【ぐろーかる日記】いくつかのウェビナーに参加してみての感想

今週は、9月1日、2日、3日とウェビナーに参加してみました。1日は、インドネシアの英字紙 Jakarta Post 主催の “Land without Farmers” と題するインドネシア農業に関するウェビナー(英語)、2日は、毎月連載しているSBCSインドネシア月報の解説ミニセミナー(日本語)、3日は、ERIAとASEAN事務局主催の食糧と農業に関するウェビナー(英語)、でした。

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マランの国立ブラウィジャヤ大学を訪問(2019年3月14日)

2019年3月14日、東ジャワ州マラン市にある国立ブラウィジャヤ大学経済ビジネス学部を訪問しました。

同学部は現在、自大学講師、民間人、外国人の三者が1セメスター16コマの講座に関わる、三位一体プログラムを実施しています。

今回、この三位一体プログラムに関わる外国人講師になるよう求められました。早ければ、断食月前の来月4月に集中講義を行う可能性があります。

この申し出に対して、当方は感謝を表明するとともに、関心のあるトピックとして、一村一品運動を含む地域開発政策、日本経済社会の現状、コミュニティ・ファシリテーション手法とフィールドワーク、の3つを提案しました。

この機会に、インドネシアの大学生に対して、何らかの有意義な貢献ができることを願っています。

名古屋でインドネシア経済事情講習会(11/9)

2018年11月9日、愛知県立大学主催のインドネシア経済事情講習会において、「2019 年大統領選挙を控えたインドネシア経済」と題して講演しました。このイベントは、2013年から毎年開催されています。

Seminar in Nagoya / 名古屋で講演

In 8 February 2018, I attended the Seminar of Aichi Prefectural University in Nagoya as a speaker to give lecture about current Indonesian economies.

Pada tanggal 8 Februari 2018, saya menghadiri seminar Universitas Prefektur Aichi di Nagoya sebagai pembicara untuk memberikan kuliah tentang ekonomi Indonesia saat ini.
2018年2月8日は、名古屋のウィンクあいちでの愛知県立大学セミナーにて「低位成長のインドネシア経済をどう見るか:インフラ整備へ邁進するジョコウィ政権」と題して講演しました。

【インドネシア政経ウォッチ】第146回 成長率4 . 7 9 % でも政府は悲観せず(2016年2月11日)

中央統計庁は2月5日、2015 年国内総生産(GDP)成長率を4.79%と発表した。現在の成長率は10年不変価格で計算されているが、これに基づいた過去の成長率は、11年が6.17%、12年が6.03%、13年が 5.58%、14年が5.02%と年々低下しており、15年は5%を割り込む結果となった。

産業別GDPの傾向はここ数年変わっていない。すなわち、情報通信、交通運輸、建設、企業サービスなどの成長率が引き続き高い一方、農業、鉱業、製造業などのいわゆる基幹生産部門の成長率が振るわないままである。とくに鉱業部門は、未加工鉱石輸出禁止とそれに代わる製錬施設の準備の遅れにより、マイナス5.08%と経済成長の足を大きく引っ張る結果となっ た。

製造業部門も好調なのは食品加工関連のみで、GDPにしめるシェアも13年の21.03%から14 年は 21.01%、15年は20.84%と減少し続けている。逆に、農業部門は低成長にもかかわらず、GDPシェアを14年の13.34%から15年は13.52%へ増加させた。

15 年の支出別GDPを見ると、輸出入が大きく落ち込むなかで、成長率4.96%の民間消費が主導の構造に変化はない。投資を示す総固定資本形成成長率が14 年の4.12%から15 年に5.07%へ上昇したのは明るい材料ではある。

他方、地域別にみると、輸出向け資源依存の高いスマトラ(3.54%)やカリマンタン(1.31%)の低成長と、バリ・ヌサトゥンガラ(10.29%)、スラウェシ(8.18%)、マルク・パプア(6.62%)など東インドネシア地域の高成長が目立つ。バリ・ヌサトゥンガラの高成長は、14年に未加工鉱石輸出禁止の影響を受けた西ヌサトゥンガラ州のニューモント社での生産回復による。ジャワの成長率は14 年の5.59%から15年は5.45%へ漸減したが、依然として経済全体を下支えしている。

5%を切った15年のGDP成長率だが、政府は意外なほど悲観していない。15 年第4四半期GDPは前年同期比5.04%となり、第2四半期の4.67%、第3四半期の4.73%から徐々に回復へ向かう兆候があるためである。政府は、この回復傾向が継続するとして、16年は5%台前半の成長を見込んでいる。

 

(2016年2月11日執筆)

 

【スラバヤの風-01】ジャワ島で最も成長率の高い東ジャワ

交通渋滞、物流遅滞、最低賃金上昇、工業用地不足。ジャカルタ周辺でのビジネス環境が急速にコスト高、非効率になってきたという声をよく聞くようになった。2013年1月にジャカルタが大洪水に見舞われて以降、インドネシア政府・財界が明示的にジャカルタ周辺から他地域への産業移転を促す発言をしている。ジャカルタ周辺への一極集中を和らげ、他地域での経済発展を促進させる動きが本当に起こるのだろうか。

ジャカルタ周辺の次はどこか。まず、思い浮かぶのが、国内第二の人口を持つスラバヤ(311万人)を州都とする東ジャワ州であろう。人口3747万人を擁する東ジャワは、実はジャワ島で最も成長率の高い州である。

経済規模は884兆ルピア(2011年)であり、全国の14.7%、ジャワ島の25.4%を占める。 経済成長率は2009年以降、ずっと全国を上回り、2011年は7.2%(GDP 6.5%)、2012年は7.3%(同6.2%)となった。産業別(2012年)では、商業・ホテル業(10.1%)、運輸・通信業(9.5%)、金融業(8.0%)、建設業(7.1%)が高成長で、製造業(6.3%)が追う。

需要面では、東ジャワから他州への移出が20.5%と大きく伸びる一方、 移入も12.6%と急増した。州経済に占める民間消費のシェアは67.5%と大きく、依然として州経済を支える主役となっている。

東ジャワへの投資実施件数・額は2012年に大きく増えた。外国投資は2011年の208件、13.1億ドルに対して2012年は403件、23億ドル、国内投資は同じく157件、9.7兆ルピアから289件、21.5兆ルピアへ増大した。

ジャワ島内の他州では投資件数が減少傾向にあるが、東ジャワは唯一、外国・国内投資とも増加している。もっとも、2012年のGRDPにおける総固定資本形成(投資)成長率は3.68%と低く、投資の経済成長への効果が表れるのは2013年以降になるものとみられる。

東ジャワ州政府は、自州が全国で最も投資効率の高い州であると自負する。2011年の限界資本係数(ICOR)は全国最低の3.09、ジャカルタや西ジャワよりもかなり低い。最低賃金上昇があるとはいえジャカルタ周辺よりは低く、渋滞もまだ少ない。既存の工業団地は埋まってきているが、新規建設計画も進んでいる。 こうした東ジャワへジャカルタ周辺から産業移転が本格的に進むのか、大いに注目されるところである。

インドネシア・ウォッチ講演会のお知らせ(2015.3.4)

久々に、ジャカルタでインドネシア・ウォッチ講演会を行うことになりました。

以前お世話になったJACインドネシアと一緒に、下記のような内容で講演させていただきます。よろしければ、是非ご参集ください。

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インドネシア・ウォッチ講演会

「試練に直面するジョコウィ新政権 ~もがき続けるインドネシアの民主主義~」

2014年10月の発足から約4ヵ月を経たジョコウィ政権は、早くも様々な試練に直面しています。大統領選挙で破ったプラボウォ支持派を何とか懐柔し、国会運営を軌道に乗せ始めた矢先に、新国家警察長官任命をめぐって、警察と汚職撲滅委員会との対立が激化してしまいました。その背景には、政党や官僚に翻弄されるジョコウィ大統領の優柔不断さと孤独が見て取れます。

国際収支安定化、国内産業競争力強化、地域格差是正という経済政策の基本線は堅持されており、投資許認可プロセスの改善なども進められていますが、民主主義の成熟が今後のインドネシアの安定を支えていけるのかどうか。本講演では、試練に直面するジョコウィ新政権の虚と実に迫ります。

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日時:2015年3月4日(水) 9:00 – 11:30 (受付開始 8:30)

場所:Fortice セントラル・スナヤン2 オフィス
Sentral Senayan 2, 16th Floor, Jl. Asia Afrika No. 8, Gelora Bung Karno, Senayan, Jakarta

参加費:550,000 ルピア(税込)

*当日、現金にてお支払い頂きます。その際に、JACインドネシアより領収書をお渡しします。
請求書がご入用の場合は、別途事前にご連絡下さい。

定員:60名(定員になり次第、締め切らせていただきます)

申込方法: 下記をアルファベットにて記入の上、JACの藤倉さん(fujikura@jac-recruitment.co.id)までお申し込みください。
1)会社名 (アルファベット・ローマ字にてご連絡ください)
2)氏名および役職
3)メールアドレス
4)携帯電話番号
5)参加ご希望のセミナー名

中銀レートは7.25%へ引き上げ

9月12日、中銀理事会は中銀レートを7.25%へ引き上げた。中銀レートは、8月29日の臨時中銀理事会で6.5%から7.0%へ引き上げたばかりである。中銀によれば、インフレ率の抑制、通貨ルピアの安定、経常収支赤字の改善を目的とした措置であり、それは前回から引き続いている。

中銀による中銀レート引き上げの説明(9月12日、インドネシア語)

おそらく、タイミングを重視したのだろう。筆者は、9月末が一つのヤマになると見ている。2013年第3四半期末に当たるが、通常でも、四半期末にはドル需要が増大し、ルピアは軟化する。インドネシア政府や中銀がルピア防衛に対して毅然たる姿勢を示せなければ、9月末にはさらなるルピアの下落が起こることになる。

8月29日の中銀レート引き上げ後も、ルピアはやや下落傾向を見せているが、市場に大きな混乱をもたらしている様子はあまり見られない。政府は緩やかなルピア安を容認していると受けとめられており、現状でもそれに大きな変更はないと見られるが、何よりも、急激な変化ではなく、ソフトランディング的な展開へ持っていこうという意図が見える。

この度重なる中銀レートの引き上げを受けて、中銀は、2013年のGDP成長率予測を5.8〜6.2%から5.5〜5.9%へと再び下方修正した。同時に、2014年のGDP成長率目標も6.0〜6.4%だったのを5.8〜6.2%へ下方修正した。

雇用機会拡大の観点からすれば、今後、インドネシアでは毎年最低でも6%後半以上、7〜8%の成長が必要となり、5%台の成長では力強さに欠ける。

しかし、現在のアジア経済全体を見ても、5%台後半の経済成長はまずまずの値であり、決して低い数字ではない。経済減速ではあっても、失速ではない。やはり、今年はとくに、耐える経済運営をインドネシア政府は行っていかざるを得ない。

中銀の見通しでは、インフレ率は徐々に落ち着きを見せていくものの、2013年通年では9.0〜9.8%となる見込みである。もっとも、2014年は4.5%前後に落ち着くとしている。

中銀は同時に、金融システムの安定性は維持されていると強調する。2013年7月時点で、CARは最低基準の8%を大きく上回る18%と十分高く、NPLも1.9%と低い。貸付も2013年7月に前年同月比22.3%増、同年8月に同22.0%増と力強い。もっとも、今後、この傾向が維持できるかどうかは予断を許さない。

政府は、中銀と日銀との二国間通貨スワップ協定に基づく最大調達可能額120億ドルを含めた300億ドルの外貨を調達可能とし、それにはチェンマイ・イニシアティブ分は含まれていないと説明している。外貨準備高は現状で輸入の5ヵ月分相当を確保していることも強調し、十分な対策を行っているとアピールしている。

今日の中銀レート7.25%への引き上げは、さらに市場を安心させるためのダメ押し的な効果が期待されるのだろう。

とはいえ、やはり9月後半から月末にかけての動きは、注意深く見ていく必要がある。

発信力を強化せよ

5月8日の第1回日本インドネシア経営者会議」で、インドネシア経営者協会(APINDO)のソフィヤン・ワナンディ会長が、「日本企業よ、発進力を強化せよ」と何度も力強く強調していたのが印象的だった。

ソフィヤン会長は、これまで長年にわたり、日本企業のよきパートナーであり、理解者である。彼は日本企業がこれまでのインドネシアの経済発展に多大な貢献をしてきたことを深く理解している。それをもっと、インドネシア社会にアピールすべきではないか、と呼びかけたのである。

何度かお会いし、お話をしたこともあるソフィヤン会長の気持ちは、察するにあまりある。日本に擦り寄るのではなく、かといって日本を利用して自分が、というのでもなく、パートナーとして、互いに確かな信頼を持って、ウィン・ウィンの関係を築きたい、というメッセージと受けとめた。

インドネシアの市場には、二輪車や自動車をはじめ、様々な日本製品があふれている。インドネシアの人々は意外に品質にこだわる。安ければいい、というマーケットでは必ずしもない。しかし、同じ価格帯のモノであれば、品質のよいほうを選び、同じ品質のモノであれば、価格の安いほうを選ぶのは、当たり前のことであろう。

そうやって、たまたま選ばれたのが日本製品だった、ということではないか。日本が好きだから、日本製品を信じているから、インドネシアの人々が日本製品を選んでいるのでは必ずしもないと考える。

しかし、日本製ならば必ず売れる、みんな日本が好きだから、と思い込んでいる向きは決して少なくない。日本を前面に出しているから売れるとは限らない。基本は、いいものを安く、というシンプルな原則である。

実際、日用品や家庭用品でかなりの市場シェアを持っている日本製品について、現場で話を聞くと、人々は必ずしも日本製とは意識していない。日本製と知らないケースも少なくない。彼らは、安くて品質の良いものだから購入しているのである。

フォーラムでは、ユニチャームの高原社長の講演も興味深かった。まず、一般家庭が家計のどれだけを生理用品や紙おむつに支出するかを調べると、わずか5%しか支出しない。一般家庭の平均月収から算出して、その5%内に収まるように製品の価格設定をする。売り方も一回分を小口でバラ売りする。村々までそうやってマーケティングをして、製品を浸透させていく。

しかし、そこで「日本だから」は売り文句にしていない。売り文句にする必要はないし、「日本製品は高い」と思い込んでいる消費者にかえって不信感を与えることになってしまうかもしれない。ユニチャームのやり方は、極めてオーソドックスで、当たり前に思えた。

それでも、日本企業との付き合いもあるであろう同フォーラムの参加者から、「日本企業は閉鎖的でよく分からない」という声を聞いたのは、今さらながら軽い驚きであった。そのイメージこそが、外国(日本)企業はインドネシアにやってきてコストを抑えて生産し、利益はすべて本国へ持ち帰ってインドネシアには何のメリットもない、というステロタイプ化したイメージを植えつけてしまう。

ソフィヤン会長は「日本企業よ、発進力を強化せよ」と訴えた。それは、「日本だから、を強調せよ」という話では必ずしもない。日本からインドネシアに進出して、インドネシアにどのような貢献をしてきたのか、インドネシアの人々にとってどのように役に立ってきたのか、それを淡々と発信すればよいのである。日本というイメージの陰にある、自分の顔を見せて欲しい、ということである。日本で、日本社会にどう貢献してきたのか、日本の人々にとってどのように役立ってきたのか、それを考えてこなかった日本企業はほとんどないと思う。インドネシアでも、それと同じことをすればいいだけの話、ではないだろうか。

日本企業の方々に個人的な提案がある。

日本からインドネシアに進出して、自分の企業はインドネシアにどのような貢献をしてきたのか、インドネシアの人々にとってどのように役に立ってきたのか、を、日本語でよいので、1〜2枚程度書いてみて欲しい。そして、それを私あてに送って欲しい。

それを基に、私は、自分のブログやFacebook、できれば地元新聞コラム等を通じて、インドネシア語でインドネシア社会へ発信する。ささやかながら、日本企業の発進力強化のお手伝いをさせていただきたいのである。

まずは、書いてみて欲しい。そして、それを私の個人アドレス(matsui01@gmail.com)へ送って欲しい。

微力だと思う。しかし、何もしないよりはよいだろう。少しずつ、少しずつ、我々がインドネシアで、インドネシアと何かをよりしていきやすい環境を作ることに関わっていきたい。

日本側の思い込み病

5月8日、ジャカルタで日経BP社とKompas Gramedia Groupの主催による「第1回日本インドネシア経営者会議(The 1st Indonesia-Japan Business Forum)」に出席した。

会議は日本語・インドネシア語の同時通訳で行われ、会場のケンピンスキーホテルには、多くの方々が集っていたが、残念ながら、日本側に比べて、インドネシア側の出席者の数が大幅に少なかった。一つのテーブルに6人いると、インドネシア人の出席者は1人、という感じだった。

タイトルは「生活革命」。インドネシアの消費市場に大きな変化が起きており、それをうまく取り込んで業績をどのように上げていくか。果敢に攻めるいくつかの日本企業のトップにお話をうかがうというのがメインであった。

一言でいうと、いかにインドネシア市場の現実を知るか、ということにつきる。よそから来た者が自分に都合のいい現実を探し、それに合わせるようにマーケットへ強要しても、マーケットがそれに反応するとは限らない。一度、真っ新な気持ちになって、インドネシア市場の現実から学ぶ姿勢が重要であろう。

日本でうまくいったものが、インドネシアでうまくいくとは限らない。それは、日本国内で、関東でうまくいったものが関西で必ずしもうまくいかないのと同じである。基本中の基本である。しかし、日本とインドネシアの関係になると、なぜか、日本でうまくいったものはインドネシアでも必ずうまくいくはず、だって日本のほうが製品の品質が優れているから、という話が聞こえてくる。それは、単なる思い込みにすぎない。

思い込み病は日本企業に限らない。私が研究所に勤めていた頃、理論に基づいて論文を書いた方に「現実はこうなっている」といくら説明しても、「そうなるはずがない」とわかってもらえなかった。私のような地域研究者は理論面が弱い、というのは認めるにしても、だからといって現実を見ないというのは、たとえ理論研究者であっても、許されることではないと思ったものだ。

また、援助専門家として働いていたときに、「インドネシア側はこのように変わった」といくら担当者に言っても、「あいつらがそんな風に変わるはずがない。うそだよ」と相手にされないどころか、担当者から疎まれた。「あいつら」という言葉にもびっくりしたが、せめて、その人には、自分が経験したインドネシアの実際の話をしてもらいたかった。ほとんどインドネシアの方とはお付き合いのない方だったからである。

思い込み病の患者さんたちは、その予備軍ともいえる方々に同意を求め、患者さんたちで閉じられたグループを作る傾向がある。そして、事あるごとにそれが「正しい」ことを、彼らの狭い世界で確認し合う。その間に、現実はどんどん変わっていく。早く気がつけば、現実に向き合って修正することもできるが、遅くなってしまうと、間違った認識を持ってきたことを素直に認められなくなり、逆に意固地になってしまうことさえある。

ビジネスの世界は正直である。意固地になったところに対して、現実は寛容に対応してはくれない。インドネシアは寛容だといわれるが、ビジネスの世界で甘めに見てもらえることはない。思い込み病が悪化した日本企業は、「こんなはずじゃなかった」状態に陥ってしまうだろう。

思い込み病は、実は、インドネシアでの自分たちの外の世界へ向けての発信力不足にも関わってくる。「第1回日本インドネシア経営者会議」で発言した数少ないインドネシア側スピーカーの一人、インドネシア経営者協会(APINDO)のソフィヤン・ワナンディ会長が何度も強調していたのが、「日本企業よ、発進力を強化せよ」だった。

これについては、別のブログで改めて論じたいと思う。

軽油不足と大渋滞

昨日(4/24)は、スラバヤからマランへ日帰り出張した。マランにある国立ブラウィジャヤ大学の日本文学科を訪問するためである。

スラバヤを出発したのは午前8時。午前10時のアポで間に合うと思ったのが浅はかだった。スラバヤ市内からグンポルまで高速道路を走って、快調に進んでいたのだが、パンダアンの手前付近から大渋滞になった。何台ものトラックが延々とガソリンスタンドへ向けて列を作っていた。

新聞報道にもある通り、軽油が不足気味なのである。多くのガソリンスタンドでは、軽油のストックが無くなっていた。まだ軽油のあるガソリンスタンドへ、トラックやバスなどが集中して押しかけてきたという図である。

5月から、補助金付きのガソリンと軽油の値段が二重になる。すなわち、公共交通機関用とバイク用は現在と同じ1リッター4500ルピアのまま値段が据え置かれる一方、それ以外については同6500〜7000ルピアへ値上げとなることが告知されている。政治的な理由から、石油燃料向け補助金の明示的な削減が難しいので、二重価格制をとることで、少しでも補助金負担を減らそうという政策である。

いつものことだが、価格引き上げが見越されれば、その商品は市中で品薄になる。値上げ前に少しでも買っておこうとする消費者心理とともに、値上げ期待で売り惜しみをする生産者・販売者も存在する。

2014年総選挙・大統領選挙を控えて、石油燃料向け補助金の削減・石油燃料値上げは、極めて政治的な意味を持つ。2年前、国会予算委員会では政府提出の値上げ案をすべての政党が承認していたが、各地で値上げ反対デモが起こり、しかもそれが暴力性を伴って展開したため、事態を沈静化させる必要と人気取りを優先した政党が前言を翻し、国会本会議で揃って反対へ転じた。結局、石油燃料価格は値上げできなかった。

政府はそれを学習し、かつ、石油燃料補助金の恩恵を受けているのが実は高額所得者ではないかという議論も踏まえて、今回のような二重価格制の導入を試しにやってみようとしているのだろう。

補助金支出が財政上の大きな負担となり、インフラ整備などへ予算を配分できない状態が指摘されて久しい。政治的理由から石油燃料補助金を一気に削減することは難しく、二重価格制のような小細工を使いながら、実質的な補助金削減を少しでも果たそうとするのは、苦肉の策ではある。

5月に上記が実施され、7月から断食に突入、8月初めの断食明けまでの物価上昇の季節である。経常収支も赤字傾向が続き、通貨ルピアは安含みで展開、輸入減少は期待できないので、輸入品価格も上昇となる。雨季作の米の作柄がそれほど悪くないとして、それがどれぐらい物価を安定させるかが鍵になるが、やはり物価上昇傾向はより鮮明になる。

そういえば、最近は「市場操作」(Operasi Pasar)という言葉をあまり聞かなくなった。以前のインドネシアでは、市中で米や灯油が足りなくなると、政府が「市場操作」でそれらを注入し、価格を安定させようとした。今は、市場メカニズムに委ねるという方向なのだろう。政府が「市場操作をやる」と表明するだけで、売り惜しみをしている側がストックを放出するというデモンストレーション効果も期待できるはずだが、最近はあまり聞かれない。

APEC貿易大臣会合の会場前にて

4月20日、APEC貿易大臣会合が開催されているスラバヤのGrand City Convention Centerの前にいた。というのは、隣がGrand City Mallになっていて、そこへ行ったついでにConvention Centerの前にいた、というわけだ。決して、貿易大臣会合に何か関係があったわけではない。

Convention Center前にずらっと並んだ警察の白バイ。なかなか圧巻である。

スターバックスで警察官や会合関係者が談笑したりしていて、けっこう和やかな雰囲気だった。ちょうど4月20日は「カルティニの日」。隣のGrand City Mallでは、おそろいの制服を着た軍人・警察官・役人の奥様方が集まって、歌や踊りのイベントをしていた。

けっこう和やかな雰囲気のAPEC貿易大臣会合の現場だったが、実は、スラバヤ市内のJl. Basuki RachmatでAPEC会議開催に反対する学生たちのデモがあり、3人が拘束されたことを後で知った。

Demo Tolak APEC Dibubarkan Polisi, 3 Pendemo Diamankan
(インドネシア語記事)

デモをした学生たちは、APECを資本主義や帝国主義の観点から批判したのだろうか。搾取する側、される側という話なのか。学生も、そろそろ埃をかぶったイデオロギーを持ち出して、イメージでデモをするのを止めたほうがよい。今、ここで議論すべきは、たとえばTPP協議への参加が是か非か、といった議論になるのではないだろうか。

インドネシアでは、まだTPPに関する議論はほとんど表面に現れていないが、一部の識者から「TPPへインドネシアも参加すべきだ」との議論が出てきている。もし、今、TPPに関する議論が公に行われれば、来年の大統領選挙へ向けて大きな議論となり、おそらく現状ではTPPに反対する候補が勝つ可能性が高い。インドネシアをTPPへ引き入れたい側は、今はその議論をそっとしたままにしておきたいだろう。

そして、スラバヤでのAPEC貿易大臣会合と並行した別の交渉で、すでにTPP協議に参加している国々の同意によって、日本のTPP交渉への参加が認められた。日本での新聞報道によると、日本側が積極的に、日本のTPP協議参加への同意を既参加国へ働きかけていたということである。

TPP、世界GDPの4割 日本の交渉参加を正式承認

日本のTPP加盟へ向かう一歩は、事実上、このスラバヤで始まったのである。

謎の赤いバツ・マーク

数日前、我が家の近所を歩いていたら、店の看板に赤いバツ・マークが貼られているのに気がついた。店の人が自分で貼ったとは思えない貼り方だった。

よくみると、「税金未納」と書かれている。

「スラバヤ市条例2009年第10号により、スラバヤ市政府の許可無く剥がしてはならない」と書かれている。おそらく、店が閉まって街が寝静まった夜中に、市職員が密かにやって来て、夜が明けるまでに貼り付けていったのであろう。

2009年以降、毎年やっていることなのだろうか。毎年恒例ならば、税金未納側も何らかの対策を打つと思うのだが。もしかしたら、今回初めてなのかもしれない。

それにしても、スラバヤ市のやり方は大胆だ。これが貼られているということは、市民の誰もがその店が税金を払っていないことを否が応でも知ってしまうからである。当然、税金を払わない店の評判に関わる話になる。

しかし、表通りのスンコノ少将通り(Jalan Mayjen Sungkono)に面した店では、赤いバツ・マークの貼られた店は見当たらなかった。さすがに、貼られたらバツが悪いということなのか。それだけでも、納税促進の効果はあるというものだ。今回、赤いバツ・マークを見たのは、スンコノ少将通りから一歩入ったところにある店である。「大通りに面していないから大丈夫だろう」と店側が高をくくったのではないか。

インドネシアはかつて石油大国だった。今から思うと、1980年代前半までは、ブルネイのように、国民に税金を払わせなくてもやっていける国を本気で目指していたように思える。1980年代前半に石油価格が暴落し、それを見越して世銀などの支援で進めた税制改革の結果、付加価値税など税収を増やして石油収入の減少を補う施策を採ってきた。それからもう30年、石油の純輸入国となったインドネシアはOPEC(石油輸出国機構)からも脱退し、税収増なしには財政をまわしていけない普通の国になった。

スラバヤ市も税収増に躍起になっている地方政府の一つであるが、それにしても、こんなふうに、赤いバツ・マークを付ける強引なやり方を見たのは初めてである。これも、新しいインドネシアの一つの表れなのだろうか。

(追記)その後、スラバヤの大きな通りを注意深く観察していると、やはりいくつかの大通りに面している建物にも赤いバツ・マークが付けられていた。たとえば、我が家の近くでは、ガソリンスタンド、ホテルなどに赤いバツ・マークが付いていた。ただし、排ガスなどの影響だろうか、色が若干薄くなっていた。

インドネシアで開催される見本市・展示会

ジェトロの以下のサイトに、インドネシアでこれから開催される見本市・展示会の情報が掲載されていて、参考になる。

http://www.jetro.go.jp/j-messe/?action_fairList=true&type=v2&v_2=009&v_3=004

たとえば、3月に開催されるものは以下の通り。

CphI South East Asia (2013年3月20~22日: Jakarta International Expo, Kemayoran, Jakarta)
API(原薬、医薬有効成分) / 中間物 / 天然抽出物 / 生物薬剤 / カスタム製造 / 精製化学製品 / 添加剤, 製剤 / 一般

P-MEC South East Asia (2013年3月20~22日: Jakarta International Expo, Kemayoran, Jakarta)
製剤機器、実験装置、分析的テクノロジー

InnoPack Southeast Asia (2013年3月26~29日: Jakarta International Expo, Kemayoran, Jakarta)
包装、薬品配達システム、ラベル・トラッキング・トレース

INAPA 2013: The Indonesia International Auto Parts, Accessories and Equip Exhibition & Conference 2013 (2013年3月26~29日: Jakarta International Expo, Kemayoran, Jakarta)
自動車部品、アクセサリー、技術、設備:タイヤ、バッテリー、工具、ホイール、デジタル・ソフトウェア・システム、カーオーディオ・ビデオ・システム、エンジン部品、その他の関連製品およびサービス

本ブログでも、こうした見本市・展覧会に関する情報をできる限り提供することとしていきたい。

2013年の経済成長見通し

インドネシア政府関係者は、2013年のインドネシアの経済成長率について、現段階でどのような見通しを持っているのか。

公式の政府による2013年経済成長率目標は、今のところまだ6.6〜6.8%である。識者によれば、ポイントは対米ドルレートが1米ドル=9700ルピアよりも下がるかどうか、という点にある。政府内ではもちろん、レートがさらにルピア安に振れることを想定したシナリオもあるようだ。バンバン・ブロジョヌゴロ大蔵省財政政策庁長官代行は6.3%というシナリオがあることを認めているほか、アルミダ国家開発企画庁長官は6.4%程度が現実的という見方をしている。

日本についていうと、対円のルピア・レートは、円安の進行にともなって、大幅なルピア高に転じている。昨年は1円=120ルピア前後で動いていたのが、本日朝時点では1円=102ルピア程度となっている。昨年、実行された投資が今年、原材料や設備を日本から輸入する、というケースならば、円高から円安への転換をうまく活用できるかもしれない。しかし、これからの日本からの投資は、昨年よりもコストがかかるため、相対的に不利にならざるをえない。

インドネシア国内で懸念されるのは、前に本ブログでも述べた輸出減・輸入増による経常収支赤字、ガスも含めたエネルギー供給に加えて、ここ数ヶ月顕著となっているインフレ傾向である。ここ数年安定してきた消費者物価上昇率が、かなり上昇へ転じてきているからである。経常収支赤字、ルピア安、インフレ懸念。これらは、長年にわたって、インドネシア経済の構造的問題とされてきたものだが、かつて懸念することのなかったエネルギー問題がこれらに加わっているのが今の特徴である。

さらに、日本についていうと、このようなインドネシアに対して円は多くの場合、対ルピアで円高だったのが、今は円安となっている。

国内消費需要は、まだある程度の勢いは維持しており、政府は、今年は昨年以上の投資流入を期待している。とくに、近い将来に輸出向け生産を計画している製造業投資を歓迎している。これによって、国際収支上の輸入圧力を抑え、ルピア安にある程度の歯止めをかけたいのである。

2015年のASEAN市場自由化を控えて、インドネシアは製造業における競争力強化に赤信号が灯り始めており、政府は性急に何らかの方策を採らなければと焦っている様子がうかがえる。

2013年のインドネシア経済は、経済成長率の数字以上に、新たな制約事項も加味しながら、インドネシアが本当に経済構造上の問題を克服するきっかけをつかめるかどうかが問われる試練の年となる。

そして、実は、日本からの製造業投資のパフォーマンスがその点に関わる一つの大きなカギを握るような気がしている。投資実施における外国投資の比重が高く、その製造業が二輪車や自動車など、労働集約型ではない次の高付加価値製造業への橋渡し役を果たすものだからである。

日系の製造業投資は、その意味でインドネシア経済における「お客さん」ではなく、「当事者」「アクター」の一つであるという意識をもってもらうとともに、そのような観点から、インドネシア政府に対して、投資環境改善要求を行なっていく必要があると考える。

2012年経済実績のおさらい

すでに、2013年2月時点で発表された数字だが、備忘録として、2012年1年間の経済実績の数字を下記に書き留めておく。

<GDP成長率>
2012年は目標の6.5%を下回る6.23%。

<貿易>
2012年通年の輸出は1,900.4億ドル、輸入は1,916.7億ドルで、貿易収支は16.3億ドルの赤字を記録。石油ガスが59.9億ドルの赤字、他方、非石油ガスは39.6億ドルの黒字。
貿易赤字の大きかったのは中国(81億ドル)、タイ(58億ドル)、日本(56.4億ドル)。ASEAN全体との貿易も4億5540万ドルの赤字。
輸出の61.1%は工業製品。

<観光客>
2012年通年の観光客数は前年比5.16%増の804万人。2012年の観光による外貨収入は前年比5.81%増の91億ドルに達した。
2012年通年の航空利用者数は、国内線が前年比5.87%増の5450万人、国際線が同9.54%増の1190万人。
海運では、旅客数は前年比8.68%減の690万人だが、貨物量は同10.61%増の2億950万トン。
鉄道では、旅客数が前年比1.43%増の2億220万人、貨物量は同15.56%増の2360万トン。

<製造業>
2012年の大中工業生産の成長率は4.12%、小・零細工業生産のそれは4.06%。

<消費者物価上昇率>
2012年通年では前年比4.30%増となり、2011年通年の3.79%増よりは若干上昇したが、比較的低い水準を維持。

<直接投資>
外国直接投資(PMA)が前年比26.1%増の245億ドル、国内直接投資(PMDN)が同21.3%増の92.2兆ルピア。
日本からの投資は前年比67%増の25億ドルで、国別ではシンガポール(49億ドル)に次いで第2位。韓国からの投資は19億ドルだが、2012年第4四半期に限ると、韓国が国別で2位。
外国直接投資の17%(43億ドル)は鉱業部門へ。増加率が最も高かったのは化学・薬品の前年比86%増(28億ドル)。
外国直接投資の立地別では、西ジャワが42億ドル、ジャカルタが41億ドル、バンテンが27億ドル、東ジャワが23億ドル、東カリマンタンが20億ドル。ジャワ島に全体の56.1%。

<自動車・二輪車>
2012年のインドネシア国内での自動車販売総数は111万6230台。また、2012年のインドネシアからの自動車輸出はCKDを含めて27万3490台。
2012年のインドネシア国内での二輪車販売台数は706万台(2011年は801万台)。

輸出の減退、輸入の増加による経常収支赤字を、直接投資・証券投資の流入による資本収支黒字で補って、何とか国際収支(総合収支)全体を保っているという状態。この構造は、かつて、石油ガス依存から脱却しようとしていた1980年代〜1990年代前半のインドネシアの国際収支構造に似ている。あのときには、通貨ルピアが過大評価されがちで、一気にルピアを切り下げたことが何度かあった。現在は、そのようなドラスティックな措置をとれる状況にはなく、中銀が懸命に為替介入を試みながら、ルピアの変動をできる限り緩やかに調整しようと試みている。おそらく、対ドルでのルピア下落はある程度避けられないであろう。

また、経済が発展するにつれて、国内産業のエネルギー需要が高まっている。価格高騰かつ環境負荷の大きい石油から天然ガスへの転換がインドネシア国内でも進んでいるが、ガス田開発の遅れと供給体制の不備などで、北スマトラなど一部の地方ではガス供給が逼迫している(昨年問題となった東ジャワのガス供給逼迫は改善の方向にある)。このため、インドネシアにおいても、石油に加えて、中東地域で輸入向け天然ガスの確保などが始まっている。

自動車や二輪車の販売台数が増えれば、ガソリン需要も増える。インドネシアにはガソリン向け石油精製施設の整備が遅れており、輸入に依存している。このため、自動車や二輪車が増えるとガソリン輸入も増え、経常収支を圧迫することになる。加えて、2014年へ向けた政治的理由から、ガソリン向け補助金の削減が難しくなっており、2013年も財政的にも厳しい状況が続く。

経常収支赤字とエネルギー供給。この二つが、インドネシア経済の持続的発展の鍵を握る重要なファクターとなっている。