【インドネシア政経ウォッチ】第70回 ジョコウィ立候補を阻むものは?(2014年1月16日)

7月の大統領選挙を前に、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)州知事への期待が高まり続けている。彼自身は大統領選挙への立候補について何も発言していないが、現時点で選挙が行われれば、確実に彼が当選する。

有力紙『コンパス』の大統領候補に関する世論調査では、2013年12月時点でのジョコウィの支持率は、前回13年6月の32.5%から43.5%へと大きく上昇した。すでに立候補を表明しているグリンドラ党のプラボウォ党首は15.1%から11.1%へ低下、ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首は8.8%から9.2%へ微増、ハヌラ党のウィラント党首が3.3%から6.3%へ上昇しているが、ジョコウィへの支持は圧倒的である。

これに気をよくしているのは、闘争民主党(ジョコウィは同党の一般党員)である。同党は「ジョコウィ・ブーム」を活用し、大統領選挙前の4月の総選挙(議会議員選挙)で第一党となる戦略である。そしてメガワティ党首は、「大統領候補の正式決定は総選挙後」「大統領候補の決定は党首に一任されている」とし、自身の立候補に含みを残している。

もっとも、これは選挙へ向けた政党間の政治的駆け引きの一環とみたほうがよい。実際、大統領候補としてのメガワティの人気は微々たるもので、ジョコウィとは雲泥の差がある。闘争民主党がメガワティを大統領候補、ジョコウィを副大統領候補とすれば、不人気のメガワティの個人的エゴと捉えられ、闘争民主党への支持は急速に冷めるだろう。勝手に膨らむ人気に押され、ジョコウィは大統領選挙に立候補せざるを得なくなったと言ってよい。

では、ジョコウィ立候補を阻むものはあるのか。スキャンダルや汚職疑惑以外に、心配なのはジャカルタの洪水である。抜本的な洪水対策に取り組まざるを得ない状況になれば、「それを放り投げて大統領選挙に出るのは許されない」と他党が騒ぎ立て、真面目なジョコウィは洪水対策に専心するだろう。その意味でも今季の洪水は注目である。

【インドネシア政経ウォッチ】第64回 為政者としてのウィバワの移転(2013年11月21日)

インドネシアの人々はウィバワ(wibawa)という言葉をよく使う。威力あるいは威厳という意味だが、落ち着いた大人の対応ができる人を評する場合にも使う。大統領選挙を前に、為政者としてのウィバワが移り始めたと感じられる出来事が起こっている。

低価格グリーンカー(LCGC)をめぐる議論はそのひとつである。ジャカルタのジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事は、個人所有のLCGCがジャカルタの渋滞をさらに悪化させることを懸念し、むしろ公共交通機関の整備が先決であると主張した。これに対してユドヨノ大統領は、渋滞の管理責任はジャカルタ特別州政府にあると批判したが、ジョコウィはそれをポジティブに受けとめるとともに、中央からジャカルタへの予算配分にさらなる配慮を求めた。

先週、ユドヨノから「LCGCは個人向けではなく、村落での交通手段を想定し、しかも電気自動車やハイブリッド車だったはず」との発言が飛び出した。もともと、LCGCは個人向けと村落交通手段の2本立てと認識していた産業大臣や日本の自動車メーカー関係者は驚いたが、明らかに、ジョコウィのLCGC批判を念頭に置く言い訳めいた発言である。

他方、ユドヨノが党首を務める民主党は、ジョコウィや彼の所属する闘争民主党への接近を試み始めた。ジョコウィ批判を繰り返した党幹部はユドヨノから叱責(しっせき)され、民主党内に批判を控える雰囲気が現れた。また、11月13日に開催された全国婦人会セミナーで、アニ大統領夫人は、歴代唯一の女性大統領だった闘争民主党のメガワティ党首を褒めたたえた。汚職問題で存亡の危機にある民主党が、生き残りを模索する姿でもある。

ジョコウィ自身は、大統領選挙へ立候補するそぶりをまだ何も見せておらず、山積する首都ジャカルタの問題に集中する姿勢を崩していない。にもかかわらず、世論調査で大統領候補として常に人気トップのジョコウィに対して、大統領であるユドヨノを含めた政治家が気を使っている。ウィバワはユドヨノからジョコウィへ、その空気を人々は読み始めている。

【インドネシア政経ウォッチ】第50回 ジョコウィは「現場」を作らせない(2013年 8月 15日)

ジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド知事(通称・ジョコウィ)は、頻繁に現場訪問へ出かける。しかし、どこへ行くかは直前になっても一部の関係者にしか知らされない。メディア関係者が追っかけをしても、現場へ着く前に振り切られてしまう。

通常、地方政府のトップが現場訪問するとなれば、訪問される現場では周到な準備を行う。しかも、多くの場合、トップは部下を何人も引き連れてくる。現場としては、トップから何らかの見返りを期待するので、トップが立腹しないように細心の注意を払う。食事や飲み物を用意するだけではなく、お土産の準備や、対話する住民の選定と発言内容までチェックする。

しかし、ジョコウィの現場視察ではそれが通用しないのである。ジョコウィは何の準備もできていない現場にやって来る。言い換えれば、部下に「現場」を作らせないのである。実はこれまで、政治家が語る「現場」のほとんどは、作られたものであった。そこで語られる住民の声は、すでにチェック済みのものであった。スハルト政権が崩壊して民主化の時代になっても、「現場」を作ることは続いていた。ジョコウィはこうした現状をいとも簡単に壊しているのである。

ジョコウィの頻繁な現場訪問は予算の無駄遣い、という批判がある。しかし、おカネがかかるのは、ジョコウィの乗る公用車のガソリン代よりも、むしろ「現場」を作る費用ではないのか。「現場」を作る側は、そこから汚職まがいの利益を得てはいなかったか。

ジャカルタ市内のタナアバン市場前は路上営業者で埋まり、深刻な交通渋滞となっていたが、ジョコウィはこの問題をわずか数カ月で改善させた。それは、作られた「現場」を前提とせず、本物の現場を把握したからこそである。

上司の心証を良くするために気に入られるような「現場」を作る。このインドネシアに根強い文化を変えていけるのか。日本でも稀なタイプの一政治家が、それへ果敢に挑み始めている。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第27回 モノレールをめぐる駆け引き(2013年 2月 21日)

洪水と渋滞ですっかり有名になったジャカルタでは、地下鉄やモノレールなど、公共交通機関の建設を通じた抜本的な対策が一層必要性を増している。費用が高いと問題になったものの、ジョコウィ州知事から一応ゴーサインの出た地下鉄に引き続き、先週はモノレール建設にも青信号が灯された。

ジャカルタのモノレール構想は、そのずさんな資金調達計画からいったんは頓挫。数本の細い鉄筋がむき出しになったモノレールの支柱の跡が痛々しかった。運営会社のジャカルタ・モノレール社は今も存続しているが、このほど同社の9割の株式をオルトゥス・ホールディングという企業が買収、と報道された。

オルトゥス・ホールディングを所有するのは、実業家のエドワード・スルヤジャヤである。彼は、トヨタなどの合弁相手であるアストラ・インターナショナルの創始者ウィリアム・スルヤジャヤの長男で、1990年代に破綻したスンマ銀行のオーナーであった。

これにより、ジャカルタのモノレール事業はオルトゥス・ホールディングの手に任されそうだが、ユスフ・カラ前副大統領を総帥とするハジ・カラ・グループがこれに異を唱えている。ハジ・カラ・グループは、バンドン、スラバヤ、マカッサル、パレンバンなどの地方都市でモノレール建設を推進中であり、ジャカルタでのモノレール建設にも関わってきた。ジャカルタ・モノレール社はなぜ、今ここでオルトゥス・ホールディングへ乗り換えたのか。ジャカルタ・モノレール社のスクマワティ社長は同じ南スラウェシ州出身のユスフ・カラ氏とは親しい間柄だけに、謎は深まる。

モノレールの車体は、多くの乗客を乗せられる日本製、価格の安い中国製に加えて、2月11日にブカシで公開されたインドネシア製も候補である。ハジ・カラ・グループの絡むパレンバンでは中国製の導入が検討されているが、ジャカルタではどうか。この辺りの話がオルトゥス・ホールディングの進出と関係している可能性もある。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第23回 洪水のジャカルタ、遷都論議再び(2013年 1月 25日)

雨季のジャカルタは洪水の街となる。4~5年に一度は大規模な洪水が起こる。そう分かってはいても今月17日に首都を襲った大洪水はかつてない規模だった。

国家災害対策機関(BNPB)によると、1月20日時点で死者20人、避難者4万416人に上った。都心部にあるタムリン通り、スディルマン通りといった幹線道路が冠水して川のようになり、結果的に市内の至る所が冠水した。前日に「ジャカルタ全体が水に浸かる」というショート・メッセージ・サービス(SMS)が流れ、デマとして警察が捜査する矢先に、それが現実となってしまった。

洪水に加えて停電も深刻だった。ジャカルタ市内に電気を供給するムアラカラン発電所の一部が冠水して発電できなくなり、1,245カ所の変電所が停止。広範な地域で停電が長時間続き、一部のオフィスは閉鎖を余儀なくされた。

今回の洪水は基本的に予想を超える長時間の豪雨によるものではあるが、排水ポンプの機能不全、川沿いの堤防の決壊、ビルの浸水対策の不備、川などに廃棄された大量のゴミへの対策の遅れ、などさまざまな問題を浮き彫りにした。西ジャワ州ボゴールやプンチャク周辺での不動産開発による森林伐採・土壌保水力の低下が河川への流量を増やした可能性も高い。地下水汲み上げなどによるジャカルタ全体の地盤沈下も被害を拡大させた要因だ。

洪水対策のインフラとしてジョコ州知事は昨年末に、多目的な地下トンネルの構想を発表した。ジャカルタ東部から北部の全長10キロメートルを3段構造(上2段を自動車道路、下1段を電線・電話線・ガス管や浄水・下水管)とし、洪水時には自動車の通行を禁止して配水管として活用するというものだ。またユドヨノ大統領は20日に、チリウン川から東部放水路へ結ぶ2.1キロメートルの水路建設を決定した。

しかし、ジャカルタが災害への脆さを克服できるまでの道のりは遠い。大洪水を契機に、遷都の必要性がより真剣に議論されるのは確実である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第9回 首都知事選、現職敗退の影に(2012年 9月 27日)

ジャカルタ首都特別州の知事選挙の決選投票は20日、大きな混乱もなく行われた。選挙委員会による得票確定は10月第1週だが、民間各社の開票速報によると、第1回投票で首位となったジョコウィ=アホック組が第2位のファウジ=ナラ組を再度破って当選した。

筆者のみる限り、現職のファウジはこれまでに、糾弾されるような悪政も汚職疑惑も特になかった。首都の抱える交通渋滞や洪水対策など複雑な問題に直面し、目に見える成果は上がらなかったかもしれないが、どんな知事でもすぐに改善できる問題ではない。

選挙戦では自分の施策に予算的な裏付けを考えていたようだが堅実さは注目されず、大まかな政策アピールにとどまったジョコウィに勝てなかった。改革を訴えて勢いに乗るジョコウィが相手でなければ、おそらく再選されていたはずである。

ファウジの足を引っ張ったのは、実は一緒に組んだ副知事候補のナラだったのかも知れない。演説では、地元ブタウィ族やイスラム教であることを強調し、「ブタウィ族を選ばない奴はジャカルタから出ていけ!」という発言で、選挙監視委員会の事情聴取を受けた。

インドネシア語を華人風に面白おかしく発音し、ジョコウィと組んだ華人系のアホックを揶揄(やゆ)したこともひんしゅくを買ったようだ。ブタウィ族の横断組織であるブタウィ協議委員会議長を務め、ブタウィ族の青年団体の親分格でもあるナラは、相当に焦っていたようだ。

ファウジは現知事として、23日のジャカルタ・ジャパン祭りの開会式に出席した。「今年はフィナーレで一緒にみこしを担ぐ」と挨拶し、寿司バトルまで臨席して終始上機嫌だった。肩の荷が下りたかのようなリラックスした姿が印象的だった。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第1回「ジョコウィ現象」をどう見るか(2012年 8月 2日)

先月半ばに実施されたジャカルタ特別州知事選挙の結果は現地で注目を集めた。現職圧勝を予想した各種世論の調査結果に反し、闘争民主党とグリンドラ党が推すジョコウィ(中部ジャワ州ソロの現市長)とアホック(南スマトラ州東ブリトゥン県の前知事)の知事・副知事候補組が得票率42.6%で第1位となったためだ。ユドヨノ大統領が率いる民主党の推す現職のファウジ組(得票率34.05%)との間で9月に決選投票が行われる。

ファウジ組は、地元ブタウィ族出身、イスラム教徒、広範な支持団体、現職で知名度抜群という要素を持つ。だがジャカルタ生まれでないよそ者であるほか、副知事候補は華人・キリスト教徒(プロテスタント)、強固な支持団体は皆無、知名度は低いといったジョコウィ組に及ばなかった。常識的には考えにくい「ジョコウィ現象」はなぜ起こったのだろうか。

ちまたでは「ファウジの傲慢(ごうまん)なイメージが原因」との見方がある。ただ、自他ともに認めるジャカルタ通で清廉な彼をとがめるほど傲慢という印象はない。むしろ、さまざまな組織を固め、動員力にも優れるなど、ほぼ完璧の体制で圧勝を確信していたはずである。

だからこそ、ファウジ組は勝てなかったとの見方もある。組織的な動員から漏れたホワイトカラー、カネを配れば自分に投票するはずの「小さき民」への接近方法に工夫が足りなかった。お上が下々へ施しを与える旧来の政治家スタイルが通用しなくなったのである。

一方でジョコウィはあえて政党色を封印、「小さき民」の世界へ自らゲリラ的に飛び込み、彼らと同じ目線で交じり合った。中間層・ホワイトカラーに対して「一緒に何かを変えられるのではないか」というイメージを作り出した。しがらみのないよそ者・異端者だからこそ、新しいやり方へ開き直れたのである。

筆者はこの「ジョコウィ現象」に、政治を牛耳ってきた「旧来エリート主義」の時代が終焉する気配を感じている。政党がそれに気付いて修正できるのかどうか。新たな時代に向けて変わり続ける社会、その先に2014年の大統領選挙がある。

 

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インドネシア・ウォッチ講演会のお知らせ(2015.3.4)

久々に、ジャカルタでインドネシア・ウォッチ講演会を行うことになりました。

以前お世話になったJACインドネシアと一緒に、下記のような内容で講演させていただきます。よろしければ、是非ご参集ください。

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インドネシア・ウォッチ講演会

「試練に直面するジョコウィ新政権 ~もがき続けるインドネシアの民主主義~」

2014年10月の発足から約4ヵ月を経たジョコウィ政権は、早くも様々な試練に直面しています。大統領選挙で破ったプラボウォ支持派を何とか懐柔し、国会運営を軌道に乗せ始めた矢先に、新国家警察長官任命をめぐって、警察と汚職撲滅委員会との対立が激化してしまいました。その背景には、政党や官僚に翻弄されるジョコウィ大統領の優柔不断さと孤独が見て取れます。

国際収支安定化、国内産業競争力強化、地域格差是正という経済政策の基本線は堅持されており、投資許認可プロセスの改善なども進められていますが、民主主義の成熟が今後のインドネシアの安定を支えていけるのかどうか。本講演では、試練に直面するジョコウィ新政権の虚と実に迫ります。

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日時:2015年3月4日(水) 9:00 – 11:30 (受付開始 8:30)

場所:Fortice セントラル・スナヤン2 オフィス
Sentral Senayan 2, 16th Floor, Jl. Asia Afrika No. 8, Gelora Bung Karno, Senayan, Jakarta

参加費:550,000 ルピア(税込)

*当日、現金にてお支払い頂きます。その際に、JACインドネシアより領収書をお渡しします。
請求書がご入用の場合は、別途事前にご連絡下さい。

定員:60名(定員になり次第、締め切らせていただきます)

申込方法: 下記をアルファベットにて記入の上、JACの藤倉さん(fujikura@jac-recruitment.co.id)までお申し込みください。
1)会社名 (アルファベット・ローマ字にてご連絡ください)
2)氏名および役職
3)メールアドレス
4)携帯電話番号
5)参加ご希望のセミナー名

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