【インドネシア政経ウォッチ】第141回 インドネシアの黄金の島で起こっていること(2015年11月12日)
「東方見聞録」を記したマルコ・ポーロには「黄金の島ジパング」という記述があり、その島は日本を指すと言われる。だがそれは、本当はインドネシア東部地域の島々なのかもしれない。
最近、インドネシアの日刊紙「コンパス」や英BBCなど国内外メディアがマルク州ブル島での住民による金採掘の現状をレポートした。ブル島の金採掘は 2012年に始まり、急速に拡大した。農産物価格下落に直面した農民が耕作をやめて金採掘を始めたのを皮切りに、学校の先生も金採掘に走ったため、学校教育が頓挫(とんざ)する事態となった。
金採掘の横行の陰で、採掘中の事故死に加え、採取した金の純化に使用する水銀による中毒や汚染の問題が深刻化していた。なかには、毛髪中水銀濃度が18 ppm(ppmは100万分の1・健康な日本人女性で約 1.6 ppm)と高い住民があり、水銀中毒らしき症状の住民も見られるが、現場では「普通の病気」と放置されてきた。
専門家によれば、土壌や河川も水銀で汚染され、空気中に放出された水銀を吸い込んだり、食事を通じたりして住民の体内に水銀が蓄積される。さらには、政府指定の米作地帯であるブル島から汚染米がインドネシア東部地域へ広く移出される可能性がある。
金採掘は、手っ取り早い収入機会を住民に提供したが、その代償は、環境破壊と住民の健康悪化だった。ほとんどが所得の低い住民による違法採掘であり、停止させるのは難しい。
5月にブル島を訪問したジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、違法採掘場の即時閉鎖を命じたが、行政の動きは鈍い。金採掘はすでに役人や軍・警察の利権となっており、取り締まりが本気で進められる気配はない。
これはブル島に限った話ではない。「どこでも金が出る」と言われるスラウェシ島やカリマンタン島では、ブル島より10 年以上前からゴールド・ラッシュが起こっていた。採掘は幹線道路から見えない隠れた場所で行われ、あちこちで水銀汚染による不毛地が拡散している。インドネシアの黄金の島は、違法採掘という深刻な状況を前に、輝きを急速に失いつつある。
(2015年11月10日執筆)