【スラバヤの風-26】アイスクリームとブンクル公園
2014年5月11日朝、スラバヤ市内を行き交う人々は皆がみんな赤い服を着ている。シンボルカラーが赤の某政党のイベントか何かと思ったら、違った。赤い服を着て行くと無料でアイスがもらえるらしい。そんな噂を聞きつけた人々が、イベント会場となるブンクル公園を目指していた。スラバヤ市制721周年を記念して、ユニリバー社が自社アイスクリーム『ウォールズ』を無料配布するイベントが行われたのである。
しかし、予想以上に人が集まったため、主催者は赤い服でも『ウォールズ』のロゴを付けた者のみに配布すると急遽変更した。すると、アイスクリームをもらえない人々が怒り出した。彼らの怒りの矛先は、ブンクル公園やその周辺へ向けられ、あっという間に、大勢の人々によって花壇は荒らされ、草花は踏みつけられてしまった。
ブンクル公園は、スラバヤ市が誇る名公園である。2013年12月、ブンクル公園は、福岡市に本拠のある国連ハビタットからアジア都市景観賞を受賞した。この賞はアジアの優れた建造物や街並みを表彰するもので、ブンクル公園は、草花のきれいな単なる公園にとどまらず、無線インターネット接続や免許証書き換え出張所など、複合的な機能を持つ公園として評価された。受賞は公園整備に費やした長年の努力の賜物であるが、それがわずか数時間のイベントで台無しになってしまったのである。
環境美化に取り組んできたスラバヤ市のリスマ市長は、メディアを前に、鬼のような形相で怒りを爆発させた。イベント終了後、すぐに主催者へ抗議し、裁判所を通じてユニリバー社へ損害賠償請求をすると息巻いた。そして、職員に予備の草花を至急用意させ、自ら率先して花壇の草花の植え替え作業に取り掛かった。ユニリバー社は正式に謝罪し、弁済費用を負担すると約束した。
このイベントは市長から正式許可を取っていなかったことが発覚し、主催者が主張する許可書の真偽が問われる事態となった。主催者は、州副知事が出席したことで、許可は問題ないと思い込んでいた様子である。
売春街ドリーの閉鎖や動物園管理などの問題を抱え、副市長を始めとする政治家や実業家からのリスマ市長への風当たりは益々強くなっている。彼らにとっては、リスマ市長の評判をどう落とすかが最大の関心事だろう。その意味で、今回のアイスクリーム騒動は、格好の契機となり得たかもしれないが、逆に、リスマ市長の不退転の姿勢がさらに強調される結果となった。
(2014年5月29日執筆)