【インドネシア政経ウォッチ】第126回 違法漁船との戦いは続く(2015年4月2日)

汚職撲滅をめぐって、政治エリートらから揺さぶりをかけられているジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権だが、外国漁船や密輸などの違法者との戦いも続いている。

ジョコウィ政権は、水産資源確保と国内水産業の振興を目的に、外国漁船の違法操業を取り締まり、違法漁船を海上で焼失させるなど激しい対応を見せている。そんな中、先週、マルク州のアンボン地裁は、パプア州南部のメラウケ沖で拿捕(だほ)され、アンボンへ護送された違法操業の漁船を、わずか2億ルピア(約185万円)という少額の罰金で釈放する判決を下し、スシ海洋・水産相が激怒する事件があった。

この漁船は4,306載貨重量トン(DWT)の大型漁船で、23人の中国人乗組員の乗るパナマ船籍の日本製漁船である。操業許可(SLO)を持たない違法操業で、船内には900トンの冷凍鮮魚・エビが積まれ、捕獲が禁止されているフカなどのほか、密輸品と思われる中国製品も搭載していた。

海洋・水産省によると、2004年に中国船としてインドネシア海域に入ったことがあるが、今回はパナマの国旗を掲げて入った。インドネシア海軍はこの船の侵入を把握できていなかったが、船舶モニタリングシステム(VMS)を意図的に切っていた可能性がある。実際、14年11月11日にフィリピンでこの船のVMSが確認された後、消息を絶ち、14年12月27日に拿捕された後、VMSが確認されている。

中国は、東インドネシア海域での水産資源開発に意欲を見せており、とくにマルク州では、大型水産加工基地建設などの構想が報じられている。証拠はないが、マルク州のアンボン地裁の判決は、こうした中国の動きを背景になされたものとも考えられる。

こうした問題は、中央政府が摘発に乗り出しても、地方レベルで隠蔽(いんぺい)または軽視される傾向がある。しかし、司法は地方分権化の対象ではなく、中央の権限である。地方レベルで違法者との癒着をどう断つかが大きな課題になる。

【インドネシア政経ウォッチ】第122回 外国漁船取り締まりの裏側(2015年3月5日)

ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は、インドネシア海域の水産資源確保を目的に、外国漁船の操業を厳しく監視し、ときには違法操業の外国漁船を沈没させる措置も取っている。辣腕(らつわん)をふるうのは、航空会社スシ・エアの元社長でかつ水産物商でもあるスシ海洋・水産相である。

スシ大臣は、海洋・水産相令『2014年第56号』に基づき、14年11月3日から15年4月30日まで、外国漁船への操業許可の交付を停止し、総トン数30トン以上のすべての外国漁船に対する操業許可を再チェックしている。同時に、外国漁船のインドネシア領海内への立ち入りも禁止した。この「モラトリアム」措置の有効期間は延長の可能性がある。

「モラトリアム」措置の影響で、これまでインドネシア国旗を掲げ、インドネシア船籍に見せかけて操業してきた外国漁船の多くが姿を消した。週刊誌『テンポ』によると、これらの船の乗組員のほとんどは外国人であるが、そうした外国漁船を使っていたのは外国資本ではなく、実はインドネシア国内の実業家であった。

『テンポ』は、そうした実業家として、アルタグラハ・グループ総帥のトミー・ウィナタ氏、中ジャワ州スマラン出身のテックス・スルヤウィジャヤ氏、元ジャヤンティ・グループ総帥のブルハン・ウレイ氏に加えて、海洋・水産省のフスニ・マンガバラニ前漁獲総局長の名前を挙げている。外国漁船の多くがタイや中国の漁船であり、『テンポ』は、タイのバンコク周辺や中国福建省でインドネシア語名の残った漁船を確認している。

今回の外国漁船の操業停止措置に対しては、「国内の水産資源を外国による略奪から守った」と歓迎する意見が聞かれる。その一方で、外国漁船が買い付けに来なくなったので、水産物が売れなくなったと嘆く業者も少なくない。

外国漁船の実態を把握することは政策立案の観点から重要である。しかし、水産物の生産・販売が滞り、供給不足をきたす可能性もある。「モラトリアム」が単にナショナリズムを煽(あお)るだけの結果に終わらないことを願うばかりである。