【インドネシア政経ウォッチ】第58回 憲法裁判所長官逮捕の衝撃(2013年10月10日)
10月2日、反汚職委員会(KPK)がアキル・モフタル憲法裁判所長官を贈収賄の現行犯で逮捕し、現場で28万4,040シンガポールドル(約2,210万円)および2万2,000米ドル(約210万円)の現金を押収するという事件が起きた。
憲法裁判所は、スハルト政権崩壊後、独立・中立の立場から違憲審査を行う機関として新設され、その判断は最終決定となる。憲法裁はKPKと並んで、民主化への国民の期待を一身に集めてきただけに、今回の事件が社会に与えた衝撃は極めて大きい。
憲法裁は、地方首長選挙の結果をめぐる不服申立に対して、それを認めるか否かの最終判断を下す役割も持つ。今回は、現職が再選された中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙で別候補が不服申立を行い、現職側がそれを認めないよう、アキル長官に働きかけたという話である。捜査の過程で、バンテン州レバック県知事選挙に関しても同様の贈収賄疑惑が明らかになり、バンテン州知事の関与が取り沙汰されている。
実は、アキル長官をめぐっては、不問に付されたとはいえ、長官になる以前、憲法裁の裁判官のときから、同様の贈収賄疑惑が複数起こっていた。彼はまた、地方首長選挙結果の最終判断だけでなく、多くの地方政府分立の是非の判断にも関わった。『コンパス』紙は、「アキル長官への贈賄相場は1件およそ30億ルピア(約2,530万円)」と報じた。
アキル長官は西カリマンタン州出身のゴルカル党所属の政治家であり、今回の贈収賄を仲介した同党のハイルン・ニサ国会議員と同僚だった。それにしても、なぜ政治家が憲法裁のトップに就くのか。それを問題視する意見は根強いが、今にしてみると、実は内部の汚職を表面化させないためという理由がそもそもあったのではないかと思えてくる。憲法裁には、1回限りの判決が最終判断であることを悪用し、内部で汚職が促される構造があったと考えられる。
今回の事件を通じて、既存の多くの地方首長や分立した地方政府の正統性自体が大きく揺らぐ可能性が出てきた。
http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20131010idr021A
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