【インドネシア政経ウォッチ】第76回 刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって(2014年2月27日)

国会で審議されている刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって、汚職撲滅委員会(KPK)が法案の撤回・審議の延期を強く求める書状をユドヨノ大統領宛に送付した。KPKによれば、同案がKPKの権限や活動を著しく制限する内容になっているためである。

同案によると、KPKには取り調べのための拘置期間延長の権限がなくなる。裁判官はKPKによる逮捕を取り消すことができる。容疑者の拘留期間が今よりも短縮される。証拠差し押さえに裁判官の許可が必要となる。盗聴にも裁判官の許可が必要であり、 場合によっては許可が取り消される。無罪判決の場合には最高裁へ控訴できない。最高裁判決は下級裁よりも重刑であってはならない。以上のような内容がKPKから問題視されている。

これまでKPKは、KPK法(法律2002年第30号)および汚職犯罪撲滅法(法律01年第20号)に基づき、大統領直轄の強力な権限を行使して、汚職摘発に努めてきた。汚職捜査での盗聴も認められ、汚職裁判では生々しい録音記録が証拠として提示されることも頻繁にあった。

KPKの懸念の背景には、裁判所への不信感がある。憲法裁判所をめぐる汚職事件では、地方首長選挙結果で不服申立があった場合、主に勝者側の言い分を通すためにアキル前憲法裁長官から贈賄が強要され、同長官はその一部である1,610億ルピア(約14億円)をマネーロンダリングしていた。政治家や官僚と裁判官との癒着も相次いで報じられており、政治家や官僚が裁判官へさまざまな圧力をかけ、汚職捜査を妨害する可能性がある。

こうしたKPKの懸念に対して、アミル法務・人権相は、刑法・刑事訴訟法は基本的な一般法であり、KPK法や汚職犯罪撲滅法を縛るものではないので、従来通り、KPKは裁判所の許可なく盗聴活動などができるとしている。

現在の刑法・刑事訴訟法は、いまだにオランダ植民地時代のものを適用しており、時代に則した新しいものへ変える必要性が以前から指摘されてきた。もっとも、国会会期終了の9月までに、この審議が終わるかどうかは微妙である。