日本企業のインドネシア進出について

30年近くインドネシアを見てきて、不思議なことがある。それは、日本におけるインドネシアへのイメージの急速な変化である。

2000年代半ば、日本では「インドネシアは危険な国」というイメージがとても強かった。1998年前後の通貨危機、反華人暴動の連鎖とそれに伴う政治社会危機、スハルト退陣などに続いて、アチェ紛争、イスラム強硬派とされる人々によるテロや爆弾事件などが続いたためであろう。

講演などで、私がいくら「それらの影響は全国に及ばない」「多くの人々は通常通り暮らしている」と言っても、「怖い」「危ない」と思い込んだ人々には信じてもらえなかった。いつになったら、インドネシアのネガティブ・イメージが改善するのか、と途方に暮れた覚えがある。

それが今、一転して、多くの人々がインドネシアを礼賛している。それまで海外事業をしたことがなかった事業者までもが、あたかもバスに乗り遅れまいとするかのように、インドネシアへ、インドネシアへとやってくる。

わずか数年の間に、こんなにもインドネシアへのイメージがひっくり返るものなのか。

私はほんとうに驚いている。

そして思う。多くの方々は、きっと過去のインドネシアのことをよく知ることなく、インドネシアへの期待を勝手に高めてしまったのではないか、と。

30年近く連続してインドネシアを見ているが、急に良くなったという印象はない。ある意味では、「怖い」と言われた時代と変わらない面も残っている。今起こっている「変化」は、これまで少しずつインドネシアの人々が変えてきたもの、努めてきたものの結果にすぎない。

たしかに、インドネシアでは、インターネットなどを通じて日本への関心や理解が高まってきていることは疑いない。とくに、アニメやコスプレなどのポップカルチャーが牽引役となって、日本への親近感を高めていることは確かである。帰国研修生の役割などもあるだろう。

しかし、日本はすべて素晴らしい、というイメージでインドネシアの人々が捉えているのは、昔から全く変わっていない。日本人のインドネシア・イメージは急転したが、インドネシア人の日本イメージ・礼賛は過去30年以上、変わらず続いている。

日本人はラッキーなのである。日本人なら恥ずかしくなるほどの、インドネシア人による日本礼賛のイメージの上に胡座をかけるからである。

しかし、その日本礼賛イメージが崩れたらどうなるのか。日本の現実は彼らが想像するものよりもずっと厳しいし、社会問題も深刻化している。その現実に目をつぶったまま、日本礼賛イメージを保持できるかどうか。

日本とインドネシアが真の友人になるためには、ネガティブな現実を含めて、双方がもっともっと相手をまるごと理解する必要があるだろう。人が誰かを愛するとは、プラスもマイナスも合わせて、相手を受け入れることだろう。

日本もインドネシアも自らを卑下する必要はない。しかし、双方の持つマイナス面に目をつぶり続けてはならないと思う。

いったい、インドネシアに進出する日本企業は、どこまでインドネシアのことを分かろうとしてやってきているのだろうか。いや、分かる必要などない、事業がちゃんとできればどこでもいいのだ、という反論も聞こえてきそうである。日本企業の進出支援は、日本企業さえよければそれでいいのだ、という考え方もあることだろう。

そういった考え方があるとすれば、それをインドネシア側はどう見るのだろうか。

想像力を働かせてほしい。日本に外国企業が進出してきた場合、日本人はそれをどのように見るだろうか。外国企業でなくともよい。米軍基地の存在とそこで起こる様々な事件を我々はどう見るだろうか。

インドネシアの日本企業は、インドネシア人から見られているのである。

多くのインドネシア人が、日本は好きだが日本企業には就職したくない、といっている現実がある。トップに就けない、給与や手当が低い、といった理由に加えて、自分たちの持っていた日本イメージと日本企業の現実とのギャップが彼らにそう思わせている面はないだろうか。

インドネシアへ進出してくる(きた)日本企業(とくに中小企業)の地元は、その企業の海外進出でどのような影響が出ているのか。地元経済はどうなっていくのか。このことにも、筆者は大きな関心をもつ。

その企業は本当にインドネシアへ進出しなければならなかったのか。海外へ行かずに地元に踏み留まって何らかの展開を開くことは難しかったのか。このことにも、筆者は大きな関心をもつ。

インドネシアで進出企業支援をするのなら、そんなことはどうでもいいことなのだろう。進出したいという企業のお世話をして、それごとにコンサルタント料をいただくのが仕事、と割りきってやればよいだけだろう。でも、筆者は、その企業の地元のことが気になってしまう。

むしろ、日本で、インドネシアへ進出したいと思っている企業とじっくりと話し合い、海外進出自体の是非や地元経済への影響(経済的影響だけでなく地域を形成する企業価値としての文化的影響も)を含めて、真剣に考えるところから、コンサルティングを始めたいのである。

そして、やはり本当にインドネシアへ進出しなければならないとなったら、全力で支援する。その企業だけでなく、進出先のインドネシアの地域にとってもプラスとなる形を作り出すために、全力で支援する。

その際に、その日本企業がインドネシアで生きていくことをどこまで深く考えているか、考えようとしているかをしっかりと見極めたい。

日本企業の日本の地元も、進出先のインドネシアの地域も、企業進出によってプラスの価値を共に生み出せるように、全力で支援する。

そんなコンサルティングをしたい。

もちろん、将来は、インドネシア企業の日本進出、といった事態も現実化してくるだろう。そこでも、日本企業に対してと同様の形で、コンサルティングをしたい。

インドネシアに進出した日本企業がインドネシアとともに生きていく。日本に進出したインドネシア企業が日本とともに生きていく。

それをひとつひとつ積み重ねていくことで、単なるイメージを超えた、日本とインドネシアとの間の本当の理解と相愛が深まっていくことだろう。

そのためには、まだまだ数量が少ない。交流人口が少なくとも現在の10倍以上に高まるよう、私なりのお手伝いをしていきたい。

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