【インドネシア政経ウォッチ】第89回 第2回討論、両者とも精彩を欠く(2014/06/19)

6月15日夜、大統領候補による2回目のテレビ討論が生中継された。今回のテーマは経済開発と社会福祉で、副大統領候補を伴わず、プラボウォとジョコウィの一騎打ちとなった。

両者とも、インドネシアの国益に沿った自立した競争力のある経済を確立する、貧困層に配慮した社会福祉を進める、といった開発の方向性に大きな違いはなかった。外国資本に対しては、表現に差はあるものの、インドネシア自身の利益に沿わない場合には規制をかけるという点で同じだった。自国民を念頭に置いた選挙運動を行っているため、実際の政策はより現実的になると予想されるものの、注意を払う必要はある。

しかし、両者の政策実施の方法論は全く違っていた。プラボウォは国富が外国資本を通じて国外へ大量に漏れていることを前提に、その漏れをなくし、国内で活用することで、インフラ整備も庶民経済も社会福祉も実現できると説いた。とくに大臣や官僚の福利厚生を高め、適切な政府介入を行うことを強調した。また、外国投資を歓迎するが、地場企業を弱体化させないことを求めた。

他方、ジョコウィは、既存の予算を精査し、効率的かつ公正に執行するための電子化を進め、燃料補助金などを削減して教育・保健へ振り向けるとした。とくに教育は彼の説く「精神革命」の根本であり、「最優先で予算配分する」と述べた。外国投資については、既存の契約の順守が基本だが、中身を精査し、国家利益を著しく阻害するものは改訂するという考えを示した。

テレビ討論を見る限り、両者とも経済は得意でない様子がうかがえた。とくにジョコウィは言葉に力がなく、いかにも自信なさげだった。一方、プラボウォは朗々と話すものの、中身が乏しかった。創造産業に関する議論で、プラボウォが「良いものは良いと認めたい」とジョコウィに賛意を示す一幕もあったが、両者とも精彩を欠き、筆者から見ると、引き分けに終わった観がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第88回 第1回討論会はジョコウィが圧倒(2014年6月12日)

6月9日夜、正副大統領候補による第1回のテレビ討論が生中継された。テーマは民主主義、清潔な政府、法の支配の確立である。

プラボウォ=ハッタ組の弁舌は滑らかで、さすがに演説慣れしている。しかし、話のほとんどは規範的かつ一般的な内容に終始し、司会者の質問に的確に答えられない部分もあった。他方、ジョコウィ=カラ組の弁舌はややぎこちなく、持ち時間をかなり余すなど、時間を有効に使えなかった。ただ、話のなかには電子政府システムの構築や地方への予算施行など、 細かいテクニカルな内容も含まれ、司会者の質問にもほぼ的確に答えていた。

圧巻は、両者間での相互質問だった。ジョコウィ=カラ組のカラは、プラボウォが大統領に当選した場合、彼自身が関わったとされる活動家の拉致・行方不明事件など過去の人権問題へどう対処するかを質した。プラボウォは「自身が軍職を解かれたのは上官の判断」「人権問題に関わったかどうかは上官に聞いてほしい」とやや感情的に答えたが、その判断が不当であるとは訴えなかった。

間接的だが、プラボウォは公開の場でその上官の判断を容認したのである。そして、「爆弾などを使って国家破壊を企てる者たちから国を守ってきた」「罪のない多くの国民を守ってきたのが自分だ」と強調した。過去の人権問題への対応に関する答えはなかった。

一方、プラボウォはジョコウィに対して、金のかかる地方首長選挙や地方政府分立への対処法を質した。ジョコウィは、地方首長選挙の一括開催や開発効果を基にした地方政府分立案の検討を通じて、予算節約を図ると答えた。国家予算を使って地方政府を中央に従わせる「予算政治」という用語を使った。

途中、プラボウォ=ハッタ組がジョコウィ=カラ組の主張する電子政府システムに賛成するなど、第1回討論はジョコウィ=カラ組が圧倒したという見方がソーシャルメディアでは支配的だった。大統領選挙投票までにテレビ討論はさらに4回開催される。