【インドネシア政経ウォッチ】第147回 問われる外資規制緩和の本気度(2016年2月25日)

政府は2月11 日、東南アジア諸国連合(ASEAN)・米国会議に出席するジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の訪米を前に、経済政策パッケージ第10 弾として投資ネガティブリスト(DNI)の概要を公表した。DNIは2年に1度改訂されるが、今回の改訂の目玉は、外資出資比率の大幅緩和である。

とりわけ、これまで国内資本のみとされてきた業種を含む35 業種で100%外資が認められたことは驚きである。対象となった従来の外資参入禁止業種には映画撮影・制作・配給および関連設備、一般・歯科・伝統医療行為、年金運用などがあり、これまで地場中小企業向けだったワルテル(貸し電話・インターネット屋)でも外資100%が認められた。

それら以外では、冷蔵保管倉庫(従来は33%)、レストラン・カフェ・バー(同49%)、スポーツ施設(同 49%)、映画撮影・吹替・複製(同49%)、クラムラバー製造(同49%)、病院経営コンサルティング・クリニックサービス(同67%)、薬品原材料生産(同85%)、危険物以外のゴミ処理(同95%)、高速道路運営(同 95%)などでも100%外資が認められた。

また、外資出資比率が67%に引き上げられたのは、 冷蔵保管倉庫以外の倉庫業(従来は33%)、旅行代理店・教育訓練(同49%)、私立博物館・ケータリング(同51%)、建設業ほか19業種(同55%)などである。

ただし、地場中小企業を保護するため、外資の最低出資額は100 億ルピア(約8,500 万円)以上とされた。 電子商取引(EC)では1,000 億ルピア以上ならば外資100%が認められるが、それ未満は67%までとされ た。

今回のDNIは、大統領の訪米直前という、関係省庁の反発を抑える絶妙のタイミングで発表されたが、 すでに国内業界団体からは外資支配を警戒する声が上がっている。投資調整庁はこれまで、外資の最低払込資本額などを内規でたびたび変更しており、後出しで様々な条件を加えて再規制する可能性も否定できない。 国内のナショナリズム感情の動きを踏まえ、外資規制緩和に対する政府の本気度が試されることになる。

 

(2016年2月25日執筆)

 

【インドネシア政経ウォッチ】第63回 国際収支安定のための外資規制緩和(2013年11月14日)

今年は3年に1度の投資ネガティブリストの改訂が行われる年である。しかし、当初、10月ごろと見られていた改訂リストの発表は遅れ、年末になりそうだ。外資規制を緩和したい経済調整大臣府や投資調整庁と、外資規制を強化して国内企業の育成を目指したい各省庁との間で、さまざまな駆け引きが行われている様子である。

昨今の厳しい経済状況で、改訂リストはより規制を緩和する方向へ向かいそうだ。何よりも今、政府に求められるのはマクロ経済の安定であり、軟化する通貨ルピアのしなやかな防衛である。そのためには、国際収支の安定が不可欠であり、経常収支の赤字を埋め合わせる資本収支の黒字が必要になる。そして、出入りの素早い証券投資よりも直接投資の増加が最重要になる。国際収支の安定のためにこそ、外資規制緩和が必要となるのである。

先週、ネガティブリスト改訂の内容が一部明らかにされたが、大きく2つの注目点がある。第1に、事業効率化のために外資を活用するという点である。なかでも、空港・港湾の管理運営に100%外資を認めるなど、なかなか進まないインフラ整備・効率化で外資を活用する意向が示された。インフラ投資に参入したい外資は多く、歓迎されよう。

第2に、輸出指向型外資をより重視したことである。消費活況の続くインドネシア国内市場を目指す外資よりも、インドネシアを生産拠点とし、輸出することで国際収支の安定に寄与する外資を求めている。輸出指向型外資への優遇策は、1980年代後半~1990年代前半に採られ、労働集約型産業が発展したが、その後競争力は低下した。今後の輸出産業としては二輪車・自動車と油脂化学が期待される。

早速、識者からは経済における外資シェア拡大への危惧が現れた。しかし政府は、外資への依存度を高めるというより、国内企業に外資との競争を促そうとしているようである。インドネシアの自信の表れといえるが、国内企業がその意図を汲み取って行動できるかが課題である。

外資参入は緩和される方向へ(2013.11.10改訂)

11月7日付コンパス紙によると、インドネシア政府は12月末までに投資ネガティブリストの改訂を終える予定。従来の予定より数カ月遅れとなっており、外資参入条件の緩和を目指す経済調整大臣府と各省庁との間で、調整に手間取っている様子がうかがえる。

ネガティブリスト改訂に当たっての原則は以下4点とのことである。すなわち、

(1) 目的は投資促進。
(2) 改訂前より制限的なものにしない。
(3) 1つの分野は1省庁による規定とする(複数省庁にまたがるのを避ける)。
(4) 零細中小企業分野、農業分野は国内向け保護対象として確保。

まだ議論の最中でファイナルではないが、現段階で、以下のような外資規制緩和を計画していることが明らかにされている。

(1) 空港管理運営、港湾管理運営、空港サービス管理運営は100%外資可能(資産ではなく、管理運営のみ)。
(2) 陸運旅客・貨物ターミナル管理・運営は49%まで外資可能(以前は外資参入不可)。
(3) 自然を生かした観光事業の外資比率は49%までから70%までへ。
(4) 被覆付通信業の外資比率は49%までから65%までへ。
(5) 製薬業の外資比率は75%までから85%までへ。

<投資調整庁長官発言>(2013.11.09 追加)
・水産業の外資比率は30%まで
・広告業の外資比率は51%まで(ASEAN企業優先)
・ベンチャーキャピタルなど金融業への外資参入規制緩和
・自動車状態点検業への外資参入規制緩和
・映画配給業、病院業への外資参入規制緩和
(出所)Bisnis Indonesiaより

(2013.11.10 追加)
・映画配給業は外資比率は49%まで。

これらの外資緩和の背景として、政府は、単にインドネシア国内市場だけを目的に来る投資ではなく、インドネシアを生産拠点として、海外へ輸出するための投資を歓迎するとの意向を示している。

一方、同じ記事の中で、銀行業や農園業における外資の支配が高まっているとの警告も発している。今回の外資規制緩和が明確な産業発展戦略に基づいて議論されているものなのかどうか、という疑問も呈している。

筆者としては、上記の議論の方向が国際収支改善・マクロ経済安定との接点を意識したものであり、必ずしも場当たり的なものではないとの印象を受ける。とくに、外資に対して、経済ナショナリズムの風潮が高まる印象を与えないように気を使っている点が注目される。

とはいえ、来年の総選挙・大統領選挙を控えて、人気取りのために、経済ナショナリズム意識の高揚を図ろうとする動きは出てくることになろう。インドネシアは、ここにきて急速に自信を持ち始めている。もう自分たちでできる、という過信さえ首をもたげ始めている。

ただし、以前と違うのは、それをイデオロギー的に進めようとしても、自分の本当の実力を省みる冷静さも持ち合わせていることである。外国支配、という意識の裏に、被植民地意識の根強さを感じる。外資もまた、「インドネシアを支配するのではない」というアピールをもっとするために、現場で現実にインドネシア人・社会との接点をもっともっと持ち、インドネシアでインドネシアのためになる、という姿勢を見せていく必要があると考える。