【スラバヤの風-29】大統領選挙とNU内部の分裂
東ジャワ州は、西ジャワ州に次ぐ全国第2位の3066万4958人の有権者を抱える大票田である。今回の大統領選挙では、これら2州の結果が勝敗を決するとも言われる。
東ジャワ州は、初代大統領スカルノの出生地ブリタールを含むことから、スカルノの娘メガワティが党首を務める闘争民主党(PDIP)の牙城である。他方、インドネシアで最大のイスラム社会団体ナフダトゥール・ウラマ(NU)の本拠地であり、キアイと呼ばれる高僧を通じて農村に至る津々浦々へ影響力を誇る。大統領候補にとっては、NUの支持をどれだけ取れるかが勝敗の分かれ目となるが、そのNUが今回は事実上分裂した。
その要因は、NU関係者を主体とした民族覚醒党(PKB)の政治的駆け引きである。当初、PKBは元憲法裁判所長官のマフド、国民的人気ダンドゥット歌手のロマ・イラマ、元副大統領でNU重鎮のユスフ・カラを独自に大統領候補としていたが、PDIPと連立してジャカルタ首都特別州知事のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)を大統領候補とし、先の3名をジョコウィと組む副大統領候補とした。
ところが、最終段階でPKBのムハイミン党首が副大統領候補に名乗りを上げたことから、NU関係者の一部がムハイミンと彼の率いるPKBに反旗を翻した。結局、ジョコウィはユスフ・カラを副大統領候補としたが、副大統領候補になれなかったマフドとロマ・イラマは、傷心のなか、プラボウォ=ハッタ陣営へ寝返り、同選対の中心人物となった。
こうした経緯から、大統領候補支持に関するNU内部は分裂した。NUは組織として特定大統領候補を支持しないと言明したが、ムハイミンPKB党首のやり方に否定的なサイドNU議長はプラボウォ=ハッタ組への支持を表明し、各地のキアイへ影響を与えた。
実際、プラボウォ=ハッタ、ジョコウィ=カラの両陣営の草刈場となったのは、NU地盤のマドゥラ島や東ジャワ州北海岸部であり、ここで両陣営とも「キアイの支持を取り付けた」との報道合戦を繰り広げた。しかし、マドゥラ島パムカサン県出身のマフドの影響力は予想以上に大きかった。ジョコウィを誹謗・中傷するタブロイド紙『オボール・ラクヤット』、SMS、モスクでの説教などを通じて、地元出身の実力者マフドが選対を務めるプラボウォ=ハッタ組への支持が広まった。
スラバヤなどの都市部ではジョコウィ=カラ組が圧勝だが、NU地盤のマドゥラ島や東ジャワ州北海岸部ではむしろプラボウォ=ハッタ組が勝ちそうである。だが、そこでは騒乱の起こる可能性が高いとして、治安当局は厳戒態勢を敷いている。
(2014年7月12日執筆)