【インドネシア政経ウォッチ】第64回 為政者としてのウィバワの移転(2013年11月21日)

インドネシアの人々はウィバワ(wibawa)という言葉をよく使う。威力あるいは威厳という意味だが、落ち着いた大人の対応ができる人を評する場合にも使う。大統領選挙を前に、為政者としてのウィバワが移り始めたと感じられる出来事が起こっている。

低価格グリーンカー(LCGC)をめぐる議論はそのひとつである。ジャカルタのジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事は、個人所有のLCGCがジャカルタの渋滞をさらに悪化させることを懸念し、むしろ公共交通機関の整備が先決であると主張した。これに対してユドヨノ大統領は、渋滞の管理責任はジャカルタ特別州政府にあると批判したが、ジョコウィはそれをポジティブに受けとめるとともに、中央からジャカルタへの予算配分にさらなる配慮を求めた。

先週、ユドヨノから「LCGCは個人向けではなく、村落での交通手段を想定し、しかも電気自動車やハイブリッド車だったはず」との発言が飛び出した。もともと、LCGCは個人向けと村落交通手段の2本立てと認識していた産業大臣や日本の自動車メーカー関係者は驚いたが、明らかに、ジョコウィのLCGC批判を念頭に置く言い訳めいた発言である。

他方、ユドヨノが党首を務める民主党は、ジョコウィや彼の所属する闘争民主党への接近を試み始めた。ジョコウィ批判を繰り返した党幹部はユドヨノから叱責(しっせき)され、民主党内に批判を控える雰囲気が現れた。また、11月13日に開催された全国婦人会セミナーで、アニ大統領夫人は、歴代唯一の女性大統領だった闘争民主党のメガワティ党首を褒めたたえた。汚職問題で存亡の危機にある民主党が、生き残りを模索する姿でもある。

ジョコウィ自身は、大統領選挙へ立候補するそぶりをまだ何も見せておらず、山積する首都ジャカルタの問題に集中する姿勢を崩していない。にもかかわらず、世論調査で大統領候補として常に人気トップのジョコウィに対して、大統領であるユドヨノを含めた政治家が気を使っている。ウィバワはユドヨノからジョコウィへ、その空気を人々は読み始めている。

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