スラバヤ出張(2016年12月7〜11日)

2016年12月7〜11日、インドネシア・スラバヤへ出張しました。

今回の出張は、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES: Institute for Global Environmental Strategies)が実施する「アジア地域における地域資源ベースSCP(持続可能な生産と消費)イニシアティブの分析ならびに政策的支援の検討(事例研究)」の準備調査のお手伝いでした。

この調査は、アジアの都市部、都市近郊での持続可能な消費に関する取り組みを効果的に支援する政策パッケージを提案することを目的としているそうで、インドネシアにおける先進環境都市と自負するスラバヤ市において、持続可能なコミュニティ・イニシアティブを探るうえで参考となりそうなインプットを得たいということでした。

今回は、様々な市民活動のプラットフォームを目指して活動している若者グループであるAyorek / C2O図書館、エコロジカル・サニテーションを研究している私立スラバヤ大学環境研究センター、マングローブ保全活動とバティックなどへのマングローブ活用産品振興・コミュニティ開発の両立を進めるグループBatik SeRuの3カ所を案内しました。

この調査が今後、どのように展開していくかは分かりませんが、スラバヤの事例が単なる事例で終わらず、アジア各地での同様の事例と横に結び付き合いながら、新しい動きが生まれてくることを期待したいと思います。

今回で、本当に2016年のインドネシア出張は最後となります。

 

【インドネシア政経ウォッチ】第141回 インドネシアの黄金の島で起こっていること(2015年11月12日)

「東方見聞録」を記したマルコ・ポーロには「黄金の島ジパング」という記述があり、その島は日本を指すと言われる。だがそれは、本当はインドネシア東部地域の島々なのかもしれない。

最近、インドネシアの日刊紙「コンパス」や英BBCなど国内外メディアがマルク州ブル島での住民による金採掘の現状をレポートした。ブル島の金採掘は 2012年に始まり、急速に拡大した。農産物価格下落に直面した農民が耕作をやめて金採掘を始めたのを皮切りに、学校の先生も金採掘に走ったため、学校教育が頓挫(とんざ)する事態となった。

金採掘の横行の陰で、採掘中の事故死に加え、採取した金の純化に使用する水銀による中毒や汚染の問題が深刻化していた。なかには、毛髪中水銀濃度が18 ppm(ppmは100万分の1・健康な日本人女性で約 1.6 ppm)と高い住民があり、水銀中毒らしき症状の住民も見られるが、現場では「普通の病気」と放置されてきた。

専門家によれば、土壌や河川も水銀で汚染され、空気中に放出された水銀を吸い込んだり、食事を通じたりして住民の体内に水銀が蓄積される。さらには、政府指定の米作地帯であるブル島から汚染米がインドネシア東部地域へ広く移出される可能性がある。

金採掘は、手っ取り早い収入機会を住民に提供したが、その代償は、環境破壊と住民の健康悪化だった。ほとんどが所得の低い住民による違法採掘であり、停止させるのは難しい。

5月にブル島を訪問したジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、違法採掘場の即時閉鎖を命じたが、行政の動きは鈍い。金採掘はすでに役人や軍・警察の利権となっており、取り締まりが本気で進められる気配はない。

これはブル島に限った話ではない。「どこでも金が出る」と言われるスラウェシ島やカリマンタン島では、ブル島より10 年以上前からゴールド・ラッシュが起こっていた。採掘は幹線道路から見えない隠れた場所で行われ、あちこちで水銀汚染による不毛地が拡散している。インドネシアの黄金の島は、違法採掘という深刻な状況を前に、輝きを急速に失いつつある。

 

(2015年11月10日執筆)

 

スラバヤを「桜」の街に

日本は今、東京を始め各地で桜が満開になっているようだが、インドネシア人の知人たちの間で、なんとスラバヤの「桜」が話題になっている。

雨季が始まる頃に咲く、スラバヤの「桜」。白、ピンク、黄色の花が咲く。花が咲き終わってから葉っぱが出てくるため、「桜」と同じだー、と言われているのである。

インドネシアの週刊誌『テンポ』の以下の写真ページを参照いただきたい。

Indahnya ‘Bunga Sakura’ di Surabaya

以下の日本語ウェブサイトでも、スラバヤの「桜」のことが取り上げられている。

【インドネシアで桜の木?】スラバヤに咲き誇る「桜」の美しさ

このスラバヤの「桜」、実は桜ではない。桜はバラ科サクラ亜科サクラ属で学名がPrunus, Cerasusであるのに対して、スラバヤの「桜」はタベブイアと呼ばれ、ノウゼンカズラ科タベブイア属の花を咲かせる樹木である。

スラバヤは緑の多い街である。よくみると、ただ単に緑が植えられているのではなく、花の咲く樹木が街路樹に植えられ、また、道路に面した公園や花壇には、様々な花が計算された配置に基づいて植えられていることが分かる。

そんな街路樹として、主要な通りに植えられているのが、このスラバヤの「桜」である。スラバヤ市のリスマ市長は「桜を愛でるなら、日本に行かずとも、スラバヤへ来ればいい」と言いながら、積極的にタベブイアを植えてきた。

本物の日本からの桜でないことを残念がる方もいるかもしれない。しかし、日本の桜の美しさをよく知っているからこそ、スラバヤにもそんな「桜」をたくさん咲かせてみたい、「桜」並木のある街にしたい、とリスマ市長は思ったのだろう。

スラバヤ市は、昔のゴミ最終処分場跡を公園化し、そこに「桜」を始めとして様々な花を植える計画を進めている。その計画に対して、国営BNI銀行が30億ルピア(約2700万円)を寄付すると申し出た。以下がその記事である。

BNI Kucurkan 3 Miliar untuk Taman Sakura Surabaya

リスマ市長は、スラバヤを「桜」の咲き誇る街にしたいのだ。街としての美観+潤いのある街にしたいのである。やはりこの市長は只者ではない。

世界中の市長を評価する『シティメイヤーズ』サイトは、リスマ市長を2014年2月の「メイヤー・オブ・ザ・マンス」に選んだ(英文記事はこちらから)。

今年も日本で花見ができなかった。でも、スラバヤが「桜」の咲き誇る街を目指すという話を聞いて、なんだかとっても嬉しくなった。

スラバヤ生活も4月1日から2年目に入った。この街がどんどん面白くなってきた。

スラバヤの街なかに咲く花の写真を少しずつ撮り始めた。「桜」はまだだが、花の話題にしては殺風景なので、花の写真をひとつ載せておく。

 

マラン市のゴミ銀行(連絡先追加)

3月1日、たまたま国際会議でスラバヤを訪れていた、前の職場の後輩研究者にお願いして、マランへのフィールド・トリップに同行させてもらった。彼はバンドン工科大学のエンリ教授からの誘いで、マラン市のゴミ銀行(Bank Sampah Malang: BSM)を見学に行くことになっていた。

マラン市のゴミ銀行の話は、2013年11月30日のジャワ・ポス・グループによる「地方自治賞」受賞式の際に、経済発展部門でマラン市が最優秀賞を取った際の受賞理由の一つに挙げられていた。いずれは見に行きたいと思っていたので、今回はまたとないチャンスと思ったのである。

マラン市のゴミ銀行は2011年に設立されたが、市民からはゴミ処理場を勘違いされて、最初は設立反対の声が多かった。市内に適当な場所が見つからず、結局、市営墓地の管理事務所に設立することとした。この管理事務所は、以前、オランダ植民地時代には遺体安置所だったということだが、ここを改修して、事務所として使うことになった。

ゴミ銀行は70種類のゴミに分別し、それをいくらで買い取るかの価格表が用意されている。ゴミ銀行の利用者は、ゴミ銀行に直接ゴミを持ち込むこともできるようだが、一般的には、ゴミ銀行の職員が出向いた際、そこへゴミを持ってくることになる。ゴミは、できれば予め、70種類のゴミ分別表に基づいて分別したうえで持参し、そこでゴミ銀行員の係員が帳簿をつける。そこでの記録に基づいて、各預金者のゴミ預金通帳に記載が行われ、「どんなゴミをどれだけ持ち込んだことでいくらお金に代わったか」が一覧表になって示される。

このゴミ銀行の預金を使って、コメや食用油などスンバコと呼ばれる生活必需品を購入したり、電気料金を支払ったりすることができる。「スンバコを買って、ゴミで支払いましょう」と書かれている。

一般には、地域ごとに預金者個人をひとまとめにしたグループが作られ、預金者個人の通帳に加えて、グループ全体の通帳も作られる。グループ全体の通帳に記載される額は、各預金者個人の通帳に記載された額の合計額になる。1グループは20人以上の預金者で構成される。

現時点で、320グループ、175の学校、グループに属さない400人、30の組織がゴミ銀行の顧客となっている。

ゴミ銀行は、預金者から集めたゴミを業者や工場などへ売って利益を得る。昨年の年間売上額は2億ルピア、純利益は2000万ルピア程度出ている。

ゴミ銀行では、ゴミを使ったバイオガスの実験も試みている。

また、ミミズを増やす試みもしている。

ゴミ銀行の裏は、様々なゴミの分別場となっていた。

ゴミ銀行の連絡先は以下のとおり。

Bank Sampah Malang (BSM)
Jl. S. Supriyadi No. 38A, Malang
Tel. 0341-341618, Fax. 0341-369377
Email: banksampahmalang@yahoo.com
Contact Person: Bapak Rahmat Hidayat, ST (Direktur BSM),
0812-3521-4545, 0341-7779912.

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今回は、ゴミ銀行以外に、住民主体で運営しているゴミ分別場や、環境に配慮したゴミ処理場も見学した。

住民主体で運営しているゴミ分別場はムルヨアグン村にあり、住民による1日30立方メートルものゴミのブランタス川への投棄が問題となり、2008年に村長が川へのゴミ投棄を禁止した。そこでの対策ということで、村にゴミ分別場を作り、無機ゴミの食べかすを家畜の餌に、それ以外は処理して業者へ売るほか、有機ゴミをコンポストにするなどの対策をとった。毎朝、ウジ虫を収集して養魚池にまくことで、ハエの発生を95%減少させたという。

政府からは、まず畜産局からヤギが11頭与えられ、糞を堆肥作りに活用する。乳は従業員たちで飲む。水産局からナマズの稚魚が提供され、残飯などを与えて、ナマズを養殖する(写真下)。

このゴミ分別場は、現在、7600世帯からのゴミを1日64立方メートル処理しているが、処理能力に限界があるため、規模の拡大は考えていない。すべての作業は1日で終わらせる。77人が雇用されている。

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最後に訪れたのは、マラン県のタランアグン・ゴミ処理場で、ここは観光も兼ねたゴミ活用の学習施設と銘打っている。

実際、ゴミから発生したメタンガスをコンロや電灯などに使っている。空き缶を使ってブロックで仕切った簡易なコンロ「ノナク」(私の彼女、という意味)は面白かった。

ゴミから出た汚水を植物用にまいたりもしており、その成果なのか、発育が良いものがあるということだった。

ゴミ処理場へ向かう道には、様々な植物が植えられ、緑の多い、きれいな公園のようである。前の職場での後輩の研究者は、様々なゴミ処分場を訪問しているが、こんなきれいなところは初めてだと驚いていた。

ゴミ処理場にパイプが引かれ、そこを通じてメタンガスが実験棟へ送られている。

まだまだ改善・改良を余地はあるだろう。もしかしたら、日本の技術を組み合わせると、もっと面白いことが起こるかもしれない。

ともあれ、東ジャワ州には、こうしたゴミを生かす試みが様々に行われている現場がある。インドネシア発の様々な試みをじっくりと注目していきたい。

国内唯一の産業廃棄物向け最終処分場(訂正済)

ジャカルタ出張中の5月8日、午後から日経BPのシンポジウムに出席する前に、西ジャワ州ボゴール県チルンシにあるPT. Prasadha Pamunah Limbah Industri (PPLI) を訪問した。この企業は、日本のDOWAエコシステムの関連会社である。

企業自体は1994年に設立され、元々はアメリカのWMI社の子会社だった。それが2000年にMAEH社にとって代わり、2009年にはそれをDOWAエコシステムが買収し、日系企業となった。

このPPLI社は、産業廃棄物処理を行う企業である。産業廃棄物は、石油ガスなどのプラント現場や工場などから出る金属や化学物質など有害な廃棄物であり、家庭ごみなどの一般廃棄物よりもはるかに危険で有害な物質を含んでいる。このため、特殊な処理を施して無害化して最終処分場に埋めたり、一部は燃料化するなどしている。

インドネシアの都市部では近年、ゴミ問題が深刻な問題となっているが、それは一般廃棄物の問題であり、より有害な産業廃棄物についての関心はまだ大きくないのが現状である。

実際、インドネシアには産業廃棄物処理施設が何ヵ所あるのか。焼却や(廃油等の)再利用施設ほか、中間処理施設は複数存在するそうだが、最終処分場は、このPPLI社1ヵ所なのである。

ちなみに、日本での産業廃棄物処理施設は、中間処理施設が1万9417ヵ所、最終処分施設が2047ヵ所あるとされる(こちらを参照)。

PPLI社には、処理される物質の有害度に応じて2種類の最終処分場がある。さらに、ブカシのMM2100工業団地、スラバヤ、ラモンガン、バタムに産業廃棄物を収集する中継基地を設け、このPPLI社の最終処分施設へ産業廃棄物を搬送する専門のトラック部隊を持っている。

顧客のほとんどは、日系企業を含む外資系企業で、インドネシアの地場企業は少ない。有害物質を扱う企業は自社内で産業廃棄物処理をしている。しかし、少なからぬ企業が産業廃棄物として区別することなく、一般廃棄物として処理している可能性が高い。知らぬ間に、有害な産業廃棄物が一般ごみに交じって処理されている可能性が高いということである。

その背景には、PPLI社での廃棄物処理費用が相当に高いこととともに、産業廃棄物の有害性に対する企業や市民の認識がまだ高くないという事情もある。これは筆者の予感であるが、インドネシア各地で、実は産業廃棄物のまずい処理によって健康被害を被り、身体に異常をきたしている人々は少なからずいるはずだろう。しかし、彼らの多くはそうした知識もなく、それが普通の状態だと思っている可能性がある。そのため、いわゆる公害問題として表面化してこない。

環境問題を取り上げるNGOや市民団体は存在する。しかし、その多くは、科学的な調査に基づくデータ準備力が弱く、それが公害問題であることを立証できていない。一部には、住民をネタにして、政府に圧力をかけたり、個人的な政治的利害の材料に使ったりする場合もあり得る。

グローバル化の中で、企業はコスト競争力の強化を求められ、コスト削減を至上命題としている。市民の安全性への関心が低いことに助けられて、本来考えるべき産業廃棄物処理コストが無視される状態をいつまで続けることができるだろうか。そこにこそ、実は政府の役割があるはずなのだが、インドネシア政府は、民間顔負けの短期的な費用対効果重視の姿勢を見せ、民間にできないことを政府でという姿勢が薄い。それは、インフラ整備を民間資金に頼ろうとする姿勢にもつながる。

インドネシアが産業化していく中で、産業廃棄物処理の問題は益々重要性を持ってくる。社会が豊かになるコストを、関係ステークホルダーが適切に分かち合える方向性を明確にすることが求められてくる。