2月26日〜3月4日はスラバヤ出張

1週間後となりましたが、2月26日〜3月4日は、JICA中小企業海外進出支援事業の外部アドバイザーとして、インドネシア・スラバヤへ出張します。

今回は、大阪の中小企業による食品加工機械のデモンストレーションに関するワークショップのお手伝いです。主に、シドアルジョにある東ジャワ州商工局の訓練センターでの業務となる予定です。

スラバヤを州都とする東ジャワ州は、農産品加工による付加価値向上を州開発政策目標の最上位としており、日本からの食品加工機械の導入には大変熱心に取り組んでくださっています。とりわけ、健康ブームの影響で、油をできるだけ使わない加工食品の開発・生産への関心が高まっています。

日本でも、ノンオイルのおせんべいなど、ヘルシー志向の食品が増えていますが、高血圧や高コレステロールが蔓延するインドネシアでも、経済発展に伴う生計向上のなかで、そうした食品の健康化が大事な時代になってきたと言えるでしょう。

スラバヤはちょうど日本祭りが終わった頃だと思いますが、うまく日程が合えば、日本祭りにも顔を出したかったところです。以前、スラバヤに住んでいたときに楽しめたので、ちょっと思い入れがあります。

というわけで、来週、スラバヤでお会いできそうな方は、別途、ご連絡いただければ幸いです。

「バレンタインデーを祝わないように」との通達

明日2月14日はバレンタインデー。日本で最もチョコレートの売れる時期でもありますが、インドネシアも、今ではバレンタイデーが有名になりました。

そして、毎年のように、「バレンタインデーを祝わないように」という呼びかけが出されます。

たとえば、首都ジャカルタの南隣にあるデポック市は、優秀で想像力に富み、宗教的で競争力のある人材を作り、将来に活躍する最良の世代を準備するため、2017年2月8日付市教育局回状を通じて、次のことを求めました(元のDetikの記事はこちら)。

1.生徒に対しては、学校内外でバレンタインデーを祝わずに、インドネシアの東洋的な文化価値に沿ったポジティブな活動に勤しむことを期待する。
2.生徒の親に対しては、子供たちを誘って家の中あるいは外で、家族の調和やつながりを高めるレクリエーションなどで一緒に過ごすことを望む。
3.すべての学校関係者は、学校内におけるインドネシア民族の代々伝えられてきた文化価値を踏まえた性格や態度を根付かせることを願う。

この通達の文面を見る限り、デポック市は、イスラム的価値にふさわしくないからバレンタインデーを祝ってはならない、と言っている訳ではないことがわかります。

この通達は、バレンタインデーそのものを批判している訳ではありません。そうではなく、最近の若者たちのバレンタインデーの過ごし方が尋常ではなくなっていることへの懸念が強く表れています。

以前聞いた話では、バレンタインデーに異性と食事やデートするだけならともかく、未成年どうしで外泊したり、バイクで走り回ったり、アルコールを飲んで騒いだり、とにかく風紀がものすごく乱れているということでした。どうやら、若者たちが自分たちの行動を自制できない事態が多々起こっているようなのです。

話は変わりますが、インドネシアのコンビニでビールが売られなくなり、在留邦人や日本人出張者の間でずいぶん話題になったのを覚えている方も多いと思います。

それを「イスラム教の影響が強くなっているから」と解釈する向きもありましたが、必ずしもそうではありません。

実は、コンビニが未成年者へアルコール類を売ってしまい、それを飲んだ若者が騒ぎを起こすという事件が相次ぎ、なかには、メチルアルコールにまで手を出して飲んで死んでしまう事件が起こるに至り、アルコール類の販売禁止策が出されるに至った、という経緯があります。

コンビニでのアルコール販売禁止も、今回のバレンタインデーを祝わないようにという通達も、自制できない若者たちを鑑み、彼らが欧米の真似をしてそれにうつつを抜かしている状況を懸念した、風紀の乱れ対策と見るのが適当かと思います。

しかし、この風紀の乱れに歯止めがかけられないと、イスラム法で治める以外に手段はない、という声が出てきてしまいます。すなわち、頼れる規範がイスラムしかないと考える向きが強まるのです。本当に風紀の乱れ対策をいろいろ考えてやったかどうかは分かりませんが、イスラムを出すほうが手っ取り早い、と考える人々も多いと思われます。

かつて、汚職撲滅が進まないのは世俗法で処しているからであって、イスラム法の世界になれば汚職は摘発できる、と汚職構造の抜本的改革にはイスラム主義で処するしかないという考えが現われたことがありました。インドネシアで10数年前、イスラム国家か世俗国家という議論が現れた背景には、こうした汚職対策への無力感がありました。

そして、イスラムの名を使いながら、そのような状況を利用しようとする政治勢力も現れてきます。

うがった見方をすれば、バレンタインデー反対に象徴されるのは、己を忘れ、欧米から入ってきた風習を無批判に無節操に受け入れ、それを自分でコントロールできないように見える若者たちを、東洋的とか土着文化とかいう曖昧な概念を用いて、インドネシアという国家に引き止める方策にも見えます。

本当に重要なのは、自制できる若者をどのように作っていくか、ということでしょう。それは、自分で分別をわきまえ、節度ある行動のできる若者になっていくことであり、それは今の教育のあり方と深く関わってくると思われます。

でも、どうしてこんな風になってしまったのか、とても不思議な気がします。

というのは、私がジャカルタに住んでいた1990年頃は、キリスト教徒以外は、誰もバレンタインデーなど祝っていなかったからです。それも、好きな相手に花束を贈る(多くの場合は男性から女性へ)のが一般的で、「日本では女性が男性にチョコレートを贈るのが流行っているんだ」というと、皆んなから「変なの!」と言われたものでした。

今では、インドネシアでも、バレンタインデーに女性が男性にチョコレートを贈るのは普通のこととなりました。これは日本の真似なのでしょうか。

東京・銀座のリンツカフェの
チョコレートアイス&クレープ

マングローブ保全とビジネスの両立

12月7〜11日、今年最後のインドネシア出張として、スラバヤへ行ってきました。

今回は、地球環境戦略研究機関(IGES)の研究員の方からの依頼で、持続可能なコミュニティを目指すための政策を考えるための前提として、環境と共生するスラバヤの地元での活動の現場などを案内する、という仕事でした。

今回は、わずか2週間前に依頼された急な用務でしたが、実質2日間で、スラバヤのいくつかの場所を案内できました。

そのうちの一つは、マングローブ保全活動とコミュニティ開発を両立させているルルット女史のグループの活動です。彼女とお会いするのは、今回で4回目になります。

最初にお会いしたのは、2009年、スラバヤで開かれていたとある展示会の場でした。そのときの様子は、かつてブログに書きましたので、興味ある方は、以下のリンクをご参照ください。

 マングローブからの贈り物

その後、2014年12月には、ジェトロの仕事で、新しいビジネスを志向する中小企業家のインタビューの一環で、お会いしました。以下はそのときの写真です。

彼女の活動の特徴は、マングローブ林の保全・拡大から始まり、マングローブの実や種を使った商品開発を行うことで、環境保護とビジネスとを両立させる活動を実際に実現したことにあります。その代表例として、先のブログ記事にも書いたように、マングローブから抽出した様々な色素を使った、バティック(ろうけつ染め)を作り出したのでした。

ルルットさんは、マングローブの実や種などの成分を分析し、健康によいと判断したものを飲料や食品などに加工し、販売してきました。ジューズ、シロップ、せんべいなどのお菓子やその成分を刷り込んだ麺を開発したほか、石鹸、バティック用洗剤などにも加工してきました。マングローブ加工品はすでに160種類以上開発したということです。

2009年に林業省と契約し、スマトラやカリマンタンでのマングローブ保全とマングローブ活用製品開発のコンサルティングを開始したのをきっかけに、全国各地で、ルルットさんの指導を受けたマングローブ保全グループが立ち上がっていきました。なかには、ルルットさんの指導から自立して、独自に製品開発を行い、それらの製品を外国へ輸出するグループも現れているとのことです。

「これまで何人を指導したのですか」とルルットさんに尋ねると、「数え切れないわ」と言いつつ、ちょっと恥ずかしそうにしながら「数千人」と答えました。

インドネシア全国で、ルルットさんの教えを受けた数千人がマングローブ保全活動とマングローブの恵みを活かしたコミュニティ開発に関わっている、と考えただけで、私たちの目の見えないところで、様々な環境を守り、再生させる努力が地道に行われていることを想像しました。

ルルットさんは、今でも「活動の第一目的はマングローブ保全だ」ときっぱり言います。彼女によれば、マングローブを活用するコミュニティ・ビジネスとして成り立たせていくには、最低でも2haぐらいのマングローブ林が必要で、それまではとにかくマングローブを植え続けることが重要だそうです。

そうでないと、住民はマングローブ林を伐採し始めるのだそうです。彼女が先日行った東南スラウェシ州クンダリの状況は、本当に酷く破壊されていて、まだまだ頑張らねば、とのことでした。

もっとも、ビジネスとして大きくしていくつもりは、あまりないそうです。マングローブ産品の売り上げやルルットさん自身のコンサルタント報酬のほとんどは、マングローブ保全の活動に使っているので、利益はほとんどないと言います。少なからぬ民間企業が共同ビジネスを持ちかけてくるそうですが、全部断っているとのこと。彼女が持っているマングローブ加工のノウハウや成分の活用法などは、門外不出だそうです。

もっとも、彼女は、民間企業がマングローブ保全活動を行うように働きかけてもいます。マングローブ林を破壊したり、海を汚染したりする企業に対して反対運動を仕掛けるのではなく、むしろ、それらの企業のコンサルタントとなって、「マングローブ保全を行うほうが、漁民や住民による反対運動やデモを避けることができる」と説き、排水・廃棄物処理の方法などを企業側にアドバイスする、そうしてコンサルタント報酬もちゃっかりいただく、というなかなかしたたかな側面も見せていました。

それにしても、なぜ彼女はそこまでしてマングローブ保全にのめり込んでいるのでしょうか。その理由が今回初めてわかりました。20年以上前、ルルットさんは難病を患い、体が動かなくなり、歩けなくなって、死を覚悟したそうです。真摯に神に祈りを捧げると、不思議なことに、動かなかった足が少しずつ動き始め、その後2年間のリハビリの末、日常生活へ復帰することができました。

この経験をきっかけに、自分が取り組んできた環境保全の道を命ある限り進んでいこう、と決意したそうです。そんなルルットさんは、本当に、マングローブ保全活動に命をかけているように見えました。

政府からは様々な支援の申し出があるそうですが、ルルットさんはその多くを断り、自前資金で活動を進めることを原則としています。メディアへは、マングローブ保全のさらなる普及のために積極的に出ていますが、それに流されることはありません。

ルルットさんのような方が現場でしっかり活動しているのは、とても心強いことです。我々のような外国の人間は、ともすると、インドネシア政府やメディアでの評判を通じて良い事例を探しがちですが、それは本物を見間違える可能性を秘めています。

私自身、ルルットさんの活動を今後も見守り続けるとともに、彼女のような、地に足をつけて活動している本物をしっかり見つけ出し、他の活動との学び合いの機会を作っていければと思っています。

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