【スラバヤの風-06】「日系専用」の国営パスルアン工業団地

先週と今週は、講演のためシンガポールと日本に出張中である。参加者と話をすると、交通渋滞やコスト高の進むジャカルタ周辺への懸念が大きく、代替先を探している様子をひしひしと感じる。インドネシア政府も、低賃金労働を求めてインドネシアからカンボジアやミャンマーなどへ日系企業が移転することを恐れており、ジャカルタ周辺からの移転先として、同じジャワ島内の東ジャワや中ジャワの魅力を伝える必要を感じている。

そのなかで、今後の日系企業進出の受け皿として有望なのが、東ジャワ州の国営パスルアン工業団地(PIER)である。スラバヤから南へ60キロ、約1時間半の距離である。敷地面積500ヘクタールのうち200ヘクタールが工業団地であり、そこに60社が立地し、そのうち21社が日系企業である。毎月第3木曜日に「三木会」(さんもくかい)という日系企業間の情報交換を行う定期会合が開かれている。

PIERは、2014年末までにさらに92ヘクタールを造成予定だが、そこを日系企業専用工業団地とする方針で、東ジャワ州政府も全面的に後押ししている。 さらに、現在、スラバヤからの高速道路をパスルアン方面へ延伸する工事が進められているが、このPIERの敷地内、「日系企業専用工業団地」のすぐそばにインターチェンジが2014年末までに設置される。おそらく、高速道路のインターチェンジが敷地内にある工業団地としては、このPIERがインドネシアで初めてとなる。これが完成すると、PIERからスラバヤ港まで約1時間弱で結ばれる。

インドネシアの工業団地開発は、1980年代半ばまでは国営が中心だったが、その後は民間が主となり、ジャカルタ周辺はほとんどが民営の工業団地である。そこでは、高速道路から工業団地までのアクセス道路における交通渋滞が大問題となっている。

PIERは、現在でも工業団地本体から幹線道路沿いの出入口まで長いアクセス道路があり、その出入口を閉鎖することで外部から来た労働デモ隊をシャットアウトしている。インターチェンジができれば、高速道路が閉鎖でもされない限り、物資の搬出入も影響を被ることはまずない。

用地取得価格は現在1平方メートル当たり100万ルピア(約1万円)前後とジャカルタ周辺に比べればまだ低いが、値上がり傾向にある。PIERは、「日系専用」のために諸手続の簡便化など様々な改善を積極的に進めていく意向である。

 

(2013年7月12日執筆)

 

 

【スラバヤの風-05】中小企業向け信用保証

中小企業がなかなか育たない理由の一つは、銀行から安心して融資を受けられないことにある。このため、中小企業向けの銀行融資を保証する仕組みづくりが重要になる。 中央レベルでは、信用保証会社(PT. Jamkrindo)と信用保険会社(PT. Askrindo)の二つの国営企業が信用保証を行っているが、中小企業については地方でよりきめ細かな対応が必要になる。日本の国際協力機構(JICA)による技術協力の下、中銀が中心となって各州での信用保証会社の設立へ向けた制度づくりを行ってきた。

その第1号となったのが東ジャワ州である。2010年1月、中小企業向け融資を保証する信用保証会社・東ジャワ州ジャムクリダ(PT Jamkrida Jatim)が他州に先駆けて設立された。最大出資者は株式の9割以上を持つ州政府であり、州内各県政府も出資する。

ただし、保証対象は東ジャワ州開発銀行(Bank Jatim)による融資に限られる。2.5億ルピアまでの融資はすべて自動保証されるが、2.5~7.5億ルピアの融資は審査が必要となる。保証期間は3カ月から最長6年、多くは3年以下である。保証料は保証対象融資額の1.5%を毎年支払い、これが信用保証会社の収入となる。インドネシアでは信用保証会社は利益を上げて、株主である州政府へ利益を還元することが求められる。実際、州議会では、ジャムクリダの収益がどれぐらい上がっているのかが常に議論となる。

2013年4月時点の保証総額は8000億ルピアに達しているが、一顧客当りの平均保証額は2000万ルピアと少額である。顧客の中小企業は約4万社あり、約12万人の雇用を支えている。しかし、東ジャワ州ではまだ290万社の中小企業が信用保証の恩恵を受けておらず、ジャムクリダがカバーしているのはごくわずかに過ぎない。

それでも、ジャムクリダの信用保証のおかげで、ある金属加工の中小企業が日本への委託生産品の輸出を始めるなど、いくつかの成功事例が生まれ始めた。ジャムクリダのヌルハサン社長は、「ジャムクリダの目的は中小企業振興を通じた貧困撲滅」と言い切る。もっとも、ジャムクリダの直接取引先は東ジャワ州開発銀行であり、その顧客である中小企業の融資を保証することで、間接的に中小企業振興に関わっているのである。

東ジャワ州ジャムクリダには、同様の信用保証会社を設立する他州からの視察者が後を絶たない。利益確保など困難に直面しつつも、ジャムクリダは中小企業向け地方信用保証会社のリーダーとしての役割を果たし続けようとしている。

【スラバヤの風-04】中小企業が地域経済に高い貢献

東ジャワ州は、インドネシアのなかで、協同組合や中小企業の振興に最も力を入れている州の一つである。その結果は、2012年の州内総生産(GRDP)に占める協同組合・中小企業部門の貢献が54.4%という、他州に比べてかなり高い数字に表れている。

活動停止中の協同組合の比率は、全国平均が27%であるのに対して、東ジャワ州はわずか12%に過ぎない。中小企業の事業所数は、2006年の420万事業所から2012年にはその1.5倍に当たる682万事業所へと大幅に増加した。682万事業所の6割以上が農業関連で占められている。東ジャワ州は農林水産業・同加工業の振興を地域開発の最優先課題と位置づけているが、その担い手のほとんどは協同組合や中小企業によるものといえる。

スラバヤ・ジュアンダ国際空港近くの東ジャワ州協同組合・中小企業局を訪問すると、役所棟に向かって左側に工芸館、右側にバティック(蝋纈染め)館が配置されている。いずれも州内の協同組合や中小企業によって作られた製品を展示即売する場所で、日本でいうところの地方特産品センターの位置づけである。

そして、役所棟の裏側には、州中小企業クリニックが配置されている。同クリニックは州内の中小企業に対し、事業相談、情報提供、アドボカシー、短期研修、起業家関連書籍センター、資金アクセス、市場アクセス、移動式クリニック、IT起業、中小企業オンラインテレビ、などのサービスを提供し、中小企業コンサルタントが常駐している。中小企業向けの短期研修は生産、経営、IT起業の3分野に分かれ、合計で1ヵ月に3〜4回の頻度で実施されている。

中小企業コンサルタントには、事業者と銀行を結ぶ役割も期待されている。彼らが有望な事業者を見つけ、帳簿つけからビジネスプラン作成に至るまで指導するとともに、銀行はコンサルタントを信用して融資を行う。インドネシア銀行の後押しで養成された銀行パートナー金融コンサルタント(KKMB)もそのような中小企業コンサルタントの一つであり、東ジャワ州では、KKMBの属する42団体の連合会が作られている。

2012年に東ジャワ州では一般銀行81行、庶民信用銀行(BPR)363行によって約240兆ルピアの融資がなされたが、実際の中小企業向け融資はその約3割に留まる。さらなる中小企業向け融資の促進には、もちろん信用保証を充実させる必要がある。そう考えた東ジャワ州政府は2010年、州レベルでは全国初となる信用保証会社(PT Jamkrida Jatim)を設立した。

【スラバヤの風-03】村へ戻る運動(GKD)

東ジャワ州政府は、1990年代に大分県の一村一品運動を取り入れようとしていた。インドネシアで初めてそれに注目したのは西スマトラ州で、1993年に大分県を訪問し、導入を試みていた。東ジャワ州は1996年11月、大分県の平松守彦県知事(当時)をスラバヤへ招いて一村一品運動の紹介セミナーを開催した。それをきっかけとして、当時のバソフィ・スディルマン州知事が『村へ戻る運動』(Gerakan Kembali ke Desa: GKD)を提唱したのである。

GKDは、都市に比べて発展の遅れた農村を開発政策の重点とし、開発に必要な技術、人材、資金を農漁村の外から注入して開発のスピードを加速化させようとした。その際に、単に農業生産を上げるだけでなく、加工して付加価値をつける方向性が強調され、そこに、「グローバルに考えローカルに行動」「自立・創造性」「人材育成」という一村一品運動のエッセンスを入れようとした。

当時はまだスハルト政権下で、政府主導の開発政策が主流だった。バソフィ州知事が軍人出身だからかもしれないが、GKDは、1970年代に全国で実施された『軍人が村へ』(ABRI Masuk Desa: AMD)、『新聞が村へ』(Koran Masuk Desa: KMD)という軍の社会政治機能に基づく政策と発想が基本的に同じだった。

すなわち、「外部から何かを入れて遅れた農村を開発する」という発想であり、そこには、一村一品運動の最も重要な根幹である「農村の自立」という姿勢は希薄だった。外部から入れた技術・人材・資金は外部の論理で動き、農村は外部者がやりやすいように協力してあげるという形になる。こうした話は東ジャワ州に特有なのではなく、程度の差こそあれ、全国どこでも起こっていた。

結局、バソフィ州知事の退任とともにGKDは廃れ、州政府が一村一品運動を東ジャワ州に定着させることは叶わなかった。1998年にスハルト政権が崩壊して地方分権化の時代になると、GKDは旧来型の開発政策として厳しい批判を受けた。しかし、今に至ってもまだ、州政府からは、GKDに代わる有効な開発政策が提示されていない。

だが、GKDは「種まき」の役割を果たしていた。GKDをきっかけに農漁村が自らの足元を見つめ直し、もっと儲かる事業を志向し始めたのである。それが農水産物加工だった。人口が多く、他人や近隣農漁村の動きを気にしやすい東ジャワ州では、誰かが成功するとそれを真似する人々が続出し、必ず他とは違うモノを作る人が出てくる。GKDが失敗したからこそ、人々は政府に頼らず、儲かる食品加工ビジネスを自ら求めていったのである。

【スラバヤの風-02】食品加工業の一大中心地

東ジャワ州政府が経済開発で最も重視する産業は、食品産業である。東ジャワ州ではもともと、シドアルジョ周辺のエビ養殖・エビせんべい(クルプック・ウダン)製造をはじめ、様々な農水産加工品が製造されてきており、インドネシアでも有数の食品産業の中心地となっている。昨今では、南東のジェンブル付近を中心とした日本向け枝豆の生産や、マラン周辺での乳牛飼育・牛乳生産など、食品産業のラインナップがより多彩になってきた。

東ジャワ州が食品産業の中心地となっているのは、早くからサトウキビ栽培・製糖、エビ養殖・加工といった食品加工業の歴史を持っているためである。ただし、多くの場合、これら食品加工に携わる企業は中小企業であるため、ジャカルタから見るとあまり目立たない。私自身も、東ジャワ州に来て、加工食品の種類の多さを改めて感じるほどである。

以前、南スラウェシ州マカッサルを拠点に活動していたとき、インドネシア東部のスーパーや商店に並んでいる加工食品の製造元をよく見て回った。ジャカルタ周辺の大企業製の食品に混じって、スラバヤやマランなど東ジャワ州製の食品が意外に多く流通していることが分かった。とりわけ、ピーナッツ、せんべい、クッキーなどの地場製のスナック菓子では、マランの企業製のものが目立った。サンバルなどの調味料でも、スラバヤ製の製品が店頭に並んでいた。

加えて、同じ製品でも味のバラエティがどんどん増えている。大豆発酵食品のテンペを油で揚げたテンペせんべいには、チーズ味、エビ味、甘辛味などのほか、ピザ味、海藻味、スパゲッティ味などというものまである。あいにく、すべての味を試してはいないのだが、やはりスパゲッティ味には興味がある。東ジャワ州では、こうした新しいものへのチャレンジ精神をよく見かける。

以前から、有名な日本の食品会社がエビフライなどの冷凍食品を委託加工させていたのも東ジャワである。その経験が生かされて、シーフードを原材料とした冷凍食品を製造するインドネシア企業もある。

東ジャワ州は、3,000万人以上の人口を養うための農水産品生産を基盤とし、そのうえに食品加工業が存在する。各県・各企業間に競争意識が強く、新製品開発への意欲もそれなりに高い。こうした食品加工への意識を高めるきっかけとなったのが、実は、20年以上前に東ジャワ州政府が試みた日本・大分県の一村一品運動の導入だったのである。

【スラバヤの風-01】ジャワ島で最も成長率の高い東ジャワ

交通渋滞、物流遅滞、最低賃金上昇、工業用地不足。ジャカルタ周辺でのビジネス環境が急速にコスト高、非効率になってきたという声をよく聞くようになった。2013年1月にジャカルタが大洪水に見舞われて以降、インドネシア政府・財界が明示的にジャカルタ周辺から他地域への産業移転を促す発言をしている。ジャカルタ周辺への一極集中を和らげ、他地域での経済発展を促進させる動きが本当に起こるのだろうか。

ジャカルタ周辺の次はどこか。まず、思い浮かぶのが、国内第二の人口を持つスラバヤ(311万人)を州都とする東ジャワ州であろう。人口3747万人を擁する東ジャワは、実はジャワ島で最も成長率の高い州である。

経済規模は884兆ルピア(2011年)であり、全国の14.7%、ジャワ島の25.4%を占める。 経済成長率は2009年以降、ずっと全国を上回り、2011年は7.2%(GDP 6.5%)、2012年は7.3%(同6.2%)となった。産業別(2012年)では、商業・ホテル業(10.1%)、運輸・通信業(9.5%)、金融業(8.0%)、建設業(7.1%)が高成長で、製造業(6.3%)が追う。

需要面では、東ジャワから他州への移出が20.5%と大きく伸びる一方、 移入も12.6%と急増した。州経済に占める民間消費のシェアは67.5%と大きく、依然として州経済を支える主役となっている。

東ジャワへの投資実施件数・額は2012年に大きく増えた。外国投資は2011年の208件、13.1億ドルに対して2012年は403件、23億ドル、国内投資は同じく157件、9.7兆ルピアから289件、21.5兆ルピアへ増大した。

ジャワ島内の他州では投資件数が減少傾向にあるが、東ジャワは唯一、外国・国内投資とも増加している。もっとも、2012年のGRDPにおける総固定資本形成(投資)成長率は3.68%と低く、投資の経済成長への効果が表れるのは2013年以降になるものとみられる。

東ジャワ州政府は、自州が全国で最も投資効率の高い州であると自負する。2011年の限界資本係数(ICOR)は全国最低の3.09、ジャカルタや西ジャワよりもかなり低い。最低賃金上昇があるとはいえジャカルタ周辺よりは低く、渋滞もまだ少ない。既存の工業団地は埋まってきているが、新規建設計画も進んでいる。 こうした東ジャワへジャカルタ周辺から産業移転が本格的に進むのか、大いに注目されるところである。

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