【インドネシア政経ウォッチ】第41回 燃料値上げ反対の福祉正義党(2013年 6月 7日)

牛肉輸入枠をめぐる汚職事件に深く関与した福祉正義党が、来年の総選挙を控えて、組織存続のためになりふり構わぬ行動に出た。ユドヨノ政権が計画している補助金対象石油燃料の値上げに反対の姿勢を明確にしたのである。同党は政権与党であり、しかも、値上げに賛成した過去もある。だが、党内では、今回の牛肉輸入枠汚職事件で、ユドヨノ大統領が守ってくれなかったことへの不満が大きいと予想される。

福祉正義党は、牛肉輸入枠を特定業者に配分するために工作した見返りとして業者から賄賂を受け取っただけでなく、それを組織的にマネーロンダリング(資金洗浄)した疑いが持たれている。実際、党所属の一部政治家の問題で済ますことはできず、党首や党最高顧問までもが積極的にかかわった疑いが出ている。

牛肉輸入枠をめぐっては、党員のススウォノ農相の関与も取り沙汰され、このままでは福祉正義党は解党せざるを得ないとの危機感さえも現れている。実際、それを見越すかのように、すでに、党幹部のタムシル・リルン国会議員がマカッサル市長選挙へ立候補を表明するなど、福祉正義党の地盤沈下を見越した生き残り策を模索する党員も出始めた。

もともと福祉正義党は、清廉なイスラムのイメージを前面に、反汚職のためのジハード(聖戦)を訴え、旧来政治の刷新を目指す政党だった。コーランに基づくイスラムの教えを忠実に伝えるダクワ(布教)政党の一面も持ち、イスラム原理主義的な性格さえうかがえた。しかし、イスラム政党への支持が広がらないなかで、ユドヨノ政権与党となって政治の現実世界へのかかわりを強めるにつれ、同党だけが清廉さを維持することは難しくなった。そして今回の汚職事件で、かつての清廉イメージは回復不可能となった。

福祉正義党の石油燃料値上げ反対表明は、汚職事件から世論の目をそらせる小細工に過ぎない。世論の目は厳しく、解党の危機はむしろ深まっていくことだろう。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第25回 「純潔」を守れなかったイスラム政党(2013年 2月 7日)

1月31日、福祉正義党(PKS)のルトゥフィ・ハサン・イサック党首が汚職撲滅委員会(KPK)に逮捕された。牛肉輸入枠の設定に関連して、国会議員である同党首が便宜を図り、特定業者が有利になるよう具申した見返りに金銭を受け取ろうとした収賄の疑いである。KPKは、輸入業者のインドグナ・ウタマ社の重役2名が同党首に近いアフマド・ファタナ氏に現金10億ルピア(約950万円)を手渡したことを突き止め、これがルトゥフィ党首へわたると見て収賄罪を適用したのである。

福祉正義党といえば、政党カラーは白で、汚職に対して最も厳しい「純潔」の政党として勢力を伸ばしてきた経緯がある。「イスラムの教えを正しく教え広める役割を担う政党」を標榜し、学生や若者を中心に支持層を広げてきた。汚職まみれの既存政治とは一線を画す「希望の星」として、国の将来を担う彼らの期待を集めてきたのである。

イスラムには、汚職の対極にある「清潔」のイメージがある。2000年代前半、「汚職をなくすには、イスラム法に基づく国家を目指すしかない」という気運が高まり、イスラム法適用運動が脚光を浴びた。地方レベルでイスラム法に基づく地方政令が連発され、イスラム政党は支持を伸ばした。その一躍を担っていたのが福祉正義党(あるいはその前身の正義党)であった。同時に、それは「インドネシアがイスラム国家になるのではないか」と欧米諸国が危惧(きぐ)した時期でもあった。04年のバリ島爆弾テロ事件はその最中に起こり、治安当局は、テロ対策の名の下に、イスラム強硬グループの摘発に躍起となった。

あれから約10年、イスラム法適用運動は下火となり、イスラム強硬グループは力を失い、イスラム政党は国民の支持を減らした。イスラム政党の国会議員も汚職に関与し、今や最後の砦(とりで)と見られた福祉正義党の党首が汚職で逮捕された。イスラムの「純潔」イメージはすでに政治の世界で守れず、イスラム政党がインドネシアで政治的に力を持つ可能性はなくなった。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20130207idr020A

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