【インドネシア政経ウォッチ】第148回 閣僚間で罵り合い、でも政権は安定(2016年3月11日)

このところ、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権内部での閣内不一致が表面化している。とくに、リザル調整相(海事)とスディルマン・エネルギー・鉱物資源相との対立はその典型である。

両大臣は、マルク州南部のマセラ鉱区でのガス田開発をめぐって対立する。日本の国際石油開発帝石(INPEX)が主導する同鉱区のガス田開発は、深海からのガス抽出という技術的理由により、前政権下で海上にプラントを浮かべる洋上方式が提案され、了承された。

その後、開発側から生産量拡大に伴う修正案が出されると、現政権下で議論が紛糾し始めた。リザル調整相が陸上方式を強力に主張したのである。リザル氏側もスディルマン氏側も事前調査を行い、互いに自案の優位性を主張した。このため、政府は第三者機関に依頼して再調査を行い、洋上方式が優位であるとの結論が出された。

しかし、ジョコウィ大統領はそこで決断できなかった。修正案を新たな利権獲得機会と捉えた人々が動き出していた。マルク州内では、「洋上方式なら利益を全部外資に取られ、地元に何の恩恵もない」という話が住民レベルに広まっていた。陸上設備の設置場所をめぐる県政府間の激しい対立や値上がり期待の土地の買い占めも起こり、政治対立や住民間抗争などの恐れが出てきた。

リザル氏は、「スディルマン・エネ鉱相は海事担当調整相の管轄下にある」として自案を譲らず、閣議ではスディルマン氏と罵り合う場面すらあった。スディルマン氏は、今回の対立の裏で事業への新規参入を狙う企業の存在さえ示唆した。結局、ジョコウィ大統領はさらなる調査を要請して決定を先送りし、事業開始が予定よりも遅れる可能性が高くなった。

もっとも、こうした閣内不一致や大統領の指導力の欠如が露呈しても、現政権が不安定化する様子はうかがえない。これまでに野党勢力は切り崩されて弱体化し、現大統領に対抗する政治家もまだ現れていないためである。現政権の奇妙な安定はしばらく続くと見られる。

 

(2016年3月11日執筆)

 

アンボンとスラバヤにて

今回のインドネシア出張でのメインは、アンボンとスラバヤでの講演だった。いずれも、インドネシア側から招待され、交通費、ホテル代、講演料も先方が負担した。

とは言っても、今回の成田=スラバヤは、燃料サーチャージ込みの往復で38,520円と破格に安い中華航空の便で行ったので、交通費でもお釣りがくるほどだった。これだけ安いと、日本国内の地方へ行くよりも、インドネシアへ出かけるほうが低コストとなるかもしれない。こうした状況も手伝って、私の感覚では、日本国内、海外という区別がほぼなくなっている。

アンボン(マルク州の州都)では2月11日、「マルク州と日本との貿易投資関係」と題して、シンポジウムで講演した。このシンポジウムは、EUがインドネシア東部地域の幾つかの州を対象に行っている貿易投資促進のためのプログラムCITRA(Centre for Investment and Trade Advisory)の一環で開催されたもので、EUから委託を受けたスラバヤのNGOであるREDI(Regional Economic Development Institute)からの依頼で招かれたものである。

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マルク州はもともと植民地時代から香辛料で有名だが、現在の主要産業は水産業であり、海産物の輸出で経済が回っている。しかし、養殖などの育てる漁業はほとんど根付いていない。20年前、スラウェシ島近海で「魚が獲れなくなってきた」という漁民の話を聞いてから久しいが、漁民は魚の群れを追って、スラウェシ島から東へ東へと移動し、今はマルク州の海域が主たる漁場となっているのである。

新政権のもとで、違法外国漁船の摘発が行われ、水産資源の枯渇スピードが若干遅くはなったが、マルク州内には水揚げした水産物を扱える場所もキャパも少ないため、水産物生産高が大きく減少し、地元経済にプラスとはなっていない。厳しい現実がそこにあった。

また、マルク州では、南東海域でマセラ鉱区の大規模ガス田開発の話が日本も関わる形で進んでおり、その権益を巡って、様々な思惑が入り乱れている様子が伺えた。この件については、後日、じっくりと調べてみたいと思う。

アンボンでは、5年ぶりに様々な旧友と再会し、ゆっくり話すことができたのが最大の喜びだった。

彼らと話しながら、「東インドネシア・ラブ」の気持ちがひしひしと沸いてきた。マルク州をもっと日本の方々に知ってもらうための役目を果たそうと思った。今年の11月ごろに、マルク州代表団が日本へ視察に来るという計画もあるようなので、その際には最大限のお手伝いをしたいと思った。

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2月14日は、東ジャワ州シドアルジョのムハマディヤ大学シドアルジョ校で、「日本における教育のモチベーション」という、主催者側から与えられた題で講演した。

教育学が専門ではないので、ちょっと的外れなことを言ったかもしれないが、目的が、参加者である学生(ほとんどが小学校教師になる)のモチベーションを上げることだったので、日本の学校の話をするだけでも刺激があったように思う。

しかし、わざわざ日本から人を招いて話を聞きかなければならないような内容だったのだろうか、という疑問はぬぐえない。日本人だったら誰でもよかったのかもしれない。でも、一緒に講演した方々が大上段に構えた大風呂敷の話をしていたので、もっと身近なことを生かした、学生の意識に働きかけるような話のほうが効果的なのではないかと思った。