【インドネシア政経ウォッチ】第63回 国際収支安定のための外資規制緩和(2013年11月14日)

今年は3年に1度の投資ネガティブリストの改訂が行われる年である。しかし、当初、10月ごろと見られていた改訂リストの発表は遅れ、年末になりそうだ。外資規制を緩和したい経済調整大臣府や投資調整庁と、外資規制を強化して国内企業の育成を目指したい各省庁との間で、さまざまな駆け引きが行われている様子である。

昨今の厳しい経済状況で、改訂リストはより規制を緩和する方向へ向かいそうだ。何よりも今、政府に求められるのはマクロ経済の安定であり、軟化する通貨ルピアのしなやかな防衛である。そのためには、国際収支の安定が不可欠であり、経常収支の赤字を埋め合わせる資本収支の黒字が必要になる。そして、出入りの素早い証券投資よりも直接投資の増加が最重要になる。国際収支の安定のためにこそ、外資規制緩和が必要となるのである。

先週、ネガティブリスト改訂の内容が一部明らかにされたが、大きく2つの注目点がある。第1に、事業効率化のために外資を活用するという点である。なかでも、空港・港湾の管理運営に100%外資を認めるなど、なかなか進まないインフラ整備・効率化で外資を活用する意向が示された。インフラ投資に参入したい外資は多く、歓迎されよう。

第2に、輸出指向型外資をより重視したことである。消費活況の続くインドネシア国内市場を目指す外資よりも、インドネシアを生産拠点とし、輸出することで国際収支の安定に寄与する外資を求めている。輸出指向型外資への優遇策は、1980年代後半~1990年代前半に採られ、労働集約型産業が発展したが、その後競争力は低下した。今後の輸出産業としては二輪車・自動車と油脂化学が期待される。

早速、識者からは経済における外資シェア拡大への危惧が現れた。しかし政府は、外資への依存度を高めるというより、国内企業に外資との競争を促そうとしているようである。インドネシアの自信の表れといえるが、国内企業がその意図を汲み取って行動できるかが課題である。

【インドネシア政経ウォッチ】第26回 顕著となる石油ガス部門の貿易赤字(2013年 2月 14日)

2月1日に発表された貿易統計速報によると、インドネシアの2012年の輸出総額は前年比6.6%減の1,900億4,460万米ドル、輸入総額は8.0%増の1,916億7,090万米ドルとなり、貿易収支は16億2,630万米ドルの赤字となった。この貿易赤字については、投資ブームで中間財・資本財の輸入が大きく増加する一方、世界経済の低迷で先進国市場への輸出が伸び悩んだことが原因、と説明される。しかし、貿易赤字を詳しく見ると、石油ガス部門での55億9,220万米ドルの赤字を、非石油ガス部門での39億6,590万米ドルの黒字で補うという構造になっている。貿易赤字で深刻なのは、実は石油ガス部門なのである。

石油ガス部門の貿易赤字を詳しく見ると、原油は14億9,020万米ドルの黒字、石油製品が245億2,130万米ドルの赤字、液化天然ガス(LNG)が174億3,890万米ドルの黒字であり、ガソリンなどの石油精製品の赤字を原油・LNGの黒字で補っている。石油製品の赤字は10年が141億600万米ドル、11年が232億2,120万米ドルで、国際石油価格の変動はあるにせよ、11年頃から大幅に輸入量が増加した可能性がある。インドネシア国内での二輪車及び自動車生産・販売台数の増加とそれに伴うガソリン需要増がある。

インドネシアは石油の純輸入国となり、石油輸出国機構(OPEC)からも脱退。原油からLNGへという動きが加速している。しかし、安泰と思われたLNGでも、インドネシアは輸入を増加させ、12年の輸入額は前年比118.2%増の30億8,160万米ドルとなった。経済成長につれてLNGの国内需要が高まる一方、国内でのガス田開発には時間がかかる。インドネシアは日本などとLNG輸出に関する長期契約を結んできたが、11年の契約更新時にその量を大幅に削減した。かつて日本向けLNG輸出基地だったアチェ州アルンのプラントをLNG輸入基地へ転換する計画もある。すでに国内では、LNG供給不足により、発電所や工場などの現場で生産活動に支障が生じている。

石油ガス部門の貿易赤字は、新規の石油・ガス田開発が進まなければ、ますます顕著となろう。成長するインドネシア経済のボトルネックである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第7回 警戒すべき経常収支の赤字増大(2012年 9月 13日)

インドネシア経済に、おぼろげながら黄信号が灯り始めたかもしれない。黒字基調だった経常収支が2011年第4四半期(10~12月)から赤字へ転換し、赤字幅は今年第2四半期(4~6月)に69.4億ドルに拡大した。経常収支の対国内総生産(GDP)比も政府目標の2%を上回る3%超となり、公的対外債務比率も久々に30%を超えた。一方で、資本収支の黒字は、直接投資と証券投資の流入で急増し、経常収支の赤字を補てんしている。

輸出減少と輸入増加が、経常収支が赤字に陥っている原因である。輸出では石炭、ゴムなど主要コモディティ価格が低下して生産・輸出とも大きく減少し、繊維・化学製品の輸出も落ち込んだ。国別では中国向けを除いて軒並み減少し、特にシンガポール向けの落ち込みが目立つ。これに対して輸入は、機械類や電機など資本財の輸入増が著しく、国別でも日本や中国からの輸入が急増した。まさに、直接投資がそれに必要な機械などの資本財輸入を誘発している。

実は1980年代半ば~1990年代初期のインドネシアも、同様に大幅な経常収支の赤字に悩んでいた。ただ当時は、金融政策で切り下げた通貨ルピアを武器に、低賃金・労働集約製品の輸出振興を図り、外国から輸出向けの直接投資を呼び込む戦略をとった。

しかし、現在インドネシアに流入する直接投資の多くは、消費ブームに沸く国内市場を標的とし、輸出への貢献は期待できない。労働コストも年々上昇しており、低賃金・労働集約製品の優位性もなくなってきている。また、コモディティ以外に競争力のある輸出品は極めて限定的である。

政府は製造業向けの投資が工業化に果たす役割に期待するが、経常収支の赤字はしばらく続く見通しだ。それにどこまで耐えられるのか。輸入増は外貨準備を減少させ、通貨ルピアへの信頼を低下させる。米ドル買いなどの投機的な動きが海外への資本逃避を誘発すれば、国内市場は一気に冷え込む可能性もある。1990年代後半の通貨危機の経験を踏まえ、慎重に動向を見極める必要がある。

 

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