【スラバヤの風-37】牛乳後進国インドネシア

インドネシアで入手に苦労したものの一つが牛乳である。国内メーカーの牛乳は輸入生乳を使い、様々な薬品や保存料を加えているとされ、地元の人でも敬遠する人が少なくなかったため、輸入ロングライフ牛乳を購入せざるを得なかった。今も、日本のように、新鮮な牛乳が毎日大量に手に入る状況はまだ確立されていない。

インドネシア国内での乳製品生産向けの牛乳の需要は年間約330万トンあるが、国内生産で供給できるのは69万トンに留まり、全体の8割を占める残りは、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、EUなどからの生乳や粉乳の輸入に依存している。インドネシアは、これまでにホルスタイン種の乳牛輸入や人工授精による繁殖などを何度も試みてきたが、熱帯という気候の問題もあり、画期的な成功を収めることは難しかった。

現在、国内における牛乳生産の中心地は東ジャワ州であり、そのほとんどがパスルアン県やマラン県の高原地帯に立地する。東ジャワ州では8万6,000人の酪農家が29万6,350頭の乳牛を飼育しており、全国の乳牛飼育頭数の8割近くを占める。東ジャワ州には外資系のネスレやグリーンフィールズ、国内食品最大手インドフードの子会社インドラクトなどの大企業が立地し、地元の酪農協同組合などとの契約に基づいて、比較的規模の大きい牛乳生産を行っている。

しかし近年、牛乳価格が低迷する一方、飼料などの価格が値上がりしているため、末端の乳牛飼育業者の生産意欲が減退している。実際、乳牛の飼育頭数は、全国で2012年に42万5,000頭だったのが、2014年5月時点で37万5,000頭へ大きく減少した。このままでは結局、乳製品生産の輸入原材料に依存する状況は当面続かざるを得ない。

インドネシアにおける牛乳の一人当たり年間消費量はわずか11リットルである。これはマレーシアの22リットル、インドの42リットルなどと比べてかなり少ない。現在のインドネシアの領域を植民地化したオランダは牛乳を生産していたが、それは主にオランダ人用であったため、マレーシア、インドといったイギリス植民地のように、牛乳を嗜好する食文化を根付かせることは叶わなかった。

そんななか、乳牛を飼育する牧場が自家製の牛乳を都市で直販するだけでなく、オシャレな牛乳カフェを経営する動きが出てきた。2010年、ジョグジャカルタに「カリミルク」というカフェがオープンしたが、その直接の動機は、ムラピ山の噴火による風評被害で牛乳が売れなくなった酪農家を助けることにあった。

「カリミルク」でイチゴ味の牛乳を飲みながら、牛乳後進国インドネシアで国産牛乳がもっと飲まれるようになる日が果たして来るのだろうかと考えこんでしまった。

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(2014年11月21日執筆)

 

 

【インドネシア政経ウォッチ】第65回 ジャワ島の14年最低賃金を読む(2013年11月28日)

11月になり、各県・市の2014年最低賃金が決定された。政府は14年の最低賃金に関して「消費者物価上昇率+10%以下(労働集約産業は+5%以下)」という目安を提示したが、今年ほどではないにせよ、14年も20%前後の高い上昇率となった。

ジャワ島内では11月25日までに、112県・市のうちバンテン州セラン県を除く111県・市の14年最低賃金が決定した。最高が西ジャワ州カラワン県第3グループ(鉱業、電機、自動車、二輪車など)の281万4,590ルピア(1円=112ルピア、以下同じ)、最低が中ジャワ州プルウォレジョ県の91万ルピアであり、その差は3倍以上ある。

地域別にみると、ジャボデタベックと呼ばれるジャカルタ周辺の県・市が235万ルピア以上だが、そのすぐ後には、東ジャワ州スラバヤ周辺が続いている。スラバヤ周辺の最低賃金はもはや決して低いとは言えなくなった。スラバヤ周辺に続くのが西ジャワ州バンドン周辺で、このあたりで最低賃金200万ルピアの線が引ける。

一方、中ジャワ州とジョクジャカルタ特別州は相対的に最低賃金がまだ低い。最高でも前者ではスマラン市の142万3,500ルピア、後者ではジョクジャカルタ市の117万3,300ルピアにとどまる。特に、中ジャワ州の中央から南側に立地する9県では最低賃金が100万ルピア未満である。

ちょうど100万ルピアは、中ジャワ州に4県、東ジャワ州南西部に6県・市、西ジャワ州に1県ある。これらはいずれも、各州内で開発の遅れた地域に属しており、最低賃金水準から地域内の経済格差の様子が見えてくる。

昨今、ジャカルタ周辺の工場が中ジャワや東ジャワへ移転する動きが見られるようになったが、一般に、最低賃金の低い県・市では、投資認可関連手続きの経験が不足しており、企業設立などで時間的・資金的なロスが生じる可能性がある。企業進出に当たっては、最低賃金水準だけで決めるのではなく、行政サービスの質やインフラ状況などを総合的に判断する必要があるのは言うまでもない。