【インドネシア政経ウォッチ】第73回 東ジャワ州知事選挙疑惑(2014年2月6日)

インドネシアでは、選挙結果に対して不服申し立てがあると、憲法裁判所が選挙の勝者を最終決定する仕組みになっている。しかも、憲法裁判所の決定には第三者によるチェックが入らず、1回の判断で決められる。この仕組みを利用して、収賄を繰り返していたとされるのが、先に逮捕されたアキル前憲法裁判所長官である。

アキルは2013年10月2日、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙結果の最終決定に絡む贈収賄の現場を押さえられて逮捕され、その後、いくつかの地方首長選挙でも同様に収賄を繰り返していた疑いが浮上した。

14年1月末、アキルは、地方首長選挙結果の最終決定に手心を加えるため、申し立てを行った者に金品を要求したことをようやく認めた。相場は状況によって異なるが、30億~100億ルピア(約2,500万~8,300万円)だったもようである。アキルは、「金品を要求したが、相手が本当に用意するとは思わなかった」とうそぶくが、相手にすれば強要以外の何物でもないだろう。

そして、アキルが金品を要求した事例として、新たに、13年8月の東ジャワ州知事選挙が浮かび上がった。現職が順当に勝利したと思われた選挙だが、落選候補側が憲法裁判所へ不服を申し立てていた。

アキルによると、彼を含む裁判官は13年10月2日、不服を申し立てた落選候補の当選を決定。しかし、現職側から「現職当選とするよう助けてほしい」と執拗(しつよう)に迫られ、決定を覆すために100億ルピアを要求した。まさにその夜、上述の通り、アキルは汚職撲滅委員会(KPK)に逮捕された。結局、東ジャワ州知事選挙の結果は、数日後、アキル抜きの所内最終会議で審議され、現職当選と決定された。

再選された現職の東ジャワ州知事は民主党州支部長で、敗北すれば民主党には致命的な痛手だった。実際、ユドヨノ党首(大統領)が何度も東ジャワ入りしてテコ入れしていた。もしかすると、アキル逮捕の真の理由はこちらだったのかという疑念さえ浮かんでくる。

【インドネシア政経ウォッチ】第60回 ついにバンテン「帝国」へメス(2013年10月24日)

10月2日にアキル憲法裁長官が逮捕された汚職事件で、バンテン州レバック県知事選挙結果への異議申立に絡み、新たな贈賄疑惑が発覚した。贈賄したのは同州のアトゥット州知事の実弟ワワンで、事件発覚前にアキル、アトゥットとシンガポールで密談したとの証言が飛び出し、アトゥットを頂点とするバンテン「帝国」の縁故主義と癒着にもメスが入り始めた。

バンテン州の政治は、アトゥットの父親である故ハサン・ソヒブが仕切ってきた。彼は、伝統的武術(プンチャック・シラット)に秀でた特殊能力を持つ者から成る「ジャワラ」という暴力集団のトップに長年君臨し、イスラム教の高僧(キアイ)とともに、ゴルカル党の伸長に貢献してきた。そして、娘のアトゥットを2001年に州副知事、06年に州知事に当選させるとともに、親族を重要な政治ポストに配置させた。

現在、南タンゲラン市長がアトゥットの実弟ワワンの妻であり、別の実弟がセラン県副知事、義弟がセラン市長、息子が州選出地方代議会(DPD)議員、その妻がセラン市議会副議長、義母がパンデグラン県副知事、といった具合である。アトゥット一族に反旗を翻すのは困難な状態だった。

アトゥットの父・故ハサンはもともと実業家でもあり、1960年代からさまざまな政府プロジェクトを受注して富を蓄え、州商工会議所会頭も務め、州内の有力者だった。その影響は今も続き、州内の主な公共事業はアトゥット一族によって担われる傾向がある。

インドネシア汚職ウォッチ(ICW)によると、2011~13年に、アトゥットの親族企業10社と親族の関係会社24社が州内の175事業(総額1兆1,480億ルピア=約100億円)を担当したとされる。これらをめぐる汚職疑惑にもメスが入る可能性が出てきた。

バンテン州に限らず、地方首長を頂点とした「帝国」支配は全国各地に見られる。今回の件については、2014年総選挙をにらんだゴルカル党つぶしという面も否定できないが、「帝国」を脱した新たな政治への一歩となるかどうかが注目される。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第53回 現職優勢の東ジャワ州知事選挙(2013年9月5日)

東ジャワ州知事選挙は8月29日に投票が行われ、30政党以上の推薦を受けた現職のスカルウォ州知事=サイフラー・ユスフ州副知事のペア「カルサ」が当選確実の情勢である。

同選挙には「カルサ」のほか、闘争民主党推薦のバンバン=サイド組、民族覚醒党の推薦を受けたコフィファ=ヘルマン組、独立系のエギ・スジャナ=シハット組の4組で争われた。民間世論調査会社LSIのクイックカウントでは、「カルサ」が得票率47.91%を獲得し、それをコフィファ=ヘルマン組(37.76%)が追う展開となった。

元女性エンパワーメント担当国務大臣のコフィファは、国内最大のイスラム社会団体ナフダトゥール・ウラマ出身の女性政治家である。当初、東ジャワ州選挙委員会は、「カルサ」推薦の2政党がコフィファ=ヘルマン組も二重推薦したとの理由で、後者の立候補を却下した。それに対し、コフィファ側から選挙実施顧問会議に不服申立がなされ、それが認められたため、滑り込みで立候補できたという経緯がある。

不振だったのは、闘争民主党推薦のバンバン=サイド組で得票率はわずか11.05%だった。選挙運動には、ジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事も駆け付けたが、彼の応援で勝利した先の中ジャワ州知事選挙の再現はならなかった。その原因は必ずしもジョコウィにあるわけではない。バンバン自身の知名度の低さとともに、スラバヤ市長2期、スラバヤ副市長1期半ばで辞職、という彼の露わな権力欲への批判もあった。本来、スカルノ初代大統領の出身地で闘争民主党の強力な地盤である州中南部のマタラマン地方でさえも、バンバン=サイド組は振るわず、「カルサ」が勝利した。

民主党党首のユドヨノ大統領は選挙運動前の断食期間中、約1週間にわたり、州内をくまなく回った。ジャカルタ、中ジャワと州知事選で闘争民主党が勝利するなか、民主党員・スカルウォ州知事の万全の勝利が、民主党の存続と総選挙への準備に不可欠だったのである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第29回 資金まみれのパプア州で州知事選挙(2013年 3月 7日)

パプア州選挙委員会は2月13日、先に行われた州知事選挙の結果、民主党推薦のルーカス・エネンベ(前プンチャック・ジャヤ県知事)=クレメン・ティナル(前ミミカ県知事)組が119万9657票(得票率52%)を獲得して当選、と発表した。

この州知事選挙自体、前職のバルナバス・スエブ州知事が過去に2回州知事を務めたことを理由に選挙委員会から立候補を取り消されるなど、紆余(うよ)曲折を経て、何度か延期された後で実施された。候補者の多くが現職県知事であるなか、人口の多い中央高地を抑え、資金力に勝るルーカス候補が最有力視されていた。

パプア州の開発政策では、点在する村々へ一定額の資金を配分する形態が採られる。とくに中央高地の村々へのアクセス手段が限られているため、バラまき型にせざるを得ない面もある。各村には州からの10億ルピアに加えて、県からさらに10億~30億ルピアの資金が投下される。これらの資金は、町中の銀行にある各村の銀行口座へ振り込まれ、村から定期的に町へ降りてきて資金を引き出す、という形を採る。

特別自治を行うパプア州は、中央政府から通常の地方交付金に加えて、特別自治交付金を受け取る。県や村が分立して数が増えたため、その額は毎年増加している。その意味でパプアは決して貧しくない。村レベルへ配分される資金も、村人にとっては見当もつかないような額である。果たしてこれらの資金はどのように使われているのか。いや、そもそも、こうした資金の存在を村人は知っているのだろうか。

州知事選挙の結果発表後、2月21日にパプア州内2カ所で、民間武装勢力が軍施設を急襲し、8人の軍人と4人の民間人が死亡した。当選したルーカス候補のお膝元プンチャック・ジャヤ県で起きたため、選挙結果への不満が原因との見方もある。パプアではこうした暴力事件が後を絶たないが、「パプア独立」といったイデオロギーよりも、むしろ、どろどろしたカネの話が背景に絡んでいる可能性が高い。

 

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西ジャワ州知事選挙結果

3月3日、西ジャワ州選挙委員会は、2月24日に投票が行われた西ジャワ州知事選挙で現職アフマド・ヘリヤワン=デディ・ミズワル組が当選、と発表した。任期は2013〜2018年の5年間。

得票結果は以下のとおり(カッコ内は得票率)。

Ahmad Heryawan – Deddy Mizwar : 651万5313票(32.39%)
前州知事+俳優。福祉正義党(PKS)、開発統一党(PPP)、ハヌラ党推薦。

Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki : 571万4997票 (28,41%)
闘争民主党(PDIP)国会議員・女優+人権活動家。PDIP推薦。

Dede Yusuf – Lex Laksamana : 507万7522票 (25,24%)
前州副知事・俳優+州官房長。民主党推薦。

Irianto MS Syafiuddin (Yance) – Tatang F Hakim : 244万8358票 (12,17%)
インドラマユ県知事・ゴルカル党州支部長+元タシクマラヤ県知事。ゴルカル党推薦。

Dikdik Arif Mansur – Cecep N Suryana Toyib : 35万9233票(1,79%)
前南スマトラ州警察長官+前ランプン州警察長官。独立候補。

各県・市ごとに優勢だった候補は以下のとおり。

バンドン(Bandung)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
バンドン(Bandung)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
西バンドン(Bandung Barat)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
ブカシ(Bekasi)県:Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki
ブカシ(Bekasi)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
ボゴール(Bogor)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
ボゴール(Bogor)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
チアミス(Ciamis)県:Dede Yusuf – Lex Laksamana
チアンジュール(Cianjur)県: Dede Yusuf – Lex Laksamana
チレボン(Cirebon)県:Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki
チレボン(Cirebon)市:Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki
デポック(Depok)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
インドラマユ(Indramayu)県: Irianto MS Syafiuddin (Yance) – Tatang F Hakim
カラワン(Karawang)県:Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki
プルワカルタ(Purwakarta)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
スバン(Subang)県:Rieke Diah Pitaloka – Teten Masduki
スカブミ(Sukabumi)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
スカブミ(Sukabumi)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
スメダン(Sumedang)県:Dede Yusuf – Lex Laksamana
タシクマラヤ(Tasikmalaya)県:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar
タシクマラヤ(Tasikmalaya)市:Ahmad Heryawan – Dedy Mizwar

上の結果から、工業団地を数多く抱えるブカシ県、カラワン県でRieke Diah Pitaloka – Teten Masduki組が優勢であったことが注目される。Rieke Diah Pitalokaは、金属労連(FSPMI)などの労働者デモを積極的に支援してきた国会議員であり、労働組合が労働者の票をそれなりに固くまとめる力を持っていることが示されたのである。

投票における労働組合の統制が今後も効き続けるのか、Rieke Diah Pitalokaが出馬した西ジャワ州知事選挙だけで終わるのか、2014年総選挙を控えて、注目すべき点の一つである。