福島のあんぽ柿をいただく
月曜日の会でご一緒した、元飯舘村、今は避難先の福島市の椏久里コーヒー店のマスターから、お土産であんぽ柿をもらいましたので、早速いただきました。
あんぽ柿というのは、福島では干し柿のことを指します。渋柿を硫黄で燻蒸して、屋根の軒先に吊るして、吾妻山系から吹きつける北西の冷たい風にさらして乾燥させます。普通の干し柿だと、乾燥させると黒く固くなって糖分の粉を吹きますが、あんぽ柿はそうならず、半生のような感じで、甘くて柔らかいのです。なお、硫黄は揮発するので、毒性はありません。
主産地は、宮城県境に近い福島県伊達市梁川町五十沢(いさざわ)地区で、11〜2月が収穫・出荷の最盛期となります。
もともと、この地域は幕末の頃から養蚕が盛んでしたが、大正期になると生糸産業が衰退へ向かいました。その頃、五十沢の有力者たちが養蚕に代わる農産物を探し求め、その結果、あんぽ柿をはじめとする果樹産品への転換が進んでいったとのことです。
あんぽ柿の袋には、検査済みマークが貼られています。福島県あんぽ柿産地振興協会が放射性物質の検査を行い、食品衛生法に定める一般食品の基準値(キロ当たり100ベクレル以下)を満たすものだけを出荷しています。
あんぽ柿の放射性物質検査情報は毎週更新され、以下のサイトで見ることができます。
東京電力福島第一原発事故から2年9カ月後の2013年12月になって、あんぽ柿の出荷は再開されました。しかし、あんぽ柿は、柿を乾燥させるため、乾燥に伴って柿の中の放射性物質濃度が高まる恐れがあるため、出荷にあたっては、これまで細心の注意が払われてきました。
実際、福島県は、2016年12月15日付で、「あんぽ柿・干し柿等の「カキ」を原料とする乾燥果実の加工自粛と一部出荷再開について」という通達を出しました。現状で基準値を超えるものはほとんど出ていないものの、さらなる万全を期すために、監視を続けていく姿勢を示しています。
あんぽ柿・干し柿等の「カキ」を原料とする乾燥果実の加工自粛と一部出荷再開について
あんぽ柿の出荷が再開されたとはいえ、基準値を上回るものは市中に全く出回っていないとはいえ、まだまだ監視の目を緩めるわけにはいかないのです。
福島県は、「基準値を超える可能性があると判断した市町村は加工自粛するように」と呼びかけていますが、今のところ、そのような市町村はないようです。これも万が一に備えての呼びかけであって、もうすでに危ないから自粛を呼びかけているのではありません。
あんぽ柿の検査プロセスは、以下のサイトに図解されています。すべてのあんぽ柿が全量非破壊検査を受け、食品衛生法に定める一般食品の基準値(キロ当たり100ベクレル以下)よりもずっと厳しいスクリーニングレベル、すなわちキロ当たり50ベクレルを超えたものがトレーに混じっていれば、そのトレーの柿はすべて廃棄する、としています。
福島県から出荷されるあんぽ柿は、全量、サンプルではなくて全量、放射性物質検査を受けています。その数は、2016年11月〜2017年1月で314万7768個です。そのうち、キロ当たり50ベクレルのスクリーニングレベルを超えたものはわずか1955個(すべて廃棄)で、キロ当たり25〜50ベクレルが4万6320個、測定下限値のキロ当たり25ベクレル未満が309万9493個でした。
特筆できるのは、上記について、その検査結果がすべてデータとして残されている、ということです。どこから出荷されたあんぽ柿のいつの放射性物質検査結果がどうだったのか、というデータがすべて残されているのです。
福島県では、米の全量全袋検査が今も継続されていますが、たとえば、平成26年産米では、2014年12月31日までに1077万点以上を検査し、基準値超えは0点でした。これも、すべてデータが残されています。
日本の他の都道府県・市町村で、福島県よりも厳しい放射性物質検査を行っているところはあるでしょうか。それらが福島県のものよりも安全だと客観的に示せるデータを持っているでしょうか。
外国へ日本から農産品を輸出する際、放射性物質に関する客観的なデータを求められることがありますが、それに日本で対応できるのは、実は福島県だけなのではないでしょうか。
言われのない中傷や風評がなくならず、避難した子どもがいじめに遭うなど、福島をディスる動きはまだなかなか消えませんが、そんな中で、農産物の放射性物質検査を根気強く行い、データを残すという、地道な努力を続けてきた福島は、市場の評価とは裏腹に、いつの間にか、客観的な安全安心のトップランナーになりつつあるのです。
こうした安全安心への地道な取り組みを見ているのは、日本国内だけではありません。世界のバイヤーが見ています。安全安心を求める世界の農業関係者が見ています。
福島の農産物を食べないのはけしからんとは思いません。食べてくださいと懇願するつもりもありません。食べるか食べないかは個々人の自由な判断によるからです。
でも、何の客観的根拠もなく、福島を心配するようなふりをして、福島のものを食べる人をディスるのはやめてほしいのです。心の中で福島をディスるのは個人の自由ですが、それを口に出す必要はないはずです。
今は検査結果が良くても、来年も再来年も大丈夫だとは言えない。その思いは、未来に対して謙虚だからこそ、なのです。それゆえに、万が一に備えた条件付きの「加工自粛」を呼びかけたり、膨大な検査データを残し続けているのです。
もしかすると、この福島の安全安心への地道な取り組みが、世界の安全安心へのモデルとみなされていくかもしれません。
あんぽ柿を作っている農家さんの姿を想像しながら、そんなことを思いました。そして、がぶっとかじった柿は、甘くてとても美味しいのでした。