【スラバヤの風-34】ブランタス川流域総合開発は今
東ジャワ州の中央部アルジュナ山系から南下し、マラン県、ブリタール県を通り、西へぐるりとまわってクディリ県、モジョクルト県を経由して最後はスラバヤ市から海へ出る。全長320キロメートル、流域面積1万1800平方キロメートルのブランタス川は、東ジャワ州最大の河川であるだけでなく、ブンガワン・ソロ川に次ぐジャワ島第2の大河でもある。
ブランタス川は、ジャワの古代王朝であるクディリ朝の時代から稲作を営む恵みの水をもたらしてきたと同時に、頻繁に洪水を引き起こしてきた。インドネシア政府は1961年、「ブランタス川流域総合開発計画」を策定し、日本の円借款による協力を受けて、洪水制御、灌漑、水力発電を目的とした複数のダム建設を進めた。
日本の協力は40年の長期にわたって続けられ、流域における米の増産やスラバヤ都市圏への送電など、地域経済の発展に大いに貢献した。 同時に、40年にわたる協力のなかで、日本人技術者からインドネシア人技術者への技術移転が進められ、現在も水資源開発などの分野で主導的な役割を果たす人材を輩出してきた。「ブランタス川流域総合開発計画」は、モノだけではなく、ヒトを作る日本の経済協力の好例として今もよく採り上げられている。
しかし、協力開始から50年以上を経て、ブランタス川をめぐる状況は大きく変わってきている。たとえば、協力実施時から課題だった中下流部での堆砂はますます深刻になっている。ブランタス川流域の人口はこの50年で2倍以上に増加した。その結果、かつては未耕作地だった山間部で田畑耕作が盛んに行われるようになり、それに伴う土壌流失がブランタス川の堆砂の大きな原因となっているとの見方がある。
また、クディリ付近では、堆砂を川底から掘り出す違法行為が頻発する一方、川の流量が低下したため、川面が大きく低下した。
川の流量の低下は、ブランタス川へ流れこむ水源数の減少が影響している可能性がある。環境NGOのWALHIによると、2005年以前は水源が421箇所もあったが、2005年には221箇所、2009年には57箇所、そして2012年にはわずか13箇所へと、10年経たない間に水源の数が激減した。とりわけ、水源に近い場所でのホテルや別荘地の開発が問題視されており、バトゥ市ではホテル建設への反対運動が起こった。
このように見てくると、急速な経済開発と人口増加のなかで、「ブランタス川流域総合開発」の役目は終わりつつあり、ブランタス川の河川としての機能をどのように保全するか、という新たな緊急の課題が表出しているように見える。
(2014年10月3日執筆)