【インドネシア政経ウォッチ】第31回 野菜・果物の輸入規制(2013年 3月 21日)

好調なインドネシア経済にインフレの影が忍び寄っている。消費者物価上昇率は2012年通年の4.30%に対して、13年1月は前年同月比4.57%、2月は同5.31%と、上昇傾向がさらに顕著となった。とりわけ、2月に最も上昇したのは食料品である。中央統計局は、政府が野菜・果物の輸入を規制しているのに対し、国内農家からの供給が不足していることが原因とみている。

インドネシアはまだ農業の比重が高い国ではあるが、野菜や果物を中国などから大量に輸入している。このため、政府は、国内農家保護と国内生産振興のため、これらの輸入規制を実施している。ただし輸入禁止ではなく、収穫期などの状況を見ながら、農業省が輸入業者へ輸入推薦状を発行するかしないかで規制をかけている。

300種類以上の野菜・果物のうちで貿易対象は90品目あり、規制対象は20品目。そのうち年前半に収穫期を迎える13品目が1~6月に、年後半が収穫期の7品目は7~12月に規制される。ちなみに、1~6月の規制対象は、ジャガイモ、キャベツ、ニンジン、トウガラシ、パイナップル、メロン、バナナ、マンゴー、パパイヤ、ドリアン、菊花、ラン花、ヘリコニア花である。ただし、これ以外でも、輸入推薦状の発行の可否で輸入規制が可能になる。

このところ大問題となっているのがニンニクである。ニンニクの価格は、数週間前まで1キロ当たり1万ルピア台だったが、たとえば先週の東ジャワ州ジェンブルでは10万ルピアを超えたと報道されている。ニンニクはインドネシア料理に欠かせない日常の食材であるにもかかわらず、需要の95%を輸入に依存している。

現在、多くの輸入ニンニクがスラバヤ港にとどまっている。ニンニク輸入業者側は、農業省からの輸入推薦状の発行が遅れて搬入できないと政府を非難する。一方、輸入許可等の書類は整っているのに、輸入業者が価格上昇を期待して意図的に搬入を遅らせているとの見方もある。庶民の生活に直結する問題だけに、早急な解決が求められる。

 

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2013年の経済成長見通し

インドネシア政府関係者は、2013年のインドネシアの経済成長率について、現段階でどのような見通しを持っているのか。

公式の政府による2013年経済成長率目標は、今のところまだ6.6〜6.8%である。識者によれば、ポイントは対米ドルレートが1米ドル=9700ルピアよりも下がるかどうか、という点にある。政府内ではもちろん、レートがさらにルピア安に振れることを想定したシナリオもあるようだ。バンバン・ブロジョヌゴロ大蔵省財政政策庁長官代行は6.3%というシナリオがあることを認めているほか、アルミダ国家開発企画庁長官は6.4%程度が現実的という見方をしている。

日本についていうと、対円のルピア・レートは、円安の進行にともなって、大幅なルピア高に転じている。昨年は1円=120ルピア前後で動いていたのが、本日朝時点では1円=102ルピア程度となっている。昨年、実行された投資が今年、原材料や設備を日本から輸入する、というケースならば、円高から円安への転換をうまく活用できるかもしれない。しかし、これからの日本からの投資は、昨年よりもコストがかかるため、相対的に不利にならざるをえない。

インドネシア国内で懸念されるのは、前に本ブログでも述べた輸出減・輸入増による経常収支赤字、ガスも含めたエネルギー供給に加えて、ここ数ヶ月顕著となっているインフレ傾向である。ここ数年安定してきた消費者物価上昇率が、かなり上昇へ転じてきているからである。経常収支赤字、ルピア安、インフレ懸念。これらは、長年にわたって、インドネシア経済の構造的問題とされてきたものだが、かつて懸念することのなかったエネルギー問題がこれらに加わっているのが今の特徴である。

さらに、日本についていうと、このようなインドネシアに対して円は多くの場合、対ルピアで円高だったのが、今は円安となっている。

国内消費需要は、まだある程度の勢いは維持しており、政府は、今年は昨年以上の投資流入を期待している。とくに、近い将来に輸出向け生産を計画している製造業投資を歓迎している。これによって、国際収支上の輸入圧力を抑え、ルピア安にある程度の歯止めをかけたいのである。

2015年のASEAN市場自由化を控えて、インドネシアは製造業における競争力強化に赤信号が灯り始めており、政府は性急に何らかの方策を採らなければと焦っている様子がうかがえる。

2013年のインドネシア経済は、経済成長率の数字以上に、新たな制約事項も加味しながら、インドネシアが本当に経済構造上の問題を克服するきっかけをつかめるかどうかが問われる試練の年となる。

そして、実は、日本からの製造業投資のパフォーマンスがその点に関わる一つの大きなカギを握るような気がしている。投資実施における外国投資の比重が高く、その製造業が二輪車や自動車など、労働集約型ではない次の高付加価値製造業への橋渡し役を果たすものだからである。

日系の製造業投資は、その意味でインドネシア経済における「お客さん」ではなく、「当事者」「アクター」の一つであるという意識をもってもらうとともに、そのような観点から、インドネシア政府に対して、投資環境改善要求を行なっていく必要があると考える。