査の結果は、メガワティの当選可能性はジョコウィよりもはるかに低いことを示した。党内にはメガワティを大統領候補、ジョコウィを副大統領候補にする考えもあったが、「ジョコウィを自分の権力欲のために利用した」との批判が巻き起こり、場合によっては、ジョコウィが党を離れる事態も考えられた。ジョコウィ人気を総選挙での闘争民主党の勝利に活用したい。しかし、ジョコウィが副大統領候補では党への支持が集まらない。メガワティは現実的な選択をした。

ちまたでは、「ジョコウィが大統領になる」という「空気」が強まって、面と向かってジョコウィを批判できない雰囲気すら漂い始めている。筆者は、ジョコウィが不出馬の場合の政治的混乱や治安の悪化をむしろ懸念していた。同時に、「空気」を読んだ機会主義者が、これからジョコウィへどんどんすり寄っていく。実際、総選挙を戦う前から、複数の有力政党がジョコウィと組む副大統領候補について言及している。

ジョコウィと組む副大統領候補は誰か、大統領選挙でどのぐらい得票するか、後任のジャカルタ首都特別州知事には華人系のアホック副知事が就くのか、政治の焦点は移り始めている。

【インドネシア政経ウォッチ】第78回 スラバヤ市長は辞任せず(2014年3月13日)

先週、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)州知事を大統領候補とすることを闘争民主党がほぼ確定した、との記事が出た。そのジョコウィと並ぶ人気を集めているのが東ジャワ州スラバヤ市のリスマ市長である。

市職員からの叩き上げで、2010年に闘争民主党推薦で選出された女性市長(非党員)は、市内の美化・緑化、ゴミや廃棄物のリサイクル処理を進めて、ほこりっぽくて殺風景だったスラバヤを潤いのある街へと変貌させた。市内のブンクル公園が国連人間居住計画(ハビタット)福岡本部によるアジア景観賞の最優秀賞に選ばれたほか、リスマ市長自身がシティーメイヤーズ・ドットコムによる世界最優秀市長に選出されるなど、国内外から表彰が相次いでいる。

このような実績を誇るリスマ市長が最近、辞任をほのめかした。昨年に州知事選挙立候補のため辞任したバンバン副市長の後任に、スラバヤ市議会がウィシュヌ闘争民主党代表を選出したためである。この選出手続き自体に不正疑惑があるほか、ウィシュヌには、リスマがかつて市内高速道路建設を拒否した際に、リスマ下ろしを画策した過去がある。加えて、東南アジア最大と言われた売春街の撤去を強行した際、商業施設への再開発を防ぐためにスラバヤ動物園を市営化したリスマに対して、次期市長選挙での彼女の再選を阻止したい利権絡みの勢力が圧力をかけてきた。

政治組織や実業界と利害関係のないリスマ市長のよりどころは、市民の支持である。その頃、市内各所に「リスマを救え」とのポスターが張り出された。しかしリスマは、市美化条例に違反するとの理由で、それらをすべて撤去した。それでも市民の「辞めないで」の声は収まらず、結局、リスマは辞任を否定する声明を出すに至った。

辞任をほのめかしたリスマに、複数の政党が副大統領候補を打診したが、すべて断られたらしい。頑固で一途なリスマへの支持拡大は、ジョコウィの台頭とともに、これまでとは違う新しい政治への期待を抱かせる現象である。

【インドネシア政経ウォッチ】第77回 北スマトラの電力危機は続く(2014年3月6日)

長引く北スマトラ州の電力危機が国家的課題として取り上げられ始めた。2月27日の閣議で、ユドヨノ大統領が電力供給問題、特に壊れた発電機の早急な修繕を命じた。

北スマトラ州で電力危機が言われ始めてから、すでに10年近くが経過している。2005年から10年間で計1,000万キロワット規模の電力供給増加計画も立てられていた。 たとえば、09年にラブハン・アンギン火力発電所から33万キロワット、10年にアサハン第1水力発電所から18万キロワット、11年にパンカラン・スス火力発電所から40万キロワット、といった具合である。北スマトラ州には火力発電所に加えて水力発電所や地熱発電所もあり、これらが順調に動けば、電力は十分に足りる計算だった。

ところが、これらの発電所の建築許可が地方政府から下りない。たとえ発電所が運転可能となっても、用地買収が進まないために送電所が建設できない。さらに、アチェ州のアルン天然ガス田から引く予定のガスパイプラインの建設が終わらず、火力発電所へのガス供給のめどが立たない。そして、官僚制や汚職の問題も見え隠れする。

加えて、州内の複数の火力発電所で中国製発電機が故障して止まり、その修繕のめどが立たない。ユスフ・カラ前副大統領は、「当時、政府の資金不足で中国製を選択してしまったが、メンテナンス面を考えなければならなかった」と述べている。発電所を建設する資金の85%を中国側が負担するというスキームも破綻し、結局は国営電力会社(PLN)が穴埋めせざるを得なくなった。これらの結果、現時点では目標の1,000万キロワットのうち650万~750万キロワット程度しか達成できず、計画停電を余儀なくされている。

中国製発電機の問題については、非効率で高度な汚染源になるとして、中国が40万キロワット以下の発電所の建設を禁止したため、売れ残った発電機が上乗せ価格でインドネシアへ売られた疑いも指摘されている。

しかし、北スマトラ州の電力危機は待ったなしで、戦犯探しや政略を弄(ろう)している余裕はない。官僚制や汚職の問題にも切り込む必要があるだろう。

【インドネシア政経ウォッチ】第76回 刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって(2014年2月27日)

国会で審議されている刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって、汚職撲滅委員会(KPK)が法案の撤回・審議の延期を強く求める書状をユドヨノ大統領宛に送付した。KPKによれば、同案がKPKの権限や活動を著しく制限する内容になっているためである。

同案によると、KPKには取り調べのための拘置期間延長の権限がなくなる。裁判官はKPKによる逮捕を取り消すことができる。容疑者の拘留期間が今よりも短縮される。証拠差し押さえに裁判官の許可が必要となる。盗聴にも裁判官の許可が必要であり、 場合によっては許可が取り消される。無罪判決の場合には最高裁へ控訴できない。最高裁判決は下級裁よりも重刑であってはならない。以上のような内容がKPKから問題視されている。

これまでKPKは、KPK法(法律2002年第30号)および汚職犯罪撲滅法(法律01年第20号)に基づき、大統領直轄の強力な権限を行使して、汚職摘発に努めてきた。汚職捜査での盗聴も認められ、汚職裁判では生々しい録音記録が証拠として提示されることも頻繁にあった。

KPKの懸念の背景には、裁判所への不信感がある。憲法裁判所をめぐる汚職事件では、地方首長選挙結果で不服申立があった場合、主に勝者側の言い分を通すためにアキル前憲法裁長官から贈賄が強要され、同長官はその一部である1,610億ルピア(約14億円)をマネーロンダリングしていた。政治家や官僚と裁判官との癒着も相次いで報じられており、政治家や官僚が裁判官へさまざまな圧力をかけ、汚職捜査を妨害する可能性がある。

こうしたKPKの懸念に対して、アミル法務・人権相は、刑法・刑事訴訟法は基本的な一般法であり、KPK法や汚職犯罪撲滅法を縛るものではないので、従来通り、KPKは裁判所の許可なく盗聴活動などができるとしている。

現在の刑法・刑事訴訟法は、いまだにオランダ植民地時代のものを適用しており、時代に則した新しいものへ変える必要性が以前から指摘されてきた。もっとも、国会会期終了の9月までに、この審議が終わるかどうかは微妙である。

【インドネシア政経ウォッチ】第75回 クルド火山噴火の影響(2014年2月20日)

2月13日夜、東ジャワ州のクルド火山が噴火した。噴煙は高さ17キロに達し、ガスや火山灰を含む1億3,000万立方メートルもの火山性物質を噴出した。この火山は1990年3月にも噴火したが、そのときの火山性物質の噴出は5,730万立方メートルだった。今回の噴火自体の規模は前回を上回ったほか、2010年の中ジャワ州ムラピ火山の噴火に匹敵する規模だった。

今回のクルド火山の噴火は短いものであり、1990年3月のクルド火山や2010年のムラピ火山のように、噴火が長期化する気配はないとみられる。しかし、噴火がすでに終息したわけではなく、しばらくは警戒が必要である。

この噴火の影響で、東ジャワ州ではクディリ県やブリタル県などで約10万人が避難を余儀なくされ、周囲は火山灰で覆われた。火山灰はマラン、クディリ、ブリタルで7センチ、バトゥ、中ジャワ州ソロ、ジョクジャカルタで5センチ、東ジャワ州シドアルジョで3センチ積もり、遠く離れた西ジャワ州バンドンでも1センチ積もった。

風向きの関係で、火山灰はクルド火山よりも西側へ多く降り注いだ。このため、ジャワ島内では一時、ジャカルタ以外の全空港が閉鎖され、2月19日時点でもソロで空港閉鎖が続いている。筆者も当時、中ジャワ州スマランへ出張中で、飛行機がキャンセルとなり、夜行列車でスラバヤへ戻った。

スラバヤも火山灰が1センチ積もり、一時真っ白となったが、その後、毎日数時間、雷を伴った豪雨があり、市内に積もった火山灰はきれいに洗い流された。2月16日には空港も再開され、スラバヤに限っていえば影響は最小限で済んだ。クルド火山に近いマランでも、場所によっては火山灰がほとんど降らなかったところもある。しかし、もし乾季で西寄りの風が吹いていたら、スラバヤも大きな影響を受けるはずである。

インドネシアでの経済活動にとって最大のリスクは、実は自然災害である。日本でも関東地方の大雪で大きな被害が出ているが、緊急事態に備えた危機管理対策が日頃から重要になる。

【インドネシア政経ウォッチ】第74回 トランスジャカルタの機能的進化(2014年2月13日)

首都ジャカルタの渋滞対策は待ったなしである。地下鉄やモノレールの建設が具体化し、大通りの真ん中のバスレーンを走るトランスジャカルタも新車両の導入が進む。国鉄の駅の周辺にはバイクを停める駐輪場が続々と造られ、パーク・アンド・ライドが進む。従来、その場しのぎでバラバラな対策だったのが、さまざまな対策の間の連関が見え始めてきた。

ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事の渋滞対策の基本は、「いかにして自家用車から公共交通機関への切り替えを促すか」の一点に集約できる。すなわち、街中を走る自動車の台数を減らすことである。そのためには、エアコンの効いた清潔な公共交通機関が頻繁に走り、しかも行先に応じて乗り換えがしやすいことが求められる。地下鉄やモノレールの完成を待つことなく、まず標的としたのはトランスジャカルタである。

ジョコウィは、これまでのようにトランスジャカルタ自体の路線数を増やすのではなく、そこへ乗り入れるフィーダー型のバス路線を増やす形へ切り替えた。手始めに、アホック副州知事も住む北西の高級住宅地プルイットからバスレーンへ入り、独立記念塔(モナス)やジャカルタ州庁舎を回るバス路線を開設した。高所得層の通勤や買物にバス利用を促すもので、アホックもバス通勤するという。続いて、タナアバン駅からバスレーンを通ってカリバタ駅までの路線を開設し、鉄道利用者がバスへ乗り換えし易くする。以後、中低所得層居住地を結ぶ路線など計23系統の統合型路線を開設する計画である。

すなわち、トランスジャカルタを機能的に進化させていくのである。今後、トランスジャカルタの乗り場を、日本の駅ナカのような複合施設へと展開させ、乗り換え時に安心して歩ける歩道を整備し、公共交通機関に絡めたにぎわいを作り出すことも期待されよう。

トランスジャカルタの機能的進化でバス利用のイメージは好転するのか。もちろん、窃盗やひったくりなど安全面の対策も忘れてはなるまい。

【インドネシア政経ウォッチ】第73回 東ジャワ州知事選挙疑惑(2014年2月6日)

インドネシアでは、選挙結果に対して不服申し立てがあると、憲法裁判所が選挙の勝者を最終決定する仕組みになっている。しかも、憲法裁判所の決定には第三者によるチェックが入らず、1回の判断で決められる。この仕組みを利用して、収賄を繰り返していたとされるのが、先に逮捕されたアキル前憲法裁判所長官である。

アキルは2013年10月2日、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙結果の最終決定に絡む贈収賄の現場を押さえられて逮捕され、その後、いくつかの地方首長選挙でも同様に収賄を繰り返していた疑いが浮上した。

14年1月末、アキルは、地方首長選挙結果の最終決定に手心を加えるため、申し立てを行った者に金品を要求したことをようやく認めた。相場は状況によって異なるが、30億~100億ルピア(約2,500万~8,300万円)だったもようである。アキルは、「金品を要求したが、相手が本当に用意するとは思わなかった」とうそぶくが、相手にすれば強要以外の何物でもないだろう。

そして、アキルが金品を要求した事例として、新たに、13年8月の東ジャワ州知事選挙が浮かび上がった。現職が順当に勝利したと思われた選挙だが、落選候補側が憲法裁判所へ不服を申し立てていた。

アキルによると、彼を含む裁判官は13年10月2日、不服を申し立てた落選候補の当選を決定。しかし、現職側から「現職当選とするよう助けてほしい」と執拗(しつよう)に迫られ、決定を覆すために100億ルピアを要求した。まさにその夜、上述の通り、アキルは汚職撲滅委員会(KPK)に逮捕された。結局、東ジャワ州知事選挙の結果は、数日後、アキル抜きの所内最終会議で審議され、現職当選と決定された。

再選された現職の東ジャワ州知事は民主党州支部長で、敗北すれば民主党には致命的な痛手だった。実際、ユドヨノ党首(大統領)が何度も東ジャワ入りしてテコ入れしていた。もしかすると、アキル逮捕の真の理由はこちらだったのかという疑念さえ浮かんでくる。

【インドネシア政経ウォッチ】第72回 憲法違反でも選挙は実施(2014年1月30日)

憲法裁判所は1月23日、国会議員選挙と分けて大統領選挙を行うことは憲法違反との判断を下した。インドネシア大学のエフェンディ・ガザリ講師と『同時選挙のための国民連合』という団体が求めた違憲審査が認められたことになる。

憲法の第6A条2項には「大統領・副大統領候補ペアは、総選挙参加政党もしくはその複数政党の連合体によって総選挙実施前に決定する」とあるほか、第22E条には「総選挙は国会議員、地方代表議会議員、正副大統領、地方議会議員を選出するために実施される」とあり、総選挙後に、政党が合従連衡して正副大統領候補ペアが決まる現状は違憲状態にあるとの判断である。

ただし、憲法裁判所は、2014年の総選挙と大統領選挙は実施準備が最終段階に入っているとして、現状のまま実施し、同時選挙は次回の19年から実施することも決定した。これに合わせて、地方議会議員選挙と地方首長選挙も、20年からの同時実施が検討されよう。

現在の制度では、国会議員選挙と地方議会選挙を「総選挙」と称して同時に実施し、その後に大統領選挙が行われるが、地方首長選挙は各州・県・市でそれらとは関係なくバラバラに実施されている。今後は国会議員選挙と大統領選挙、地方議会選挙と地方首長選挙がそれぞれ同時に実施されることになる。

今回の憲法裁判所の判断に対しては、同時選挙とすることによって費用と労力を軽減し、有権者も理性的な判断がしやすくなるとの期待がある一方、政治家からは14年の選挙が憲法違反のまま行われることへの批判もある。違憲判断で14年の総選挙・大統領選挙が中止となる可能性もあったが、結局、それは回避された。

一方、「国会議員選挙で25%以上の得票率の政党または政党連合のみが正副大統領候補ペアを出せる」という規定についても違憲審査がなされたが、憲法裁判所はそれを退けた。これにより、14年の総選挙・大統領選挙の実施に関する懸念事項は解消された。

【インドネシア政経ウォッチ】第71回 マナドを襲った洪水(2014年1月23日)

昨年に引き続き、インドネシア各地で洪水の被害が伝えられる。なかでも、1月15日に北スラウェシ州の州都マナド市を襲った洪水はすさまじいものだった。気象庁は、フィリピン南部で季節外れの台風が発生した異常気象の影響とみている。

これまでに19人が死亡、27人が重傷、706人が軽傷のほか、565軒の家屋が流され、1万軒以上が全半壊した。人口40万人のマナド市の被災人口は2割以上の8万7,000人で、市内11郡のうち9郡が被災した。道路も寸断されて交通はまひし、停電も長期化した。

北スラウェシ州のサルンダヤン知事によると、被害総額は1兆8,710億ルピア(約161億円)とみられるが、これは数千億ルピアと現時点で推定されるジャカルタでの被害額を大きく上回る。中央政府は18日と20日、空軍機で緊急物資をマナドヘ送ったほか、スラウェシ島内で同じく洪水の被害に苦しむ南スラウェシ州政府も救援物資を送った。

海に面したマナド市には平地がほとんどない。4つの中級河川と10前後の小さな川が南部の山間部から市内へ流れてくるが、市街地に山がすぐ迫る地形のため、川の流れは急である。これら河川上流部の山間部で激しい降雨が続き、かつ土砂崩れも加わって、鉄砲水がマナド市を襲った。有名企業グループが丘を崩して造成した高級住宅地では、昨年に続いて家屋の倒壊が相次いだ。地元の専門家は、上流部で進む急速な森林伐採による保水力の低下が洪水や鉄砲水の原因と指摘する。

マナド市では一時約4万人が避難したが、これは洪水被害者だけではなかった。洪水発生後、しばらくして水が引き始めた沿岸部に「津波が来る」という噂が交流サイト(SNS)で流れ、市民の間に広まった。津波を恐れて避難した者も相当数いたのである。

被災者からはマナド市や北スラウェシ州の対応の遅れが批判されるが、行政自体が被災して機能不全となった。今回を含めたこれまでの教訓を生かし、中央政府と地方政府が連携して迅速に対応できる、有効な災害対策が求められる。

【インドネシア政経ウォッチ】第70回 ジョコウィ立候補を阻むものは?(2014年1月16日)

7月の大統領選挙を前に、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)州知事への期待が高まり続けている。彼自身は大統領選挙への立候補について何も発言していないが、現時点で選挙が行われれば、確実に彼が当選する。

有力紙『コンパス』の大統領候補に関する世論調査では、2013年12月時点でのジョコウィの支持率は、前回13年6月の32.5%から43.5%へと大きく上昇した。すでに立候補を表明しているグリンドラ党のプラボウォ党首は15.1%から11.1%へ低下、ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首は8.8%から9.2%へ微増、ハヌラ党のウィラント党首が3.3%から6.3%へ上昇しているが、ジョコウィへの支持は圧倒的である。

これに気をよくしているのは、闘争民主党(ジョコウィは同党の一般党員)である。同党は「ジョコウィ・ブーム」を活用し、大統領選挙前の4月の総選挙(議会議員選挙)で第一党となる戦略である。そしてメガワティ党首は、「大統領候補の正式決定は総選挙後」「大統領候補の決定は党首に一任されている」とし、自身の立候補に含みを残している。

もっとも、これは選挙へ向けた政党間の政治的駆け引きの一環とみたほうがよい。実際、大統領候補としてのメガワティの人気は微々たるもので、ジョコウィとは雲泥の差がある。闘争民主党がメガワティを大統領候補、ジョコウィを副大統領候補とすれば、不人気のメガワティの個人的エゴと捉えられ、闘争民主党への支持は急速に冷めるだろう。勝手に膨らむ人気に押され、ジョコウィは大統領選挙に立候補せざるを得なくなったと言ってよい。

では、ジョコウィ立候補を阻むものはあるのか。スキャンダルや汚職疑惑以外に、心配なのはジャカルタの洪水である。抜本的な洪水対策に取り組まざるを得ない状況になれば、「それを放り投げて大統領選挙に出るのは許されない」と他党が騒ぎ立て、真面目なジョコウィは洪水対策に専心するだろう。その意味でも今季の洪水は注目である。

【インドネシア政経ウォッチ】第69回 都市部貧困人口の増加(2014年1月9日)

1月2日、中央統計庁はインドネシアの貧困状況に関する統計速報を発表した。これによると、2013年9月の貧困人口は2,855万人、貧困人口比率は11.47%となり、その前の13年3月時点での2,807万人、11.37%よりも増加した。これまで貧困人口比率だけでなく、貧困人口の絶対数も着実に減少し続けてきたが、それが久々に増加した。

貧困人口増加の背景には、経済成長の鈍化に伴う雇用創出の不足、失業率の上昇(13年2月の5.92%から13年8月には6.25%へ)、物価上昇などがあると考えられるが、これが一時的な現象なのか、貧困人口はますます増加していくのかを現段階で判断するのは難しい。

貧困人口は13年3~9月に48万人増加したが、30万人は都市部で占められ、そのうちの約24万人はジャワ島での増加である。他方、貧困人口の絶対数では都市部を大きく上回る村落部での貧困人口の増加は18万人にとどまり、しかも、ジャワ島では、全国の村落部で唯一、貧困人口が若干ながら減少している(836万6,000人から831万2,000人へ)。都市部では、バリ島とヌサトゥンガラや、マルクとパプアで貧困人口が減少している。

首都ジャカルタをはじめとするジャワ島の都市部では、高所得者層の消費需要が旺盛で、高級志向が強まり、その予備軍とも言える上位中間層の存在がクローズアップされがちであるが、その一方で、実は貧困人口が増加しているということになる。すなわちそれは、ジャワ島の都市部において、貧富の格差が拡大していることを示唆する。他方、村落部における貧困人口の増大は相対的に少なく、都市と農村との格差の問題が急速に深刻化しているとはいえない。

首都ジャカルタなどでは、狭い長屋のような住宅のすぐそばに高級コンドミニアムがそびえる光景が目につく。貧困人口の拡大に加え、そうした光景がもたらす相対的貧困感が低所得者層に意識され得る。一方、暴動などへの恐怖から、華人高所得者層には低所得者層の居住地から遠くへ移転し、接触を避ける傾向も見られる。都市部の貧困人口の拡大が社会不安につながるかどうか、注意深く見守る必要がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第68回 全国と各州での経済成長率の乖離(2013年12月19日)

2014年のインドネシアの経済成長率予測は、時がたつにつれて低下してきた。中央銀行の当初予測(6.4~6.8%)は8月に6.0~6.4%、11月には5.8~6.2%、現状では6%いくかいかないか、という線へ後退した。国内では「13年よりも14年は好転する」という楽観的な見方が多かったが、10月に世界銀行が5.3%と13年予測値(5.6%)を下回る数字を出した頃から、インドネシア政府も下方修正せざるを得ない状況となった。

経済成長率の下方修正は、政策金利(BIレート)引き上げによる金利上昇の影響への懸念が背景にある。これは、政府が経済成長よりもマクロ経済の安定を選択したことを意味し、14年の経済成長率が13年を下回るのもやむなしとのシグナルを市場へ送った。今の政府の期待は、低いインフレ率と14年総選挙による国内消費である。

確かに、総選挙で喚起される国内消費はそれなりにある。おそろいの政党Tシャツなどの選挙グッズ、政党や候補者のポスターや垂れ幕などの印刷、集会で出される食事。それでなくとも選挙ではさまざまなカネが動き、それが消費需要を促す。有権者の選挙への関心が低下し、大衆動員型選挙が難しくなっても、ある程度の需要は喚起される。

そのためか、各州レベルでの14年の経済成長率見通しは相当に楽観的である。中銀の予測は、カリマンタンを除くジャワ島外で高成長が続くと見ている。なかでもスラウェシ島では、中スラウェシ州の9.7%を筆頭に、西スラウェシ州が9.1~9.5%、北スラウェシ州が7.7~8.1%、南スラウェシ州が7.4~7.8%と続く。スマトラでも各州で6%以上の成長を見込む。

ジャワ島内でも、東ジャワ州は6.8~7.0%と依然として高成長を見込み、製造業が集中する西ジャワ州(5.8~6.4%)やバンテン州(5.6~6.0%)とは対照的である。首都ジャカルタも6.1~6.5%と強気である。

インドネシアは「内需主導のためリーマンショックの影響をあまり受けなかった」と評されたが、そのときも各州の経済成長率は全国のそれを上回っていた。来年も内需の動向が経済成長の鍵を握る。

【インドネシア政経ウォッチ】第67回 農家世帯数の大幅な減少(2013年12月12日)

中央統計局は12月2日、2013年農業センサス結果の概要を発表した。農業センサスは10年に1度実施され、前回は03年である。この10年間、インドネシアは中進国へ向けて経済成長を続けてきたが、その陰で、農家世帯総数は03年の3,123万世帯から13年には2,614万世帯へ大きく減少した。

特に減少が顕著なのは野菜・果物と畜産である。野菜・果物は、03年の1,694万世帯から1,060万世帯へ、畜産も1,860万世帯から1,297万世帯へ急減した。経済が豊かになると、コメなどの主食を補う野菜・果物や畜産品の消費が伸びるはずだが、インドネシアではそれらの担い手が減り、輸入品への依存を高めている。

他方、興味深いことに、米作は1,421万世帯から1,415万世帯へとほとんど減っていない(注:農家1世帯が米作と野菜・果物など複数に従事する場合を含むため、農家世帯総数は他の総和より小さくなる)。

耕地面積が0.5ヘクタール未満の小農は、03年の1,902万世帯から13年には1,425万世帯へと、これも大きく減少した。とりわけ、ジャワ島での減少が顕著で、中ジャワ州で132万世帯、西ジャワ州で120万世帯、東ジャワ州で114万世帯も減少した。その結果、農家1世帯当たりの平均耕地所有面積は03年の0.41ヘクタールから13年には0.89ヘクタールへ増加した。経済成長に伴い、農村から多くの労働力が都市へ吸収され、農地の細分化に歯止めがかかってきた様子がうかがえる。

近年、特にジャワの農村では、若い世代が農業を継がないことが問題となっている。農業人口の減少を生産性向上で補うため、人口が多くて無理といわれたジャワ島でも機械化が検討され始めている。実際、中ジャワ州バンジャルヌガラ県は、韓国との協力で農業機械化を試行し始めた。

まさに、1970年代の高度経済成長期の日本の農村をほうふつとさせるような光景だが、農協のような、機械化を支えるファイナンス面の準備はまだない。このままいけば、15年の東南アジア諸国連合(ASEAN)経済自由化により、インドネシアがさらに農産物を輸入に依存していくことは確実である。

【インドネシア政経ウォッチ】第66回 韓国系企業が集中するプルバリンガ県(2013年12月5日)

先週、中ジャワ州プルバリンガ県を訪問した。中ジャワ州の南西部、西ジャワ州との境に近い小さな県である。ジャカルタやスラバヤからは、この地域の商業センターであるプルウォクルトまで鉄道などで行き、そこから車で約30分である。

日本では無名なプルバリンガ県には、韓国系企業が20社以上も立地する。そのほぼすべてが、カツラや付けまつげを作る労働集約型企業である。最初の韓国系カツラ製造企業が操業を始めたのは1985年頃で、当時は従業員50人足らずの家内工業であった。それが90年代半ばから進出が相次ぎ、今では第2工場、第3工場を持つ韓国系企業さえ現れた。

でも、なぜカツラや付けまつげがここなのか。単に最低賃金が低いこと(2014年で102万3,000ルピア)だけが理由ではない。プルバリンガ県は、実は1950年代から「サングル」と呼ばれる伝統的な女性用の結い髪の生産地であり、この地域ではプルバリンガ女性の手先の器用さが際立っていた。韓国系企業はそれに目をつけた。しかし、当初はなかなか韓国系企業の思った通りの製品にならなかったようである。

カツラや付けまつげの製造では、細かな部品を家族の副業などで下請けする。下請先は現在290カ所あり、その一部は規模が拡大し、企業化している。これら下請を含め、カツラや付けまつげ製造だけで約5万人の雇用を生み出している。製造に従事するのはほとんどが女性である。このため、家事労働の使用人を見つけるのが難しいという。他方、男性の雇用機会は限られている。

韓国系企業が集中する別の理由は、県政府の投資認可ワンストップサービスである。県知事署名の立地許可以外の許認可は、県投資許可統合サービス事務所(KPMPT)で片付く。工業団地はないが、工場ゾーンでの用地取得に便宜を図ってくれる。労働組合活動は低調で労働争議もない。現地に根を下ろした韓国系企業は、今やプルバリンガ県にとって不可欠な存在なのである。

【インドネシア政経ウォッチ】第65回 ジャワ島の14年最低賃金を読む(2013年11月28日)

11月になり、各県・市の2014年最低賃金が決定された。政府は14年の最低賃金に関して「消費者物価上昇率+10%以下(労働集約産業は+5%以下)」という目安を提示したが、今年ほどではないにせよ、14年も20%前後の高い上昇率となった。

ジャワ島内では11月25日までに、112県・市のうちバンテン州セラン県を除く111県・市の14年最低賃金が決定した。最高が西ジャワ州カラワン県第3グループ(鉱業、電機、自動車、二輪車など)の281万4,590ルピア(1円=112ルピア、以下同じ)、最低が中ジャワ州プルウォレジョ県の91万ルピアであり、その差は3倍以上ある。

地域別にみると、ジャボデタベックと呼ばれるジャカルタ周辺の県・市が235万ルピア以上だが、そのすぐ後には、東ジャワ州スラバヤ周辺が続いている。スラバヤ周辺の最低賃金はもはや決して低いとは言えなくなった。スラバヤ周辺に続くのが西ジャワ州バンドン周辺で、このあたりで最低賃金200万ルピアの線が引ける。

一方、中ジャワ州とジョクジャカルタ特別州は相対的に最低賃金がまだ低い。最高でも前者ではスマラン市の142万3,500ルピア、後者ではジョクジャカルタ市の117万3,300ルピアにとどまる。特に、中ジャワ州の中央から南側に立地する9県では最低賃金が100万ルピア未満である。

ちょうど100万ルピアは、中ジャワ州に4県、東ジャワ州南西部に6県・市、西ジャワ州に1県ある。これらはいずれも、各州内で開発の遅れた地域に属しており、最低賃金水準から地域内の経済格差の様子が見えてくる。

昨今、ジャカルタ周辺の工場が中ジャワや東ジャワへ移転する動きが見られるようになったが、一般に、最低賃金の低い県・市では、投資認可関連手続きの経験が不足しており、企業設立などで時間的・資金的なロスが生じる可能性がある。企業進出に当たっては、最低賃金水準だけで決めるのではなく、行政サービスの質やインフラ状況などを総合的に判断する必要があるのは言うまでもない。

【インドネシア政経ウォッチ】第64回 為政者としてのウィバワの移転(2013年11月21日)

インドネシアの人々はウィバワ(wibawa)という言葉をよく使う。威力あるいは威厳という意味だが、落ち着いた大人の対応ができる人を評する場合にも使う。大統領選挙を前に、為政者としてのウィバワが移り始めたと感じられる出来事が起こっている。

低価格グリーンカー(LCGC)をめぐる議論はそのひとつである。ジャカルタのジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事は、個人所有のLCGCがジャカルタの渋滞をさらに悪化させることを懸念し、むしろ公共交通機関の整備が先決であると主張した。これに対してユドヨノ大統領は、渋滞の管理責任はジャカルタ特別州政府にあると批判したが、ジョコウィはそれをポジティブに受けとめるとともに、中央からジャカルタへの予算配分にさらなる配慮を求めた。

先週、ユドヨノから「LCGCは個人向けではなく、村落での交通手段を想定し、しかも電気自動車やハイブリッド車だったはず」との発言が飛び出した。もともと、LCGCは個人向けと村落交通手段の2本立てと認識していた産業大臣や日本の自動車メーカー関係者は驚いたが、明らかに、ジョコウィのLCGC批判を念頭に置く言い訳めいた発言である。

他方、ユドヨノが党首を務める民主党は、ジョコウィや彼の所属する闘争民主党への接近を試み始めた。ジョコウィ批判を繰り返した党幹部はユドヨノから叱責(しっせき)され、民主党内に批判を控える雰囲気が現れた。また、11月13日に開催された全国婦人会セミナーで、アニ大統領夫人は、歴代唯一の女性大統領だった闘争民主党のメガワティ党首を褒めたたえた。汚職問題で存亡の危機にある民主党が、生き残りを模索する姿でもある。

ジョコウィ自身は、大統領選挙へ立候補するそぶりをまだ何も見せておらず、山積する首都ジャカルタの問題に集中する姿勢を崩していない。にもかかわらず、世論調査で大統領候補として常に人気トップのジョコウィに対して、大統領であるユドヨノを含めた政治家が気を使っている。ウィバワはユドヨノからジョコウィへ、その空気を人々は読み始めている。

【インドネシア政経ウォッチ】第63回 国際収支安定のための外資規制緩和(2013年11月14日)

今年は3年に1度の投資ネガティブリストの改訂が行われる年である。しかし、当初、10月ごろと見られていた改訂リストの発表は遅れ、年末になりそうだ。外資規制を緩和したい経済調整大臣府や投資調整庁と、外資規制を強化して国内企業の育成を目指したい各省庁との間で、さまざまな駆け引きが行われている様子である。

昨今の厳しい経済状況で、改訂リストはより規制を緩和する方向へ向かいそうだ。何よりも今、政府に求められるのはマクロ経済の安定であり、軟化する通貨ルピアのしなやかな防衛である。そのためには、国際収支の安定が不可欠であり、経常収支の赤字を埋め合わせる資本収支の黒字が必要になる。そして、出入りの素早い証券投資よりも直接投資の増加が最重要になる。国際収支の安定のためにこそ、外資規制緩和が必要となるのである。

先週、ネガティブリスト改訂の内容が一部明らかにされたが、大きく2つの注目点がある。第1に、事業効率化のために外資を活用するという点である。なかでも、空港・港湾の管理運営に100%外資を認めるなど、なかなか進まないインフラ整備・効率化で外資を活用する意向が示された。インフラ投資に参入したい外資は多く、歓迎されよう。

第2に、輸出指向型外資をより重視したことである。消費活況の続くインドネシア国内市場を目指す外資よりも、インドネシアを生産拠点とし、輸出することで国際収支の安定に寄与する外資を求めている。輸出指向型外資への優遇策は、1980年代後半~1990年代前半に採られ、労働集約型産業が発展したが、その後競争力は低下した。今後の輸出産業としては二輪車・自動車と油脂化学が期待される。

早速、識者からは経済における外資シェア拡大への危惧が現れた。しかし政府は、外資への依存度を高めるというより、国内企業に外資との競争を促そうとしているようである。インドネシアの自信の表れといえるが、国内企業がその意図を汲み取って行動できるかが課題である。

【インドネシア政経ウォッチ】第62回 暴力的社会団体の復権(2013年11月7日)

暴力的社会団体を政府・軍高官が擁護する発言が相次いでいる。たとえば、10月24日、ガマワン内務大臣が「イスラム擁護戦線(FPI)は国家の財産である」と発言して政府との協力関係を促して以降、FPIの活動が活発化している。それまで、暴力的社会団体は社会悪として取り締まる方向だったのが、急反転した印象である。

10月27日は、インドネシア独立の源泉である「青年の誓い」が発せられた記念日である。この日、陸軍戦略予備軍(コストラッド)のガトット司令官は、パンチャシラ青年組織(プムダ・パンチャシラ=PP)に対してパンチャシラ(建国5原則)擁護の前線に立つよう求めた。同時に「多数意見が常に正しいとは限らない」として現行の民主主義への疑義を示し、「軍は政治に口を出さず」という原則を破ったとして物議を醸している。

PPは1981年にスハルト大統領(当時)と国軍の後押しで設立された自警武闘集団である。愛国党という自前の政党を持つ一方で、組織の上層部はゴルカル党幹部でもある。

PPは早速、事件を起こした。「青年の誓い」の日の数日後、EJIP工業団地で最低賃金引上げを求める金属労連のデモ隊と衝突し、8人が負傷、バイク18台が破壊される事態となった。工業団地では、エスカレートする労働組合デモに対抗する自警団を企業側が組織しており、そこへPPが入ってきた。廃棄物処理業者の多くはPPに属しており、デモによる工場の操業停止は彼らにとって死活問題となるのである。

組合側は経営者側がPPを用心棒にしたと批判するが、そう言われても仕方がない。実際、労働組合連合体のひとつ、全インドネシア労働組合(SPSI)は分裂し、その一方のトップをPPのヨリス議長が務める。ヨリスは「SPSIはインドネシア経営者協会(Apindo)と協調し、過激な労働組合デモに対抗する」と2012年11月に宣言している。

ゴルカル党はPPを通じてSPSIの動員力を手に入れた。来年の総選挙・大統領選挙を前に、暴力的社会団体の利用価値が再認識されている。

【インドネシア政経ウォッチ】第61回 鉱石輸出、条件付きで延長へ(2013年10月31日)

エネルギー・鉱物省のタムリン鉱物石炭局長は10月23日、条件付きで鉱石輸出許可を2017年1月14日まで延長する意向を明らかにした。

政府は、鉱石・石炭採掘法(法律09年第4号)と実施規則である政令12年第24号において、同法施行後5年以内、すなわち14年1月までに、未加工・未製錬鉱石の輸出を禁止し、国内に製錬工場の設置を促して、鉱業部門の川下産業を育てる計画だった。しかし現実には、14年中に建設が完了する製錬工場はなく、川下産業育成という方針を堅持しつつも、現実的な対応を取らざるを得なくなった。

鉱石輸出許可の条件には、製錬工場建設に関する事業化調査を終了していること、製錬用鉱石の備蓄が30年分以上あること、製錬工場建設の投資額に応じた保証金を国内銀行口座に置くこと、などが想定されている。仮に製錬工場が建設されなかった場合、政府が保証金を没収し、製錬工場の建設に充てる。これらの条件は、政令12年第24号の改訂およびエネルギー・鉱物大臣令で定める。

タムリン局長によると、国内で鉱業事業許可を持つ企業は数千社あるが、上記の輸出許可の条件を満たす企業は125社。うち97社はすでに製錬工場の建設に関する事業化調査を行っており、28社は工場建設に着手済みである。

実業界はこの発表を歓迎している。発表の前日、インドネシア商工会議所(カディン)は、川下産業育成方針を支持しつつも、早急な鉱石輸出禁止は貿易収支の悪化を招くとして、製錬工場の建設を進める企業に鉱石輸出を認めるべき、との見解を表明しており、結果的に政府が即応する形になった。

ただし、鉱石の国際市況が低迷する中で、製錬工場建設への資金調達が難しくなり、それが事業化調査に影響を与える可能性もある。逆に、市況がよくなれば、製錬工場建設よりも鉱石輸出が再び選好され得る。インドネシアにとっては、多少遅れても、今が川下産業育成の好機といえる。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20131031idr022A

※これらの記事は、アジア経済ビジネス情報を発信するNNA(株式会社エヌ・エヌ・エー)の許可を得て掲載しております。

 

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