新型コロナをめぐるマカッサルの3事件(松井和久)
【よりどりインドネシア第72号所収】
インドネシアの新型コロナウィルス感染拡大は、収束の気配を見せることなく、全国へ拡散し続けています。
断食月頃、いったん収まりかけたかに見えた首都ジャカルタでも毎日100人以上の新規感染者が続いているほか、東ジャワ州では1日に300人を超える新規感染者の発生する日も頻発しています。新規感染者数の増加が目立つのは、東ジャワ、ジャカルタ、南スラウェシ、中ジャワ、南カリマンタンなどです。
他方、治癒率(累積感染者数に占める累積治癒者数の比率)は多くの州で上昇傾向を示しており、全国でみると、1ヵ月前の5月22日時点で24.3%だったのが6月21日には40.1%へ増加しています。また、死亡率(累積感染者数に占める累積死亡者数の比率)は、同期で6.4%から5.4%へと低下しています。治癒率の上昇、死亡率の低下という数字を見る限り、インドネシア全体としては、新型コロナウィルス感染状況が少しずつ改善へ向かっているようにみえます。
しかし、州別に細かく見ると、治癒率が逆に低下している州が見られます。この1ヵ月で治癒率が低下した州はアチェ、バリ、中カリマンタン、北スマトラ、南スラウェシの各州で、過去1週間でみると、さらに東南スラウェシ、リアウ、北マルクが加わります。これらの州では、今後しばらくは感染拡大が続く可能性があります。バリは全国平均に比べて治癒率が大幅に高く、また死亡率も大幅に低いのですが、この1週間の感染者数が今までよりも増加傾向にあり、第2波が来ている可能性があります。西ジャワも同様の傾向を示しています。
6月11日時点での感染者1名が何人に感染させるかを示す実効再生産指数を各州別にみると、最も高いのが南スラウェシで1.51、以下、1以上なのがバンカ・ブリトゥン、中スラウェシ、北スラウェシ、マルク、東ジャワ、南カリマンタン、ジャカルタ、西カリマンタンなど、全34州のうち21州となっています。もっとも、実効再生産指数自体は、5月20日時点の全国で2.5~2.6という数字からすると低下していますが、なかなか1を切れない状況にあるといえます。
インドネシアは、6月5日からニューノーマルへの移行期間へ入っており、経済活動も再開へ向けて動き始めていますが、実効再生産指数がまだ確実に1を切れず、地方では感染者増加が抑えきれておらず、バリなどで第2波が始まっている可能性も出ている状況で、決して油断できない状況にあると思われます。
そんななかで、感染拡大が最も懸念される州のひとつである南スラウェシ州の州都マカッサルで、新型コロナをめぐる3つの事件が全国的な注目を集める事態となっています。その3つの事件とは、迅速抗体検査断固拒否事件、病院からの患者遺体の持ち逃げ事件、検査できずに胎児を亡くした妊婦事件、です。以下でその概要を見ていきます。
(以下、本文へ続く)