【インドネシア政経ウォッチ】第90回 『人民の灯火』がジョコウィを攻撃(2014年6月26日)

今回の大統領選挙戦の特徴のひとつは、候補を個人攻撃する誹謗・中傷のひどさである。総選挙監視委員会によると、ジョコウィへの攻撃がプラボウォへの8倍に達した。

なかでも、タブロイド紙『人民の灯火』(Obor Rakyat)は、「ジョコウィはキリスト教徒」「米国の手先」「メガワティの操り人形」「実は華人」など、事実を歪曲(わいきょく)した悪意ある記事でジョコウィを厳しく攻撃した。この『人民の灯火』によって、ジョコウィ=カラ組の支持率は約8%下落したと見られる。

『人民の灯火』は、ジャワ島各地のプサントレン(イスラム寄宿学校)へ広範に無料配布された。各プサントレンの住所を把握している宗教省の名簿が使われた可能性がある。 西ジャワ州バンドン中央郵便局から一括で10万袋(1袋10部程度)以上発送されたが、それだけで2億ルピア(約170万円)かかる。ジョコウィ側は、『人民の灯火』を含む自陣営への誹謗・中傷攻撃に約200億ルピア(約1億7,000万円)がつぎ込まれたと見ている。

警察の捜査等により、『人民の灯火』の編集長スティヤディが大統領府地域開発担当特別スタッフだと分かったが、大統領府は関与を強く否定した。スティヤディは先のジャカルタ州知事選挙でジョコウィに敗れたファウジ・ボウォ前知事の選対メンバーで、任期を全うせずに大統領選挙に出たジョコウィへの恨みが動機という。出版資金は自前調達したと言い張るが、誰もそれを信じていない。

攻撃記事を書いたのはダルマワンというベテラン記者で、スティヤディとはかつて週刊誌『テンポ』で一緒だった。ジョコウィを批判するネット媒体『イニラ・ドット・コム』に属し、『人民の灯火』はその系列のイニラ出版で印刷された。ダルマワンは1990年代からイスラム系雑誌等に執筆し、以前からプラボウォ周辺に近かったと見られる。

その規模から見て、『人民の灯火』は相当に組織的な作戦だったとみて間違いない。ジョコウィ側も、誹謗・中傷を否定するタブロイドをプサントレンなどへ配布し始めた。