2013年第1四半期の投資は依然好調

4月22日にインドネシア投資調整庁(BKPM)から発表された2013年第1四半期(1〜3月)の投資実施額は、前年同期比30.6%増の93兆ルピア(約95億ドル、約1兆円弱)となった。投資実施総額の70%を外国投資が占めた(65.5兆ルピア)が、伸び率では国内投資が前年同期比39.6%増となり、外国投資(同27.2%増)を上回った。

カティブ・バスリBKPM長官によると、国内投資の急伸は旺盛な外国投資の影響を受けている。すなわち、外国投資が増えるとともに、その外国投資へモノを供給する、あるいは外国投資による製品に関係する国内投資が増える構造になる。カティブ長官は、自動車産業への部品サプライヤーの例を挙げて、外国投資の増加が国内投資へスピルオーバー効果をもたらしていると解釈する。

国内投資の大きかった業種は、鉱業(6兆ルピア)、倉庫・通信業(6兆ルピア)、金属・機械・電機(1.8兆ルピア)、電気・ガス・水道(1.7兆ルピア)であった。

国内投資の大きかった地域は、東ジャワ(9兆ルピア)、東カリマンタン(4.8兆ルピア)、南カリマンタン(3.4兆ルピア)、北スマトラ(2兆ルピア)、ジャカルタ(1.9兆ルピア)の順である。

一方、外国投資の大きかった業種は、鉱業(14億ドル)、化学・薬品(12億ドル)、金属・機械・電機(10億ドル)、輸送機器(9億ドル)、製紙・印刷(6億ドル)であった。

外国投資の大きかった地域は、西ジャワ(13億ドル)、バンテン(11億ドル)、パプア(8億ドル)、東ジャワ(6億ドル)、リアウ(6億ドル)の順である。

外国投資の大きかった国は、シンガポールを抜いて日本(12億ドル)がトップになった。
日本に続くのがアメリカ(9億ドル)、韓国(8億ドル)、シンガポール(6億ドル)の順である。

やはり、日本からの投資、とくに自動車関連の投資がここに来て、投資全体のなかで相当に大きな地位を占めていることが改めて分かる。なお、日本からの自動車関連投資については、別稿として考察してみたいことがある。

BKPMによる2013年通年の投資実施額の目標は390.3兆ルピア。その意味では、幸先のよいスタートを切ったといえるかもしれない。しかし、これが第2四半期にも続くかどうかは、決して楽観はできない。

たとえば、2013年2月の投資財の輸入は前月比 1.59%減となった。カティブ長官は、投資財輸入減少が今後も続くようならば、投資実施にも影響が出てくると懸念する。

インドネシアの工業団地は民間主導

日本からの企業投資が増えるにつれ、工業団地の用地不足が問題視されている。用地不足に伴い、土地価格も急速に値上がりしている。

政令2009年第24号第7条に基づき、新規製造業投資が立地する場合には必ず工業団地に立地することが定められている。ただし、(1) 原料や生産過程の関係で特別の場所に立地する必要がある場合(セメント、肥料、製紙、造船など)、(2) 中小企業の場合、(3) まだ工業団地のない県・市の場合や工業団地があってもすでに空きがない場合、には、工業団地以外への立地が認められる。

工業省によると、1兆ルピアの投資は通常12.5haの工業団地用地を必要とする。2011年時点での工業団地の販売用地面積は1,247.84haで、外国投資・国内投資の製造業部門への投資額は計99.64兆ルピアであった。

現段階で工業団地の空き用地面積は7,911.98haであり、今後、製造業投資については、2013年中に2,372.59ha、2014年に2,847.10ha、2015年に3,416.53haの新規用地需要が見込まれている。すなわち、今から工業団地を造成・拡張していかないと、ほどなく工業団地は一杯になってしまう。

工業団地の造成・拡張を急いで進めていかなければならないのだが、そのネックとなっているのが、インドネシアの工業団地開発が民間主導であることである。インドネシアでは、国営の工業団地面積は全体のわずか6%にすぎず、残りは民間企業による工業団地である。

他方、他のアジア諸国では、工業団地整備の主役は政府である。工業団地に占める政府系の比率は、(必ずしも年代が同じではないが)台湾90%、シンガポール85%、日本85%、マレーシア78%、 韓国70%、とされている。実は、インドネシアも1989年までは工業団地はほぼすべてが国営だった。その後、工業団地建設が外資を含む民間へ開放され、インドネシアでの工業団地建設は民間主導で進められていった。

そして、かつて建設された国営工業団地の設備が民間よりもはるかに劣っていることが明らかになってしまった。敷地の半分を、工場ではなく、倉庫が占める国営工業団地も存在する。

工業団地は、インドネシアのどこでも同じ訳ではない。先に挙げた工業団地の空き用地面積は、スマトラ、スラウェシ、カリマンタンなどジャワ島以外のものを含めた面積であり、そうしたところへジャボタベックと同様の製造業が投資が行われるわけではない。そう考えると、工業団地の用地の逼迫度はなおさらのこと高まる。

西ジャワ州カラワンなどでは、全国有数の豊かな米作地帯の水田が工業団地に取って代わられたところもある。現状では、水田の単収を上げることで生産量を維持しているが、工業団地の造成とともに、水田面積の減少傾向は否めない。一方、地主は地価上昇を見越して、工業団地用に土地をなかなか手放さない傾向もある。

不動産事業としての側面を強く持つインドネシアにおける民間主導の工業団地建設は、まだしばらくは活況を呈していく。とくに、集中の弊害が懸念され始めたジャカルタ周辺(ジャボタベック)から、東ジャワ州(州都・スラバヤ)や中ジャワ州(州都・スマラン)などへ、工業団地建設の波が広がっていくものと見られる。

中ジャワへの企業移転

渋滞、賃金高騰、労働争議。ジャカルタ周辺で投資環境が急速に悪化しているとの認識が一部企業の間に出てきた。韓国やインドの企業のなかには、インドネシアからバングラデシュやミャンマーへの工場移転を考える企業もあるという。

インドネシア政府としては、何とか企業のインドネシアからの撤退、海外への移転を防ぎたいと考えている。「もはや低賃金労働を売り物にする国ではない」と言いながらも、労働集約型企業を引き留めるには、ジャカルタ周辺以外の場所を移転先としてプロモーションしなければならない。

その一つとして、最近よく名前の挙がるのは、スラバヤを中心とした東ジャワ州と、スマランやソロを含む中ジャワ州である。両州とも人口は約3500万人、豊富な労働力を抱えている。とくに、中ジャワ州は最低賃金がジャカルタ周辺の半分程度、最高のスマランでも1ヵ月120万ルピア程度であり、場所によっては同80〜90万ルピアの県・市もある。メディアを通じて、労働集約型企業には、「海外へ移るよりも中ジャワへ」というメッセージを流し始めている。

中ジャワ州投資局によると、2012年中に投資申請をした企業は40社あるが、そのうちの60%が拡張投資で、ジャカルタ周辺の既存工場に付加したものが大半だった。実際に投資を実施したのは40社中19社に留まる。

移転を計画している企業の多くは繊維産業で、中ジャワの人材は手先が器用で根気強く、しかも労働コストが安い、というのが魅力のようである。実際、ジャカルタ周辺の繊維計の工場で多くの中ジャワ出身者が働いているという。

変わったところでは、韓国系のカツラ・付け睫毛を製造する工場が中ジャワ州ボヨラリ県などに集積し始めている。工業団地がないところへの進出だが、集積し始めたことで、韓国政府の支援で、工業団地建設計画が進められている。もっとも、まだ韓国系だけで工業団地を埋めることは難しいので、韓国貿易公社(Kotra)関係者は「今後は日系企業にも立地して欲しい」と呼びかけている。

注目される中ジャワだが、州内で工業団地がまだ6ヵ所しかないことがネックである。うち5ヵ所は州都スマラン周辺、1ヵ所は南岸のチラチャップにある。しかも、スマラン周辺はすぐに入れる空き区画が工業団地にない状態である。このため、スマランの西側のクンダルと東側のデマックに新工業団地の造成が進められている(いずれもスマランから車で30分圏内)。

中ジャワについてはまだまだいろいろな話題があるが、引き続き、このブログで紹介していきたい。

2013年の経済成長見通し

インドネシア政府関係者は、2013年のインドネシアの経済成長率について、現段階でどのような見通しを持っているのか。

公式の政府による2013年経済成長率目標は、今のところまだ6.6〜6.8%である。識者によれば、ポイントは対米ドルレートが1米ドル=9700ルピアよりも下がるかどうか、という点にある。政府内ではもちろん、レートがさらにルピア安に振れることを想定したシナリオもあるようだ。バンバン・ブロジョヌゴロ大蔵省財政政策庁長官代行は6.3%というシナリオがあることを認めているほか、アルミダ国家開発企画庁長官は6.4%程度が現実的という見方をしている。

日本についていうと、対円のルピア・レートは、円安の進行にともなって、大幅なルピア高に転じている。昨年は1円=120ルピア前後で動いていたのが、本日朝時点では1円=102ルピア程度となっている。昨年、実行された投資が今年、原材料や設備を日本から輸入する、というケースならば、円高から円安への転換をうまく活用できるかもしれない。しかし、これからの日本からの投資は、昨年よりもコストがかかるため、相対的に不利にならざるをえない。

インドネシア国内で懸念されるのは、前に本ブログでも述べた輸出減・輸入増による経常収支赤字、ガスも含めたエネルギー供給に加えて、ここ数ヶ月顕著となっているインフレ傾向である。ここ数年安定してきた消費者物価上昇率が、かなり上昇へ転じてきているからである。経常収支赤字、ルピア安、インフレ懸念。これらは、長年にわたって、インドネシア経済の構造的問題とされてきたものだが、かつて懸念することのなかったエネルギー問題がこれらに加わっているのが今の特徴である。

さらに、日本についていうと、このようなインドネシアに対して円は多くの場合、対ルピアで円高だったのが、今は円安となっている。

国内消費需要は、まだある程度の勢いは維持しており、政府は、今年は昨年以上の投資流入を期待している。とくに、近い将来に輸出向け生産を計画している製造業投資を歓迎している。これによって、国際収支上の輸入圧力を抑え、ルピア安にある程度の歯止めをかけたいのである。

2015年のASEAN市場自由化を控えて、インドネシアは製造業における競争力強化に赤信号が灯り始めており、政府は性急に何らかの方策を採らなければと焦っている様子がうかがえる。

2013年のインドネシア経済は、経済成長率の数字以上に、新たな制約事項も加味しながら、インドネシアが本当に経済構造上の問題を克服するきっかけをつかめるかどうかが問われる試練の年となる。

そして、実は、日本からの製造業投資のパフォーマンスがその点に関わる一つの大きなカギを握るような気がしている。投資実施における外国投資の比重が高く、その製造業が二輪車や自動車など、労働集約型ではない次の高付加価値製造業への橋渡し役を果たすものだからである。

日系の製造業投資は、その意味でインドネシア経済における「お客さん」ではなく、「当事者」「アクター」の一つであるという意識をもってもらうとともに、そのような観点から、インドネシア政府に対して、投資環境改善要求を行なっていく必要があると考える。

2012年経済実績のおさらい

すでに、2013年2月時点で発表された数字だが、備忘録として、2012年1年間の経済実績の数字を下記に書き留めておく。

<GDP成長率>
2012年は目標の6.5%を下回る6.23%。

<貿易>
2012年通年の輸出は1,900.4億ドル、輸入は1,916.7億ドルで、貿易収支は16.3億ドルの赤字を記録。石油ガスが59.9億ドルの赤字、他方、非石油ガスは39.6億ドルの黒字。
貿易赤字の大きかったのは中国(81億ドル)、タイ(58億ドル)、日本(56.4億ドル)。ASEAN全体との貿易も4億5540万ドルの赤字。
輸出の61.1%は工業製品。

<観光客>
2012年通年の観光客数は前年比5.16%増の804万人。2012年の観光による外貨収入は前年比5.81%増の91億ドルに達した。
2012年通年の航空利用者数は、国内線が前年比5.87%増の5450万人、国際線が同9.54%増の1190万人。
海運では、旅客数は前年比8.68%減の690万人だが、貨物量は同10.61%増の2億950万トン。
鉄道では、旅客数が前年比1.43%増の2億220万人、貨物量は同15.56%増の2360万トン。

<製造業>
2012年の大中工業生産の成長率は4.12%、小・零細工業生産のそれは4.06%。

<消費者物価上昇率>
2012年通年では前年比4.30%増となり、2011年通年の3.79%増よりは若干上昇したが、比較的低い水準を維持。

<直接投資>
外国直接投資(PMA)が前年比26.1%増の245億ドル、国内直接投資(PMDN)が同21.3%増の92.2兆ルピア。
日本からの投資は前年比67%増の25億ドルで、国別ではシンガポール(49億ドル)に次いで第2位。韓国からの投資は19億ドルだが、2012年第4四半期に限ると、韓国が国別で2位。
外国直接投資の17%(43億ドル)は鉱業部門へ。増加率が最も高かったのは化学・薬品の前年比86%増(28億ドル)。
外国直接投資の立地別では、西ジャワが42億ドル、ジャカルタが41億ドル、バンテンが27億ドル、東ジャワが23億ドル、東カリマンタンが20億ドル。ジャワ島に全体の56.1%。

<自動車・二輪車>
2012年のインドネシア国内での自動車販売総数は111万6230台。また、2012年のインドネシアからの自動車輸出はCKDを含めて27万3490台。
2012年のインドネシア国内での二輪車販売台数は706万台(2011年は801万台)。

輸出の減退、輸入の増加による経常収支赤字を、直接投資・証券投資の流入による資本収支黒字で補って、何とか国際収支(総合収支)全体を保っているという状態。この構造は、かつて、石油ガス依存から脱却しようとしていた1980年代〜1990年代前半のインドネシアの国際収支構造に似ている。あのときには、通貨ルピアが過大評価されがちで、一気にルピアを切り下げたことが何度かあった。現在は、そのようなドラスティックな措置をとれる状況にはなく、中銀が懸命に為替介入を試みながら、ルピアの変動をできる限り緩やかに調整しようと試みている。おそらく、対ドルでのルピア下落はある程度避けられないであろう。

また、経済が発展するにつれて、国内産業のエネルギー需要が高まっている。価格高騰かつ環境負荷の大きい石油から天然ガスへの転換がインドネシア国内でも進んでいるが、ガス田開発の遅れと供給体制の不備などで、北スマトラなど一部の地方ではガス供給が逼迫している(昨年問題となった東ジャワのガス供給逼迫は改善の方向にある)。このため、インドネシアにおいても、石油に加えて、中東地域で輸入向け天然ガスの確保などが始まっている。

自動車や二輪車の販売台数が増えれば、ガソリン需要も増える。インドネシアにはガソリン向け石油精製施設の整備が遅れており、輸入に依存している。このため、自動車や二輪車が増えるとガソリン輸入も増え、経常収支を圧迫することになる。加えて、2014年へ向けた政治的理由から、ガソリン向け補助金の削減が難しくなっており、2013年も財政的にも厳しい状況が続く。

経常収支赤字とエネルギー供給。この二つが、インドネシア経済の持続的発展の鍵を握る重要なファクターとなっている。

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