【インドネシア政経ウォッチ】第87回 政党の党員拘束は効かない(2014年6月5日)

総選挙委員会は5月31日、書類審査、健康診断などの結果を踏まえ、プラボウォ=ハッタ組とジョコウィ=カラ組を正副大統領候補として正式決定し、翌6月1日、 前者が1番、後者が2番と候補ペア番号を確定した。そして6月4日から選挙運動が始まった。

各政党は、中立を表明した民主党を除いていずれかの候補ペアへの支持を表明したが、各党内は支持一本化でまとまっていない。最終段階でプラボウォ=ハッタ組への支持を表明したゴルカル党では、「支持と大臣ポストとを取引したことは許せない」と息巻く若手党員や退役軍人出身者のほか、カラ元副大統領の地盤であるインドネシア東部地域の党地方支部の一部が公然とジョコウィ=カラ組支持を唱えている。

ゴルカル党のアブリザル党首は、党の方針に従わない党員への処分をちらつかせるが、元党首のカラ自身が党員でありながらジョコウィと組み、それを黙認したことからも分かるように、党の方針に反する者を除名した前例がない。ジョコウィ=カラ組へは、ゴルカル党の半数以上が支持に回ると見ている。

また、ハッタが党首を務める国民信託党(PAN)では、PANの設立者であるストリスノ元党首がジョコウィ=カラ組支持を表明し、同組の選挙チームに加わった。

他方、ジョコウィ=カラ組を支持する民族覚醒党(PKB)でも、当初大統領候補としていたマフッド元憲法裁判所長官と歌手のロマイ・ラマが同党執行部への不満を露わにし、プラボウォ=ハッタ組の選挙チームへ加わった。

中立を掲げた民主党も分裂した。大統領候補選考会に出た党員も、ダラン国営企業大臣やパラマディア大学のアニス学長はジョコウィ=カラ組へ、ユドヨノ大統領の従兄弟であるプラモノ元陸軍参謀長やマルズキ国会議長はプラボウォ=ハッタ組へそれぞれついた。

このように、大統領選挙では政党による党員拘束が実はほとんど効かない。したがって、政党を軸に大統領選挙を予測するのはあまり有効ではないと考える。

【インドネシア政経ウォッチ】第86回 正副大統領候補決定、一騎打ちへ(2014年5月22日)

大統領候補届け出の締め切り1日前の5月19日、2組の正副大統領候補の出馬宣言が行われ、大統領選挙は一騎打ちとなることになった。

大統領候補のジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事は、ゴルカル党の重鎮ユスフ・カラ元副大統領を副大統領候補と発表し、ジャカルタ市内の「1945年闘争会館」で出馬を宣言した。ジョコウィ=カラ組は、闘争民主党(PDIP)、民主国民党(NasDem)、民族覚醒党(PKB)、ハヌラ党の4党が推薦する。出馬宣言後、2人はPDIPのメガワティ党首宅に寄った後、自転車で総選挙委員会へ出向き、 届け出を済ませた。

もう1人の大統領候補、グリンドラ党のプラボウォ党首は、ハッタ・ラジャサ国民信託党(PAN)党首・前経済調整大臣を副大統領候補と発表し(届け出は20日)、スカルノ初代大統領が住んだ「ポロニアの家」で出馬宣言をした。プラボウォ=ハッタ組は、グリンドラ党、PAN、開発統一党(PPP)、福祉正義党(PKS)、月星党(PBB)に加え、総選挙得票率2位のゴルカル党が土壇場で加わり、6党が推薦することになった。

ゴルカル党は、ジョコウィかプラボウォかで支持が揺れたが、アブリザル・バクリー党首へ一任された。まず、プラボウォへ接近するが、3兆ルピアの献金を要求されて決裂。次にジョコウィへ接近し、連携の見返りに11閣僚ポストを求めて拒否された。そして最後、プラボウォが上級相ポストをアブリザルに提示した後、プラボウォ支持が確定した。ゴルカル党は党員のユスフ・カラを支持せず、他党候補を支持することになった。

残る民主党は、大統領候補党内選考会で1位となったダラン・イスカン国営企業大臣を擁立せず、 副大統領候補にユドヨノ党首(大統領)の義弟であるプラモノ・エディ元陸軍参謀長を推し、アブリザルと組ませようとしたが、断念した。民主的な手続きを無視しても、汚職事件への関与を疑われるユドヨノ周辺を守る意味合いがあり、親族であるハッタ側につくものと見られる。