よりどりインドネシア第26号でなぜ州知事選挙に注目するのか

先週後半から今週前半にかけて、勉強会用資料作成や原稿執筆など3本の用務に追われ、ブログ更新を怠っておりましたが、よろよろと再開します。

その3本の用務の一つが、「よりどりインドネシア」第26号の発行(7/23)でした。

第25号と第26号では、17州の州知事選挙の結果について、各州ごとに分析を試みました。細かく見てみると、なかなか興味深い現象が垣間見られました。

現在のインドネシアのジョコウィ大統領が、ソロ市長→ジャカルタ首都特別州知事→大統領という足跡を示したのですが、これが政治家の一つの上昇モデルになっているように見えるのです。

県知事・市長→州知事という流れは昔からありましたが、ジョコウィ以前は、州知事→内務省高官または国会議員、というのがほとんどでした。基本的に、地方政府は内務省の下にあり、州知事といえども内務省高官の下という認識だったからです。

なぜ変化が起きたのかというと・・・。

それは地方首長直接選挙と地方分権化によるものです。地方首長は、かつては地方議会で選出し、大統領や内務省の眼鏡にかなった人物でないと就任できませんでした。今では、もちろん、住民による直接選挙で当選した地方首長は、大統領や内務省の審査を受ける必要はありません。

民主化した(とされる)インドネシアでは、大統領と言えども、住民が直接選挙で選んだという正統性を覆すことはできません。

ここで重要なことは、地方首長選挙が公明正大に公正に行われる、ということです。SNSなどの発達で、かつてのような密室での操作ができにくい状況になっていることは注目されます。不正は行われているかもしれませんが、どこでそれが起こりうるかは大体分かっており、集計段階でおかしな票の動きがあれば、メディアなどが騒いで、公にされます。

インドネシアではこれまで、選挙結果に関して、政界を揺るがすような大混乱は起こっていません。収拾がつかないような混乱がまれに起こっても、必ず白黒がついています。選挙は、見る限り、正しく行われているとみなしてよいかもしれません。

今回の州知事選挙では、現職で落選したケースが目立ちました。現職は自分の再選に向けて公的予算を内々に活用することもでき、立場上、相当に有利なはずですが、落選するのはなぜか。カネや利権のばら撒きが効果を果たしていないのではないか。

やはり、住民は現職の実績を見ているのだと思いました。とくに、中央政府や他の地方政府から評価され、たくさんの視察を受け入れ、善政事例としてメディアで頻繁に取り上げられるような地方首長は、本当のところは分かりませんが、住民から見て、実績のある地方首長と見なされることでしょう。

だから、県知事や市長でも、そのような名声を得た者が州知事選挙に立つと、有能な人物として注目されるのです。そして、州知事で注目されると、その次へ、という道筋が立ってきますそれは、現職のジョコウィ大統領がたどった道でもあります。

また、大臣経験者や国会議員があえて地方首長選挙に立候補する、という現象も起こっています。昔は考えられなかったことです。彼らもまた、地方首長としての経験と実績を引っ提げて、その他大勢の内閣や国会を経由せず、一気に上を目指そうとしているのかもしれません。

2019年大統領選挙はまだ早いとしても、次の2024年までに、どんな新しい指導者が現れてくるか。行政府の長として、一国一城の主の経験、換言すれば、経営者としての経験をもった実績を積み上げた(とされる)地方首長が、台頭してくるのではないでしょうか。

そう、これは、15年ぐらい前まで、あれだけ寄ってたかって批判し、無理だと言われた地方分権化や地方首長直接選挙のプラスの成果なのです。

そうした意味で、筆者は、地方首長のこれからのパフォーマンスに大いに注目していきます。

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