【スラバヤの風-16】シドアルジョはエビの町

正月料理に欠かせない食材の一つは、めでたさを象徴するエビだが、2014年の正月は例年よりも出荷量が少なく、エビに出会えること自体がめでたいことだったかもしれない。昨年、主力のバナメイ・エビがタイなどで大量に病死し、国際価格が一気に高騰したからである。

幸い、インドネシアで病気は蔓延せず、バナメイ・エビの前に主力だったブラックタイガーが過去最高値で取り引きされた。2013年12月にスラバヤで会った華人系のエビ輸出業者は、ブラックタイガーの日本向け輸出で大いに稼いだ様子だった。

昔から、インドネシア産ブラックタイガーは日本における輸入冷凍エビの代名詞ともいえる存在だった。その養殖の中心地は、スラバヤの南隣にある東ジャワ州シドアルジョである。シドアルジョの海岸沿いはエビ養殖池で占められ、街中のあちこちに名物のエビせんべい(クルプッ・ウダン)の製造・販売業者が立地する。エビせんべいの値段の高低はエビの含有率に比例する。シドアルジョは「エビの町」と言ってもいいほどである。

シドアルジョのエビ養殖は、国内で最も近代的・集約的な管理方法で行われ、生産効率が追求された。その反面、いったん病気が蔓延すると容易に感染し、全滅に近い状況に陥る危険性を孕んでいた。シドアルジョでエビ養殖を学んだ者たちは、カリマンタン、スラウェシなどジャワ島外へエビ養殖を展開させていったが、そこでは、小骨は多いが脂の乗るミルク・フィッシュ(バンデン)の養殖と組み合わせた集約度の低い方式が採られた。インドネシアのエビ養殖は、シドアルジョの高集約型とジャワ島外の低集約型とを組み合わせながら、結果的に、全滅のリスクを回避する形で展開してきたと言える。

当初、養殖エビは日本向け輸出が多かったが、韓国や中国など他のアジア向け輸出に加えて、インドネシア国内向け供給も増えた。ただし、インドネシアでは、日本でお馴染みのエビフライやエビ天ぷらではなく、エビせんべいのほかではエビカツがフライドチキンと並ぶポピュラーな揚げ物として定着するといった展開がみえる。

日本の正月料理に欠かせないインドネシア産食材は、実はエビだけではない。たとえば、蒲鉾用の魚の練り物やおでんの具の大根などの野菜もインドネシア産かもしれない。カツオだしなどに使われるカツオの一部は北スラウェシ産である。ユネスコ無形文化遺産となった日本料理、そこへインドネシア産食材も少なからず関わってくる。

 

(2014年1月3日執筆)

 

 

【インドネシア政経ウォッチ】第91回 東ジャワ3自治体で業種別最低賃金導入(2014年7月3日)

東ジャワ州は、メーデー1日前の2014年4月30日付州知事令により、パスルアン県、シドアルジョ県、スラバヤ市の3自治体において、14年業種別最低賃金を設定した。対象となるのは、海外直接投資(FDI)企業、株式公開している国内直接投資(DDI)企業、国営企業である。

業種別最低賃金は、すでに西ジャワ州ブカシ県やカラワン県などで導入されており、業種ごとに、既に定められた最低賃金に一定比率を上乗せする形となっている。

業種別最低賃金は、就業期間が1年未満の労働者に対してのみ適用される。これに伴う就業期間1年以上の労働者の賃金改定は、経営者と労働者・労働組合との間で書面による同意を取り付けて行うこととなっている。

昨年から業種別最低賃金を導入しているパスルアン県では、今年は第1部門26業種において10.0%を上乗せした240万9,000ルピア(約2万1,000円)、第2部門11業種において7.5%上乗せの235万4,250ルピア、第3部門7業種において5.0%上乗せの229万9,500ルピア、と定められた。第1部門には金属加工、機械、家電、医薬品、化学、製紙、金融など、第2部門には飲食品加工、プラスチック製品など、第3部門には繊維、木製品・家具、ホテル業などが含まれる。ちなみに、13年業種別最低賃金は、48業種に対して一律5.0%を加えた180万6,000ルピアであった。

新たに業種別最低賃金が設けられたシドアルジョ県では、295業種に対して5.0%を加えた229万9,500ルピア、スラバヤ市では78業種に対して同じく5.0%を加えた231万ルピアと定められた。

パスルアン県とともに2013年に業種別最低賃金を定めていたグレシク県は、14年は州知事に対して導入提案をしなかった。モジョケルト県も州から業種別最低賃金の提案を求められているが、まだ対応できていない。このため、この両県での14年業種別最低賃金の導入は見送られた。

東ジャワ州は、他の県・市でも業種別最低賃金の導入を促す意向である。これは、スラバヤ市周辺が、もはや低賃金を理由に企業進出する場所ではなくなりつつあることを示している。