セイマンケイ特別経済地域はなかなか有望

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6月16日、北スマトラ州のセイマンケイ特別経済地域(KEK Sei Mangkei)を訪問した。

特別経済地域(KEK: Kawasan Ekonomi Khusus)は、中国の経済特区を意識した特区で、単なる工業団地ではなく、許認可手続や税制面で優遇措置が採られる。

KEK指定第1号であるセイマンケイは、2011年5月27日に建設が開始され、2015年1月27日に開所された。敷地総面積は1,933.8haで、そのうち工業用地は1,331haである。工業用地はオイルパーム工業区域(285.85ha)、ゴム工業区域(72.7ha)、一般工業区域(509.61ha)の3つに分けられる。第1期はオイルパーム工業区域から始められ、すでに、第3国営農園のパーム油加工プラントとユニリーバのパーム油原材料加工工場(下写真)が試運転中である。

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敷地内には、国営電力会社(PLN)の変電施設(12MW)が作られるほか、アチェ州のアルンLNGからプルタミナによって75MMSCFDのガスがパイプラインを通じて供給される。

敷地内には、企業幹部向けの高級住宅地や従業員向け住宅のほか、ゴルフ場、学校、スポーツ施設、商業施設なども作る予定である。

セイマンケイ特別経済地域は北スマトラ州の州都メダンから144キロ南東にあり、現時点では、車で約3〜4時間かかる。筆者が行った今回は、途中で渋滞に何度か合い、4時間近くかかった。しかし、今後、セイマンケイ特別経済地域とメダン及びその外港であるベラワン港、クアラナム国際空港が高速道路で直結する計画である。また、鉄道も敷設される計画である。完成後は、セイマンケイ特別経済地域とメダンは車で1時間半で結ばれるということである。

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セイマンケイ特別経済地域で特筆すべきは、ジョコウィ政権が「海の高速」構想で国際ハブ港に指定して整備を進める予定のクアラ・タンジュン(Kuala Tanjung)港と直結することである。セイマンケイ特別経済地域とクアラ・タンジュンとの間も鉄道と高速道路が計画され、これが完成すると、セイマンケイ特別経済地域からクアラ・タンジュンまで車で30分かからなくなる予定とのことである。

セイマンケイ特別経済地域の東部分には、ドライポートが造られ、通関手続はセイマンケイ特別経済地域の中で完結するようになる。すぐ脇に鉄道の駅と高速道路入口が設けられる。

セイマンケイ特別経済地域は元々、第3国営農園の所有するオイルパーム農園の中に造られた。このため、土地収用問題が回避されている。樹齢が長くて植え替え時期に至ったオイルパームの区域を特別経済地域に提供したのである。そして、セイマンケイ特別経済地域の管理運営は第3国営農園が担い、敷地内に事務所もすでに置かれている。事務所内にはまた、所在地のシマルングン県政府の出先が置かれ、許認可関係のワンストップサービスを提供する。

セイマンケイ特別経済地域と直結する予定のクアラ・タンジュン港は、国営アサハン・アルミが持つ輸出港を活用して開発される。港湾の水深が14〜15メートルあり、港湾としても良質である。メダンからのスマトラ縦断道路(一般国道)からのアクセス道路もしっかり作られ、その脇で鉄道レールの敷設工事が始まっていた。これらはすべて、30年間日本が関わってきたアサハン・アルミによるインフラ建設の成果である(といっても、インドネシア側へ移管された後のメンテナンスが良くないという声を聞いた)。

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まだ将来の話ではあるが、セイマンケイ特別経済地域はなかなか有望であるとの印象を持った。

第1に、ASEAN全体のなかで見たときに地理的位置が優れていることである。マラッカ海峡に面し、マレーシア、シンガポール、タイに近い。むしろ、ジャカルタやジャワ島が遠く感じる場所である。セイマンケイ特別経済地域は、インドネシア国内ではなく、ASEANのなかで位置付けるほうがよいと考える。

第2に、インドネシア国内に2ヶ所作る予定の国際ハブ港の1つ、クアラ・タンジュン港と直結することである。クアラ・タンジュン港は、近隣の港湾と競争することになるだろうが、効率性がある程度確保できれば、コスト面で十分競争可能となる。

第3に、土地収用問題が起こらず、土地自体も固い地盤の上に築かれることである。重工業の立地もOKである。現時点での用地価格は1㎡当たり50万ルピア(約4600円)程度である。敷地内に高級住宅も建設されるが、高速道路ができれば、メダンから車で通うことも可能になる。

セイマンケイ特別経済地域のある北スマトラ州は、全体として、電力不足となっているが、セイマンケイ特別経済地域は独自に電力源を確保するため、その影響を受けない。また、第3国営農園が管理し、土地問題を回避し、しかも特別経済地域として中央が直接監視し続けるので、地元で暗躍する政治家やヤクザ集団などからも距離を置くことができる。

セイマンケイ特別経済地域をインドネシアや北スマトラなどの枠で考えずに、ASEAN全体のなかで考えてみると、ここに生産拠点を構えてASEAN市場に浸透していく、世界へ輸出していくということは、一計に値するのではないだろうか。

まだ絵に描いた餅の域を出てはいないが、他の工業団地などと比べても、セイマンケイ特別経済地域の将来はなかなか有望であると感じた。

【インドネシア政経ウォッチ】第77回 北スマトラの電力危機は続く(2014年3月6日)

長引く北スマトラ州の電力危機が国家的課題として取り上げられ始めた。2月27日の閣議で、ユドヨノ大統領が電力供給問題、特に壊れた発電機の早急な修繕を命じた。

北スマトラ州で電力危機が言われ始めてから、すでに10年近くが経過している。2005年から10年間で計1,000万キロワット規模の電力供給増加計画も立てられていた。 たとえば、09年にラブハン・アンギン火力発電所から33万キロワット、10年にアサハン第1水力発電所から18万キロワット、11年にパンカラン・スス火力発電所から40万キロワット、といった具合である。北スマトラ州には火力発電所に加えて水力発電所や地熱発電所もあり、これらが順調に動けば、電力は十分に足りる計算だった。

ところが、これらの発電所の建築許可が地方政府から下りない。たとえ発電所が運転可能となっても、用地買収が進まないために送電所が建設できない。さらに、アチェ州のアルン天然ガス田から引く予定のガスパイプラインの建設が終わらず、火力発電所へのガス供給のめどが立たない。そして、官僚制や汚職の問題も見え隠れする。

加えて、州内の複数の火力発電所で中国製発電機が故障して止まり、その修繕のめどが立たない。ユスフ・カラ前副大統領は、「当時、政府の資金不足で中国製を選択してしまったが、メンテナンス面を考えなければならなかった」と述べている。発電所を建設する資金の85%を中国側が負担するというスキームも破綻し、結局は国営電力会社(PLN)が穴埋めせざるを得なくなった。これらの結果、現時点では目標の1,000万キロワットのうち650万~750万キロワット程度しか達成できず、計画停電を余儀なくされている。

中国製発電機の問題については、非効率で高度な汚染源になるとして、中国が40万キロワット以下の発電所の建設を禁止したため、売れ残った発電機が上乗せ価格でインドネシアへ売られた疑いも指摘されている。

しかし、北スマトラ州の電力危機は待ったなしで、戦犯探しや政略を弄(ろう)している余裕はない。官僚制や汚職の問題にも切り込む必要があるだろう。