【インドネシア政経ウォッチ】第145回 ジャカルタ・テロ事件の黒幕は誰か(2016年1月28日)

2016 年1月14日の白昼に首都ジャカルタの中心部、サリナデパートやスカイラインビル周辺で起きた爆弾テロ事件は、市民に大きな衝撃を与えた。

警察は当初、シリア在住で過激派組織「イスラム国」(IS)に合流したとされるバフルン・ナイム氏を首謀者と断定し、シリアからテロ資金が送金されていたとも発表した。東南アジアでは「ハティバ・ヌサンタラ」というISの下部組織が活動を始めており、ナイム氏はそのトップの座をフィリピン・グループと競っているという話だった。

ところが、その後の捜査で、ヌサカンバンガン刑務所に収監されているアマン・アブドゥルラフマン服役囚が事件の黒幕として浮上してきた。今回の実行犯の4人が昨年12 月にヌサカンバンガン刑務所でアマン服役囚と面会し、テロを実行すべき時期などに関して指示を仰いだというのである。

アマン服役囚は、2004 年にデポック市の自宅で爆弾事件を起こした後、10 年にアチェでの軍事訓練に関与した疑いで禁固9年の刑を受けた。彼自身が実際にテロを実行したことはないが、彼の教えを受けた信奉者が細胞ネットワークを作ってきた可能性がある。各地での自爆テロ事件では、実行犯の指導者として彼の名前が頻繁に上がった。

警察によると、アマン服役囚は14 年4月にオンラインでIS指導者へ忠誠を誓った。中東では、ISはアルカイーダ系のヌスラ戦線と対立するが、インドネシアでは必ずしも両者は峻別されない。これまでジュマア・イスラミヤなど国内イスラム過激派の支柱とされてきたアブバカル・バワシル師もIS支持を明言している。ただし、アマン服役囚とバワシル師は面識がないようである。

もしそうならば、今回のテロ事件は、国内のISシンパが独自に引き起こし、それをISが後追いで称賛したものかもしれない。今後、国内のISシンパとシリアへ渡ったインドネシア人ISメンバーとの接点がどのような形で現れてくるのか。警察は、シリアからの帰国者への監視強化と国内の細胞ネットワーク摘発に全力を尽くすことになる。

 

(2016年1月28日執筆)

 

【インドネシア政経ウォッチ】第125回 IS共感者の伸長を警戒(2015年3月26日)

3月初め、インドネシアからトルコへのツアー客のうち16人が行方不明となり、その後、シリア国境で彼らがトルコ警察に拘束されるという事件が起こった。16人はトルコからシリアへ入国し、過激派組織「イスラム国(IS)」に合流する計画だった疑いが強いと報じられた。

国家テロ対策庁によると、ISへ合流したインドネシア人はすでに514名を数え、うち7人は死亡、十数人はインドネシアへすでに帰国している。国家警察テロ対策特殊部隊は、先週までに、ISへの渡航をほう助した疑いでジャカルタ、南タンゲラン、ボゴール、ブカシで5人を逮捕したほか、国内の19団体をIS支持団体とみなしている。警察によると、彼らは中スラウェシ州ポソ県を訓練場所とし、2月23日にデポックのショッピングセンターで起きた爆発事件などテロ行為を引き起こし始めた。

ISへ合流する者のなかには、過去にインドネシアでのイスラム国家樹立を目指した反政府主義者の子孫が含まれる。彼らは、2000年代前半にジュマー・イスラミヤ(JI)などの名称で呼ばれたイスラム過激派グループにも関わったが、テロ対策の強化で活動が下火となった後、その代替としてISへの共感を高めた。JIの指導者とされるアブ・バカル・バシル受刑者やポソを拠点とするサントソ・グループなどもIS支持を表明した。

金融取引分析報告センター(PPATK)によると、15年2月時点で、IS関連資金とみられる数十万米ドルの海外資金が中東やオーストラリアから流入したと見られるほか、国内でも、IS支持者のビジネスにより約70億ルピア(約6,500万円)が流れているとみられる。フェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用した巧みな勧誘も盛んである。

政府は、IS共感者が急速に増える傾向があるとして、警察による取り締まりを強化するとともに、IS合流者の旅券取り消しを含むテロ対策法の代用執行政令を準備中である。経済の低迷、所得格差の拡大、揺さぶられるジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権という状況下で、IS共感者の伸長を注意深く見ていく必要がある。