【インドネシア政経ウォッチ】第118回 地方首長直接選挙制を堅持(2015年2月5日)

インドネシアの地方首長選挙は、間接選挙制に変更するという動きがあったが、結局、従来通り、国民による直接選挙制が堅持された。ただし、内容に不備があるとの指摘がある。

国会は1月20日、地方首長選挙に関する法律代用政令『2014年第1号』および地方行政に関する法律代用政令『14年第2号』を法律として承認し、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が署名した。

振り返ると、14年9月25日、国会は、地方議会が地方首長を選ぶ地方首長選挙法、および地方議会に地方首長選出の権限を与えた地方行政法を可決した。間接選挙を支持したのは大統領選挙で敗北したプラボウォ=ハッタ組であり、国会での議席上の優位を生かし、ジョコウィ新政権に圧力をかける狙いがあった。

しかし、ユドヨノ大統領(当時)が同年10月2日、地方首長直接選挙を維持させるため、両法の執行を停止する2つの法律代用政令を発出した。政権の安定を図りたいジョコウィ大統領は、時間をかけて国会各会派を説得し、何とか直接選挙制を堅持させることができた。

説得が奏功したのは、国会各会派がこれらの法案を政治的駆け引きの道具として使ってきたためである。すなわち、各会派は賛成・反対の立場をその時々に応じて変え、一貫した主張を持たなかった。国の将来を見据えた本気の議論ではなく、党利党略の一環でしかないことがあらためて露呈した。政治家の機会主義的態度は今後も続くであろう。

もっとも、内容には不備が見られる。新法では、首長のみが直接選挙で選ばれ、副首長は当選した首長が推薦して任命される(第171条)。これまで当選後に正副首長が相互離反する場合が多発したためだが、従来のような正副ペアによって、地域内で拮抗(きっこう)する宗教・種族等を包含するのは難しくなり、対立抗争が増える懸念がある。他方、正副ペアでの立候補を示唆する条文(第40条)も残る。

ほかにも、憲法裁判所と最高裁判所のどちらが、選挙結果の異議申し立てを審議するのか明確でない。国会各会派は、早くも法律改正の必要を唱えている。

【インドネシア政経ウォッチ】第102回 ユドヨノは民主主義の破壊者?(2014年10月2日)

懸念されていた事態が起こった。9月26日午前1時半ごろ、国会は賛成226、反対135で地方首長選挙法案を可決した。これで10年前から続いてきた地方首長直接選挙は廃止され、その前の形式、すなわち、地方議会が地方首長を選ぶ間接選挙へ戻ることになった。

賛成したのは前の大統領選挙で敗北したプラボウォ=ハッタ組を支持した政党、反対したのは勝利したジョコウィ=カラ組支持の政党である。しかし法案可決の主役は、中立を装った民主党だった。民主党は、10条件付きで直接選挙という案を示し、闘争民主党などジョコウィ=カラ組が土壇場でそれを飲んだ。ところが、国会議長が民主党案を認めなかったという理由で、民主党は議場から退場した。これが法案可決の決め手になった。

民主党の退場を歓迎したプラボウォ=ハッタ組からは、「当初のシナリオ通り」という声も聞こえた。元々、プラボウォ=ハッタ組は、大統領選挙に勝利した場合、民主党へ重要ポストを約束していた。今回、退場を先導したヌルハヤティ民主党会派代表には、次期国会での副議長ポストがほのめかされていた。

最後の外遊中のユドヨノ大統領は、自らが党首を務める民主党の行動に驚きを見せた。ユドヨノは「10条件付きで直接選挙」を堅持し、必ず投票するように民主党へ指示していたからである。すぐに、地方首長選挙法の違憲審査を党として憲法裁判所へ申請すると息巻き、打開策を検討し始めた。

しかし、間接選挙を中身とする法案を提出したのはユドヨノ政権で、国会で法案成立を見届けたガマワン内相はユドヨノの代理となる。つまり、ユドヨノが地方首長選挙法に反対するのは矛盾である。国民には、ユドヨノが自分を悪者にしないための演技としか映っていない。

皮肉なことに、京都で立命館大学から「インドネシアの民主化に貢献した」として名誉博士号を授与されたユドヨノは、帰国後ただちに、「民主主義の破壊者」との痛烈な批判に迎えられたのであった。

【インドネシア政経ウォッチ】第100回 地方首長選挙法案とプラボウォのリベンジ(2014年9月18日)

国会で審議中の地方首長選挙法案をめぐって、大きな議論が巻き起こっている。同法案では、地方首長選挙を国民が一票を投じる直接選挙から、地方議会が選出する間接選挙へ変更する案が有力である。直接選挙は資金がかかりすぎて非効率であり、汚職撲滅も予想ほど進まなかったことが背景にある。

問題なのは、議論の中身だけではない。間接選挙への変更を支持する国会6会派は、いずれも大統領選挙で敗れたプラボウォ=ハッタ組の「紅白連合」に属する。

憲法裁判所に不服申し立てを却下され、大統領選挙での敗北を認めさせられた「紅白連合」に所属する政党は、新国会および新地方議会では多数派を占める。新国会・新政権発足前の現国会会期中に地方首長選挙法案を通せば、全国のほぼすべての議会で「紅白連合」は自らに都合の良い地方首長を選ぶことが可能となる。

すなわち、ジョコウィ=カラ政権は、プラボウォの息のかかった全国の地方首長・地方議会と対峙(たいじ)することになり、政権運営が不安定になる。新政権に揺さぶりをかけ、あわよくば任期途中で政権を崩壊させて大統領選挙に持ち込み、そこでプラボウォが再起を期す。いや、国会で大統領直接選挙をも間接選挙へ変更させてしまうかもしれない。これらの変更は行き過ぎたリベラリズムのイデオロギー的修正だ、という声さえ聞こえてくる。

まさに、プラボウォのリベンジである。そしてこれは時間の勝負となる。つまり、政策やイデオロギーとは関係ない「紅白連合」をプラボウォの政治母体として維持させるには、新政権発足前に法案を決着させなければならない。しかし、時間が延びると、ジョコウィ政権側へなびく政党が続出して、プラボウォのリベンジ・シナリオは崩壊する。

たしかに、インドネシア民主化の到達点ともいえる地方首長直接選挙には、まだ改善の余地がある。しかし、今の動きは国民不在の政治ゲームに過ぎない。国民はプラボウォの悪あがきに対して、とっくに愛想を尽かしている。