【スラバヤの風-39】ジュンブル・ファッション・カーニバル

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日本ならば、あちこちの地方で毎週のようにお祭りがある。インドネシアでは、宗教行事を除いてあまりお祭りを見かけない。それがちょっとつまらないと思っていた。ところが、今や全国23都市でカーニバルが催され、インドネシア・カーニバル協会が設立されるところまで来ていたことに気がついた。インドネシアは、いつの間にか、お祭りに満ちあふれる国へ変わっていたのである。

その発端は、2001年に始まり、2014年で14回を数える東ジャワ州ジュンブル県のジュンブル・ファッション・カーニバル(JFC)である。総合プロデューサーを務めるディナンド・ファリズ氏がJFCを提唱したのには理由があった。

ジュンブル県は農業県で、とくに葉タバコ栽培の中心地である。近年の禁煙運動の影響でタバコへの需要が減少し、県内のタバコ工場が閉鎖されて失業が広がった。とくに失業した若者たちは懐疑的かつ非生産的となり、加えて、インターネットやテレビなどのメディアが彼らをより受動的にした。

ファリズ氏は、こうした状況をジュンブル県の未来への危機と認識した。彼は、ファッションを通じて若者たちにライフスキルを学ばせることで、創造性を促し、協力を構築し、自信をもたせ、リーダーシップを発揮させる機会としてJFCを考案したのである。

JFCは毎年異なるテーマで様々なファッションを提示する。過去には、バリ爆弾事件やスマトラ沖地震・津波などがテーマとなった。参加する若者たちは、これらテーマを通じてグローバルな現象を学び、コスチュームのデザインや音楽を創造し、表現していく。JFCでは、各チームがカテゴリー別に競い、優勝チームには奨学金が送られる。クライマックスは、参加者のデザインしたコスチュームをまとった総勢400人以上の路上パレードで、沿道には約10万人以上の観客があふれる。

JFCは地域経済に多彩な恩恵をもたらす。デザイナーはもちろん、地元の仕立屋、アクセサリー屋、ハンディクラフト屋などが動員され、新たなファッション・デザイン産業が生まれる。飲食店、ホテル、露天商(カキリマ)も潤うことは言うまでもない。

その後、2008年、中ジャワ州ソロ市では、ジョコウィ市長(当時。現大統領)の下で、初めてのソロ・バティック・カーニバル(SBC)が開催されたが、ファリズ氏率いるJFCの52名が参加し、先導役を務めた。SBCは、「ソロがイスラム強硬派の本拠地」というイメージを払拭する目的で開始され、今ではJFCと並ぶ規模のカーニバルへ成長した。こうして、インドネシアの地方都市で、カーニバルを活かした街づくりが静かに広まりつつある。

 

 

(2014年12月19日執筆)

 

【インドネシア政経ウォッチ】第14回 HasmiとHASMI(2012年 11月 1日)

国家警察テロ対策部隊(Densus 88)は10月26日から27日にかけて、ジャカルタ、西ジャワ州ボゴール、東ジャワ州マディウン、中ジャワ州ソロの4都市でテロ容疑者11人を逮捕した。米国大使館、オーストラリア大使館前のプラザ89ビル、中ジャワ州スマランの警察機動隊本部前、東ジャワ州スラバヤの米国総領事館などを標的としたテロを計画していたとの容疑からだ。同時に、爆弾製造の材料や爆発物なども押収した。

警察によると、彼らはハスミ(Hasmi)と呼ばれる新たなテロリスト・グループのメンバーで、中スラウェシ州ポソでの警察官殺害や爆弾事件にもかかわっている。逮捕されたアブ・ハニファ(26歳)はリーダーで、ポソでテロリスト訓練を受けたといわれている。ポソからソロへ戻った後、近隣住民に弓矢や剣のほか、火器の使い方も教えていた。中ジャワやジョクジャカルタ特別州の急進イスラーム組織ラスカル・ヒスバとの強い関係を指摘する評論家もいる。

ところが、すぐに同名の組織がテロリストとの関係を否定し、警察に抗議する声明が出された。この声明を出したハスミ(HASMI)は、Harakah Suniyyah untuk Masyarakat Islamiという組織で前述のHasmiとは別組織。「逮捕された11人は会員ではない」「暴力を否定する」と訴えた。HASMIは、初期イスラーム(サラフ)への回帰を掲げるサラフィー主義の団体で、2004年に社会団体として政府に正式登録されている。厳格なイスラームを希求するが、政治には消極的・保守的とみられている。

警察は結局、HASMIがHasmiと別組織であることを認めるとともに、Hasmiのような新グループが容易に形成される可能性にも言及した。アブ・ハニファはジュマア・イスラミアの信奉者とされるが、Hasmiのメンバーとポソ・グループとは直接の関係はないという見方もある。彼らのネットワークのより詳細な解明が待たれる。

一方で暴力を否定するといっても、HASMIは急進イスラーム組織と思想的に共通する部分があるため、警察が大きな関心を持っていることは想像に難くない。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20121101idr021A

※この記事は、アジア経済ビジネス情報を発信するNNA(株式会社エヌ・エヌ・エー)の許可を得て掲載しております。

ソロの工場に掲げられた標語集

先週の中ジャワ州ソロ(スラカルタ)への出張では、2件の工場訪問も行なった。いずれも繊維関係の有名工場で、そのうちの1社は、従業員数4万人を抱えるインドネシア最大の繊維・縫製企業である。

4万人の従業員を抱える企業では、上のような写真の縫製工場が11棟ある。これ以外に、今回は見学できなかったが、生地を製造する大きな紡績工場が数棟あり、この企業だけで日本全体の2倍以上、韓国全体とほぼ同じ紡績生産を行っているというから、その規模は桁違いである。
中ジャワ州は、ソロを始めとして、ジャカルタ周辺や中国からの繊維関係企業の移転あるいはOEM生産委託先として、注目を集めている。それは、単に最低賃金が低いからだけでなく、このような繊維・縫製関連の実績や基盤がかなり整っていることも背景にある。

今回訪問した2つの工場では、工場内に掲げられた標語がなかなか興味深かった。そのいくつかを以下に紹介する。

「おしゃべりは少なく、働きは多く」。韻を踏んでいるのは、インドネシアの詩ではよくあること。とにかく、インドネシアの人々はおしゃべりが好き。それが職場の雰囲気を和らげているのだが、「おしゃべり禁止!」としないところが興味深い。

「頭のいい人は常に方法を探す。怠け者は常に理由を探す」。問題に直面したときに、どう対応するか、という話なのだろう。まずは自分を守るために「自分は悪くない」と主張し、言い訳を並べる、というのは、何もインドネシア人に限ったことではない。

「怒り。1度怒ると、喜びがなくなる。2度怒ると、理性が飛んで行く。3度怒ると、血圧が上がる。4回怒ると、友だちが去っていく。5回怒ると、すぐに老ける。6回怒ると、罪の扉が開かれる」。最後の6回目のは、怒ること自体が罪となり、地獄への門が開かれる、という意味なのだろうか。

「心。喜びの心は、力強い薬である。頑なな心は、行き止まりにぶつかる。柔らかな心は、親友を招く。貪欲な心は、罠をつくる。きれいな心は、問題を遠ざける」。前の「怒り」と対峙して掲げられていた。もう一つあるのだが、荷物が置かれていて、読み取れなかった。

これらの標語は、社長訓なのだろうか。私には、おそらく、従業員が自分たちで考えて作ったものではないかと思えた。

日本の工場などでは、規律を守らせたり、安全を換気したりする、体言止めの硬い標語が多い印象だったからか、ソロの2工場で見た標語は、思わず「そうだよな」と頷いてしまう、柔らかさを感じた。

標語という些細なものではあるが、職場にストレスを与え続けず、かつ、個々人のモチベーションを高められるような環境づくりという意味では、日本にとっても参考になるかもしれない。