【インドネシア政経ウォッチ】第113回 パプア・パニアイ県での殺害事件の背景(2014年12月12日)

パプア州パニアイ県で住民の殺害事件が起きた。12月7日夜、無灯火の自動車が丘の上を通った際、それを見た青年たちが無灯火をとがめた。自動車に乗っていた者たちは仲間を連れて引き返し、とがめた青年たちに暴行し、仲間の一人が発砲した。8日朝、500人前後の住民が軍の詰め所や警察署に押しかけ、その際に4人の住民が射殺された。

この事件をきっかけとして、地元のキリスト教指導者の一部が、12月27日にセンタニ県で開催される全国クリスマス祝賀式典へのジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の出席を拒否する声明を発表した。ジョコウィ大統領が事件に対する遺憾の意を表明せず、事態の深刻さを理解していないという理由からである。もっとも、インドネシア・キリスト協会(GKI)は、大統領の出席拒否は個人的な意見にすぎないとして、大統領の出席を歓迎するとしている。

軍や警察は、インドネシアからの分離独立を掲げる自由パプア運動(OPM)が関与した可能性をにおわせているが、GKIはそれを否定している。OPMを持ち出すのは、パプアで何か起きた際に治安当局が採る常とう手段である。それどころか、地元の軍や警察がOPMへ武器や銃器を横流ししているとの報道が依然なされる一方、OPMは単なる犯罪集団にすぎないという見方が警察から出されたことがある。軍や警察に反抗する勢力に安易にOPMというレッテルを貼るケースが頻繁にあることが想像できる。

殺害事件直前の8日未明、事件現場近くの総選挙委員会(KPU)事務所が焼かれるという事件も起こった。大統領選挙結果をめぐる憲法裁判所の審議で、グリンドラ党パニアイ支部長ノベラさんが住民代表として「パニアイ県で投票が行われなかった」と証人陳述したが、選挙結果をめぐる対立が今も未解決な様子である。

パニアイ県では不法な金採掘が盛んに行われ、それを軍・警察が保護していると言われ、それに絡む殺害事件も発生したことがある。ノベラさんも金採掘ビジネスに関わる。パニアイ県での殺害事件の背景には、様々な思惑が絡み合っている。