【インドネシア政経ウォッチ】第16回 派遣労働から業務請負へ(2012年 11月 22日)

アウトソーシング(外部委託)に関する労働・移住相令が14日に発布、19日に施行された。当初に予定していた今月2日の発布が遅れたのは、「労使間の対立が解けないため」と報じられていたが、実際は手続論の問題だった。

すなわち、政府、経営者、労働組合の三者協議という基本ルールを守らずに、経営者抜きで話が進められていたからであり、実際に14日に三者協議が再開された後、大臣令が署名された。ただし、経営者側は派遣業務を5種に限定することに最後まで抵抗し、全面同意には至らなかった。

実は、アウトソーシングの解釈に新たな動きがあった。7日の外国人ジャーナリスト協会のパネルディスカッションで、労働・移住省の報道官は「これまで使ってきた5業種以外の派遣労働は業務請負に移行する」と発言した。業務請負は法人以外に認められておらず、また中核(コア)業務と非コア業務の区別や業務フローについては、従業員の同意と地元労働局の承認が必要で、結果的に悪質なアウトソーシング業者は排除される。派遣労働が一切禁止になるのではなく、業務請負へと形を変えて継続できる可能性が見えたといえる。

過激な争議への批判が高まっているためか、渦中の金属労連は「違法なアウトソーシングに反対」と主張し、アウトソーシング全体を否定しているのではないという姿勢を見せる。しかし合法の定義は示せず、法的には「例示」に過ぎない派遣労働の5種を「限定」へ変更させた力を誇示するだけの結果に終わった感がある。

派遣労働から業務請負への移行という方向性は、署名後の大臣発言でも踏襲された。労働組合側も業務請負自体には反対しない意向を示している。結果的に「派遣労働から業務請負へ」という流れが労使双方の落としどころとなったようである。

組合側は最低賃金の引き上げに要求の重心を移し、今日22日、5万人規模のストを実行する計画だ。組合側が力を誇示するネタはまだまだ尽きない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第15回 外部委託規制、標的は悪質業者(2012年 11月 8日)

11月2日といわれていたアウトソーシング(外部委託)に関する新たな労働・移住大臣令の発布は、同月半ばに延期された。焦点は、派遣労働を清掃、警備、配膳、運転手、石油ガスの5種に限定することにある。

労働法(法律2003年第13号)第66条では、5種は単に例として挙げられたにすぎないため、インドネシア経営者協会(APINDO)は限定を不当として憲法裁判所に訴える構えをみせている。しかし、労働・移住省は、同法第65条に「大臣権限で条件などの変更可」とあるため不当ではないと反論する。

金属労連(FSPMI)などの労働組合は、派遣労働者の正規労働者化を求めて横暴なデモや示威行為を繰り返しているが、労働者を派遣するアウトソーシング業者のことは、あまりメディアで取り上げられていない。アウトソーシング企業協会(ABADI)の加盟企業は約200社だが、実際には1万社以上が当該業務に携わっているといわれる。村長や地方政府が簡単に設立許可を発出したためで、労働・移住省も十分な監視が行えていない。ペーパーカンパニーまがいの業者も多いほか、同省関係者や警察などが絡んでいるケースもあるそうだ。

業者を通じれば、求職者は派遣労働者として登録することで職探しのコストを低減できる。厳しい競争にさらされる経営側も状況に応じて従業員数を柔軟に調整できる。その意味で、アウトソーシング制度は労働市場の需給調整を円滑にする面がある。ABADIの試算によると、アウトソーシングを5種に限定すると、新たに1万以上の失業者が発生する。

労働組合のアウトソーシング批判は、労働者をモノのように扱い、業者が彼らの賃金から不当にピンハネする点に向けられる。APINDOも悪質な業者を批判している。そうであれば、組合側と経営側は相互の対立をエスカレートさせるのではなく、むしろ一緒に悪質な業者の摘発と監視をすべきではないかと思うのだが。

 

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