【スラバヤの風-17】日本向け野菜生産の聖地となるか

熱帯に属するインドネシアは、日本など温帯産の農作物の栽培には適さないと考えられがちだが、それは一面的である。標高差を生かすと、温帯に近い高山気候のような環境で農作物の栽培が可能になる。しかも四季がないので、年間を通じて栽培できる。

ジャワ島の高原地帯の多くは火山灰地帯であり、肥沃な土壌を生かして高原野菜が栽培されている。キャベツ、白菜、ニンジン、トマトなどが畑でトラックに積まれ、夕方から夜明け前頃までに大都市へ毎日運ばれてくる。ジャカルタではクラマット・ジャティ市場、スラバヤではクプトゥラン市場がそうした野菜の一大集積地である。

東ジャワでは、国内市場向けだけでなく、輸出向けの野菜生産・冷凍も行われている。最も有名なのは、ジェンブル県を中心に生産される枝豆で、その8割以上が日本向けである。中心となる国営合弁企業では、年間約5500トンの枝豆を生産するほか、オクラ、ナス、サツマイモ、大根、インゲンなども日本向けに生産している。

いくつかの日本企業も、東ジャワの高原地帯で野菜の委託生産を試みている。昨年9月に訪問したマラン市の野菜加工工場では、長ネギ、マッシュルーム、サツマイモ、ニラ、大根などを扱い、契約栽培された野菜を水洗いした後、乾燥、冷凍、チルド、水煮などの状態にして、日本及びシンガポール向けに出荷する。野菜加工工場の指導員が栽培農家を回り、圃場で野菜作りや農薬の使用方法などを細かく指導している。

たとえば、日本企業のスペックに合わせてカットされた野菜は、大腸菌の発生を防ぐため殺菌液に浸けられた後、急速冷凍され、半製品として日本へ輸出される。日本市場に受け入れられるよう、日本で味付けをしたり衣をつけたりしたものが、おでんセットの大根や、駅の立ち喰い蕎麦屋のイモ天となって市場に出る。インドネシアからの輸入量はまだわずかだが、すでにインドネシア産野菜が日本食材の一部となっているのである。

しかし、すべての日本向け野菜生産が成功している訳ではない。低コストを狙って委託生産を試みたある日本企業は、昨年初めに東ジャワから撤退した。品質管理や圃場管理の難しさに加え、5年契約で借地代の一括払を要求するといった、農民レベルでの拝金主義の横行も近年目立つという。そして、日本市場が要求する安全・安心への保証をどう確立するかが極めて重要な課題となるだろう。果たして、東ジャワは日本向け野菜生産の聖地となるのだろうか。

 

(2014年1月17日執筆)

 

 

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