【インドネシア政経ウォッチ】第1回「ジョコウィ現象」をどう見るか(2012年 8月 2日)
先月半ばに実施されたジャカルタ特別州知事選挙の結果は現地で注目を集めた。現職圧勝を予想した各種世論の調査結果に反し、闘争民主党とグリンドラ党が推すジョコウィ(中部ジャワ州ソロの現市長)とアホック(南スマトラ州東ブリトゥン県の前知事)の知事・副知事候補組が得票率42.6%で第1位となったためだ。ユドヨノ大統領が率いる民主党の推す現職のファウジ組(得票率34.05%)との間で9月に決選投票が行われる。
ファウジ組は、地元ブタウィ族出身、イスラム教徒、広範な支持団体、現職で知名度抜群という要素を持つ。だがジャカルタ生まれでないよそ者であるほか、副知事候補は華人・キリスト教徒(プロテスタント)、強固な支持団体は皆無、知名度は低いといったジョコウィ組に及ばなかった。常識的には考えにくい「ジョコウィ現象」はなぜ起こったのだろうか。
ちまたでは「ファウジの傲慢(ごうまん)なイメージが原因」との見方がある。ただ、自他ともに認めるジャカルタ通で清廉な彼をとがめるほど傲慢という印象はない。むしろ、さまざまな組織を固め、動員力にも優れるなど、ほぼ完璧の体制で圧勝を確信していたはずである。
だからこそ、ファウジ組は勝てなかったとの見方もある。組織的な動員から漏れたホワイトカラー、カネを配れば自分に投票するはずの「小さき民」への接近方法に工夫が足りなかった。お上が下々へ施しを与える旧来の政治家スタイルが通用しなくなったのである。
一方でジョコウィはあえて政党色を封印、「小さき民」の世界へ自らゲリラ的に飛び込み、彼らと同じ目線で交じり合った。中間層・ホワイトカラーに対して「一緒に何かを変えられるのではないか」というイメージを作り出した。しがらみのないよそ者・異端者だからこそ、新しいやり方へ開き直れたのである。
筆者はこの「ジョコウィ現象」に、政治を牛耳ってきた「旧来エリート主義」の時代が終焉する気配を感じている。政党がそれに気付いて修正できるのかどうか。新たな時代に向けて変わり続ける社会、その先に2014年の大統領選挙がある。
http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20120802idr027A
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