【インドネシア政経ウォッチ】第68回 全国と各州での経済成長率の乖離(2013年12月19日)

2014年のインドネシアの経済成長率予測は、時がたつにつれて低下してきた。中央銀行の当初予測(6.4~6.8%)は8月に6.0~6.4%、11月には5.8~6.2%、現状では6%いくかいかないか、という線へ後退した。国内では「13年よりも14年は好転する」という楽観的な見方が多かったが、10月に世界銀行が5.3%と13年予測値(5.6%)を下回る数字を出した頃から、インドネシア政府も下方修正せざるを得ない状況となった。

経済成長率の下方修正は、政策金利(BIレート)引き上げによる金利上昇の影響への懸念が背景にある。これは、政府が経済成長よりもマクロ経済の安定を選択したことを意味し、14年の経済成長率が13年を下回るのもやむなしとのシグナルを市場へ送った。今の政府の期待は、低いインフレ率と14年総選挙による国内消費である。

確かに、総選挙で喚起される国内消費はそれなりにある。おそろいの政党Tシャツなどの選挙グッズ、政党や候補者のポスターや垂れ幕などの印刷、集会で出される食事。それでなくとも選挙ではさまざまなカネが動き、それが消費需要を促す。有権者の選挙への関心が低下し、大衆動員型選挙が難しくなっても、ある程度の需要は喚起される。

そのためか、各州レベルでの14年の経済成長率見通しは相当に楽観的である。中銀の予測は、カリマンタンを除くジャワ島外で高成長が続くと見ている。なかでもスラウェシ島では、中スラウェシ州の9.7%を筆頭に、西スラウェシ州が9.1~9.5%、北スラウェシ州が7.7~8.1%、南スラウェシ州が7.4~7.8%と続く。スマトラでも各州で6%以上の成長を見込む。

ジャワ島内でも、東ジャワ州は6.8~7.0%と依然として高成長を見込み、製造業が集中する西ジャワ州(5.8~6.4%)やバンテン州(5.6~6.0%)とは対照的である。首都ジャカルタも6.1~6.5%と強気である。

インドネシアは「内需主導のためリーマンショックの影響をあまり受けなかった」と評されたが、そのときも各州の経済成長率は全国のそれを上回っていた。来年も内需の動向が経済成長の鍵を握る。

【インドネシア政経ウォッチ】第37回 外国銀行の台頭と特殊銀行論(2013年 5月 2日)

ここ数年、インドネシア国内では外国銀行の台頭への警戒論が出ている。中央銀行は昨年11月、資産5兆ルピア(約500億円)以下の外国銀行支店は資本追加または事業縮小のいずれかを選択することや、外国銀行支店は3年以内にインドネシア法人とすることなどを含む新政策を発表した。今年3月には、次期中銀総裁のアグス蔵相が「外資系合弁銀行のトップにはインドネシア人が就くべき」と発言した。これらの動きを、ナショナリズムの影響が濃くなっていると過敏に受けとめる向きもある。

しかし、中銀が外国銀行の台頭を真に深刻に考えている様子はない。4月25日開催の「外国支配が進む中での特殊銀行の可能性と挑戦」と題したセミナーで、中銀のムルヤ・シレガル研究開発部長は、外国銀行のシェアが貸付で33%、資産で37%、預金で36%、中核資本金で42%とのデータを掲げ、「外国銀行支配という状況にはまだ遠い」との認識を示した。

外国銀行の台頭に危機感を感じているのは、競争相手となる一部の国内銀行である。同セミナーに出席したシギット・プラモノ全国銀行協会会長は、中小企業向け、農業向けなど、産業別に特化した特殊銀行を設立する必要性を強調した。そこには、特殊銀行を活用しながら経済成長を進めた中国のやり方をインドネシアも見習うべきとの考えがある。

実際、1980年代の金融自由化以前は、たとえばバンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)は中小企業向け、バンク・ダガン・ヌガラ(BDN)は商業向け、というふうに各国立銀行には対象産業が想定されていた。金融自由化後にそれが崩れ、複数の国立銀行が合併してマンディリ銀行が誕生するに至った。それが今、外国銀行の台頭をきっかけに特殊銀行待望論が現れてきた。

特殊銀行設立に中銀は否定的である。全セクターを対象とすることで、銀行は特定産業におけるリスクを回避し、競争力を高めてきたからである。アグス新中銀総裁も、現実的な対応を継続すると見られる。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20130502idr025A

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