【スラバヤの風-10】公共交通が退化した町

スラバヤに住んで、ずっとタクシーで移動していた。スラバヤのタクシーはブルーバードとアストラ系のオレンジが二大勢力で、ほかにも、かつてタクシー会社として最初に上場したゼブラや南スラウェシ出身のボソワ・グループの持つボソワなど多数ある。タクシー移動で生活上や仕事上、困ったことはとくになかったが、街歩きをするようになって、はたと気づいた。バスや乗合などの公共交通機関がすぐに見つからないのである。

スラバヤに公共交通機関は存在する。バスは国営ダムリが19系統を運行し、冷房バスも走っている。ダムリ以外の民間会社のバスもある。また、系統ごとに色分けされた「リン」と呼ばれる小型乗合(ジャカルタのミクロレットとほぼ同じ)も、調べると、計60系統以上走っていることが分かる。しかし、その存在が見えない。

実は、公共交通機関の台数がここ数年、減少している。6月2日付『テンポ』誌(東ジャワ版)によると、バスは2008年の250台から2011年には167台へ、「リン」は同じく5233台から4139台へ、それぞれ急減している。

対照的に、自家用二輪車・四輪車の台数は、そのわずか3年間に140万9360台から699万3413台へ激増している。経済成長に伴う所得上昇は、スラバヤの人々に二輪車や四輪車の購入を促し、公共交通機関ばなれを急速に引き起こさせたといえる。

もともとスラバヤは、公共交通機関が大きな役割を果たした町だった。オランダ植民地時代の1881年から約100年間、市内を路面電車や蒸気路面列車が走り、人々の足となっていた。モータリゼーションの進行とともに、路面電車や蒸気路面列車は交通渋滞を引き起こすと敬遠され、バスに取って代わられた。1980年代に筆者が訪れたスラバヤには、その頃のジャカルタと同様、ボルボ製やレイランド製の二階建てバスが走っていた。もちろん、ベチャの台数は今よりはるかに多かったし、一時期、バジャイもこの町を走っていた。

二輪車・四輪車台数の急増により、スラバヤも5年後にはジャカルタのような渋滞に直面することが確実と見られる。このため、スラバヤ市政府は、2015年の開業を目指して南北線(トラム「スロトレム」)と東西線(モノレール「ボヨレール」)を組み合わせた公共交通機関の整備を計画している。

公共交通機関が退化した町・スラバヤで、「スロトレム」と「ボヨレール」が自家用車利用者を本当に引き込めるのだろうか。タイミングとしては遅すぎた感が否めない。

 

(2013年9月21日執筆)

 

 

【インドネシア政経ウォッチ】第27回 モノレールをめぐる駆け引き(2013年 2月 21日)

洪水と渋滞ですっかり有名になったジャカルタでは、地下鉄やモノレールなど、公共交通機関の建設を通じた抜本的な対策が一層必要性を増している。費用が高いと問題になったものの、ジョコウィ州知事から一応ゴーサインの出た地下鉄に引き続き、先週はモノレール建設にも青信号が灯された。

ジャカルタのモノレール構想は、そのずさんな資金調達計画からいったんは頓挫。数本の細い鉄筋がむき出しになったモノレールの支柱の跡が痛々しかった。運営会社のジャカルタ・モノレール社は今も存続しているが、このほど同社の9割の株式をオルトゥス・ホールディングという企業が買収、と報道された。

オルトゥス・ホールディングを所有するのは、実業家のエドワード・スルヤジャヤである。彼は、トヨタなどの合弁相手であるアストラ・インターナショナルの創始者ウィリアム・スルヤジャヤの長男で、1990年代に破綻したスンマ銀行のオーナーであった。

これにより、ジャカルタのモノレール事業はオルトゥス・ホールディングの手に任されそうだが、ユスフ・カラ前副大統領を総帥とするハジ・カラ・グループがこれに異を唱えている。ハジ・カラ・グループは、バンドン、スラバヤ、マカッサル、パレンバンなどの地方都市でモノレール建設を推進中であり、ジャカルタでのモノレール建設にも関わってきた。ジャカルタ・モノレール社はなぜ、今ここでオルトゥス・ホールディングへ乗り換えたのか。ジャカルタ・モノレール社のスクマワティ社長は同じ南スラウェシ州出身のユスフ・カラ氏とは親しい間柄だけに、謎は深まる。

モノレールの車体は、多くの乗客を乗せられる日本製、価格の安い中国製に加えて、2月11日にブカシで公開されたインドネシア製も候補である。ハジ・カラ・グループの絡むパレンバンでは中国製の導入が検討されているが、ジャカルタではどうか。この辺りの話がオルトゥス・ホールディングの進出と関係している可能性もある。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20130221idr021A

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【インドネシア政経ウォッチ】第13回 MRTと首都交通システム(2012年 10月 25日)

今月15日にジャカルタ特別州の知事就任式を終えたジョコウィ新知事は、「大量高速公共交通システム(MRT)事業に関するプレゼンテーションを早急に求める」と述べた。交通問題の専門家から構成されるインドネシア交通コミュニティ(MTI)がMRTの事業コストの高さを疑問視しているため、より安いコストで建設可能かを再検討するのが狙いだ。再検討作業に時間がかかれば、建設計画に遅れが生じる可能性が出てくる。

一部のマスコミは、事業の遅延だけでなく「白紙化の可能性もある」と報じた。知事が代替輸送手段にも言及したためである。知事は翌日、白紙化の可能性を否定して事業継続を明言した。ただ1キロメートル当たりの建設コストが、生活水準の高いシンガポールよりもはるかに高いことを引き合いに、事業コストに対する説明を求める姿勢をあらためて表明した。

MRT事業とは別に、資金難で一度は頓挫したモノレールの敷設計画が、国営アディカルヤ主導のコンソーシアムで動き始めた。もともとMRTとモノレールは、どちらかをジャカルタに適用するという話だったが、現在では両方とも必要との認識に至っている。今月19日にはアホック副知事から、「MRTとモノレールの運営を一体化してはどうか」との提案も出た。

知事は、MRT、モノレール、バスウエーなどすべての公共交通手段を有機的に統合する方法を考えている。早速、老朽化したバス車両を更新し、中型バスを冷房付きの大型のバスに代えていく構想を示した。

インドネシアでは「まずやってみて問題があれば後で考える」のが一般的である。渋滞解消待ったなしのジャカルタでは、将来を見据えた交通システムの体系化は今さら難しく、やはり「走りながら考える」ことになる。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20121025idr022A

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