【スラバヤの風-24】出稼ぎ送り出し県からの脱却

中ジャワ州南部のウォノギリ県は、水が乏しく農業にあまり適さない山間部にあり、ジャワ島有数の貧困県と見なされてきた。多くのウォノギリ出身者が、以前から建設労働者や家事労働者として、その後は工場労働者として、ジャカルタなどへ出稼ぎに出ていた。ウォノギリ県の人口は120万人、そのうちの少なくとも2割が出稼ぎ人口である。今でも、ジャカルタとウォノギリとの間にはたくさんの直行バスが運行している。

この貧しい出稼ぎ送り出し県を、今では、毎日のように投資家が訪れている。とくに、韓国系ビジネスマンが熱心に通い詰める。ジャカルタ周辺の賃金高騰の影響で、繊維や縫製などの企業が中ジャワ州南部で工場移転の可能性を探っている。近くのボヨラリ県には、韓国政府の資金で繊維・縫製向けの工業団地の建設が始まっている。ボヨラリ県の2014年最低賃金(月額)は111万6000ルピア、ウォノギリ県のそれはさらに低い95万4000ルピアであり、これが投資家を工場移転に誘う要因となっている。

ウォノギリ県では、今年7月までに合板工場と女性下着工場が操業を開始する。いずれもインドネシア地場企業で、両工場を合わせて4100人の雇用機会が生まれる。このうち、700人がジャカルタでの出稼ぎから戻って就職すると見られる。加えて、韓国系の繊維工場やカバン製造工場がウォノギリ県への立地へ向けた最終段階に入っている。

ウォノギリ県ではダナル・ラフマント県知事が先頭になって動く。前述の女性下着工場の用地買収では、36人の地権者を説得し、わずか2週間で用地買収を成功させた。また、県知事自ら村々をまわり、工場で働く女性労働者の募集さえも行なった。

南海岸に建設されるセメント工場と合わせた港湾整備、複数の工業団地建設計画。出稼ぎ送り出し県からの脱却を熱く語る県知事の姿は、まさに、1970年代の日本の高度成長期、企業誘致にかけた地方の熱気を思い出させる。最貧県のイメージを一新するような変化がウォノギリ県で起こり始めている。

 

(2014年4月25日執筆)

 

【インドネシア政経ウォッチ】第66回 韓国系企業が集中するプルバリンガ県(2013年12月5日)

先週、中ジャワ州プルバリンガ県を訪問した。中ジャワ州の南西部、西ジャワ州との境に近い小さな県である。ジャカルタやスラバヤからは、この地域の商業センターであるプルウォクルトまで鉄道などで行き、そこから車で約30分である。

日本では無名なプルバリンガ県には、韓国系企業が20社以上も立地する。そのほぼすべてが、カツラや付けまつげを作る労働集約型企業である。最初の韓国系カツラ製造企業が操業を始めたのは1985年頃で、当時は従業員50人足らずの家内工業であった。それが90年代半ばから進出が相次ぎ、今では第2工場、第3工場を持つ韓国系企業さえ現れた。

でも、なぜカツラや付けまつげがここなのか。単に最低賃金が低いこと(2014年で102万3,000ルピア)だけが理由ではない。プルバリンガ県は、実は1950年代から「サングル」と呼ばれる伝統的な女性用の結い髪の生産地であり、この地域ではプルバリンガ女性の手先の器用さが際立っていた。韓国系企業はそれに目をつけた。しかし、当初はなかなか韓国系企業の思った通りの製品にならなかったようである。

カツラや付けまつげの製造では、細かな部品を家族の副業などで下請けする。下請先は現在290カ所あり、その一部は規模が拡大し、企業化している。これら下請を含め、カツラや付けまつげ製造だけで約5万人の雇用を生み出している。製造に従事するのはほとんどが女性である。このため、家事労働の使用人を見つけるのが難しいという。他方、男性の雇用機会は限られている。

韓国系企業が集中する別の理由は、県政府の投資認可ワンストップサービスである。県知事署名の立地許可以外の許認可は、県投資許可統合サービス事務所(KPMPT)で片付く。工業団地はないが、工場ゾーンでの用地取得に便宜を図ってくれる。労働組合活動は低調で労働争議もない。現地に根を下ろした韓国系企業は、今やプルバリンガ県にとって不可欠な存在なのである。

中ジャワへの企業移転

渋滞、賃金高騰、労働争議。ジャカルタ周辺で投資環境が急速に悪化しているとの認識が一部企業の間に出てきた。韓国やインドの企業のなかには、インドネシアからバングラデシュやミャンマーへの工場移転を考える企業もあるという。

インドネシア政府としては、何とか企業のインドネシアからの撤退、海外への移転を防ぎたいと考えている。「もはや低賃金労働を売り物にする国ではない」と言いながらも、労働集約型企業を引き留めるには、ジャカルタ周辺以外の場所を移転先としてプロモーションしなければならない。

その一つとして、最近よく名前の挙がるのは、スラバヤを中心とした東ジャワ州と、スマランやソロを含む中ジャワ州である。両州とも人口は約3500万人、豊富な労働力を抱えている。とくに、中ジャワ州は最低賃金がジャカルタ周辺の半分程度、最高のスマランでも1ヵ月120万ルピア程度であり、場所によっては同80〜90万ルピアの県・市もある。メディアを通じて、労働集約型企業には、「海外へ移るよりも中ジャワへ」というメッセージを流し始めている。

中ジャワ州投資局によると、2012年中に投資申請をした企業は40社あるが、そのうちの60%が拡張投資で、ジャカルタ周辺の既存工場に付加したものが大半だった。実際に投資を実施したのは40社中19社に留まる。

移転を計画している企業の多くは繊維産業で、中ジャワの人材は手先が器用で根気強く、しかも労働コストが安い、というのが魅力のようである。実際、ジャカルタ周辺の繊維計の工場で多くの中ジャワ出身者が働いているという。

変わったところでは、韓国系のカツラ・付け睫毛を製造する工場が中ジャワ州ボヨラリ県などに集積し始めている。工業団地がないところへの進出だが、集積し始めたことで、韓国政府の支援で、工業団地建設計画が進められている。もっとも、まだ韓国系だけで工業団地を埋めることは難しいので、韓国貿易公社(Kotra)関係者は「今後は日系企業にも立地して欲しい」と呼びかけている。

注目される中ジャワだが、州内で工業団地がまだ6ヵ所しかないことがネックである。うち5ヵ所は州都スマラン周辺、1ヵ所は南岸のチラチャップにある。しかも、スマラン周辺はすぐに入れる空き区画が工業団地にない状態である。このため、スマランの西側のクンダルと東側のデマックに新工業団地の造成が進められている(いずれもスマランから車で30分圏内)。

中ジャワについてはまだまだいろいろな話題があるが、引き続き、このブログで紹介していきたい。