【インドネシア政経ウォッチ】第142回 フリーポート口利き事件は氷山の一角(2015年11月26日)

パプア州にある米系鉱山会社フリーポート社は、世界有数の金鉱や銅鉱を産出する優良企業である。1960年代半ばにスカルノからスハルトへ政権が移行し、経済運営が資本主義へ変化した後の外国投資認可第1号が同社だった。

フリーポート社の契約は2021 年に切れるが、その2年前の19 年までに契約延長か否かが決定される必要があり、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は現状では延長しない方針である。同社はもちろん契約延長を望んでおり、仮に同社が21年以降国営化されるような事態にでもなれば、インドネシアへの外国投資に甚大な負の影響を与えることになる。

スティヤ・ノバント国会議長による口利き事件には、こうした背景があった。同議長は15年6月8日、フリーポート社の社長らと会い、フリーポート社契約延長へのロビーの見返りに、同社がパプア州パニアイ県に建設するウルムカ水力発電所の49%の株式を同議長に渡すことを求めた。さらに、ルフット調整相(政治・治安)名で、正副大統領に20%の株式を提供することを求めた。

事態を重く見たスディルマン・エネルギー・鉱物資源相は、上記の事実を大統領へ報告し、国会顧問委員会宛にノバント議長を告発した。同議長には、正副大統領への名誉毀損、フリーポート社への詐欺、汚職の嫌疑がある。

ノバント国会議長は、ハチミツ売りから建設、ホテル、繊維などの実業家へのし上がったゴルカル党幹部で、アブリザル・バクリ党首の側近である。これまで1999 年のバンク・バリ事件など様々な汚職疑惑があったが、今日までうまく切り抜けてきている。

なお、ノバント議長は、フリーポート社社長との会合に石油商リザ・ハリッド氏を常に同席させていた。彼こそ、ユドヨノ政権下で国営石油プルタミナのシンガポールの貿易子会社プルタミナ・エナジー・トレーディング(ペトラル)を牛耳った人物で、選挙で副大統領候補だったハッタ・ラジャサ前調整相(経済)と密接な関係がある。どうやら今回の事件は、ノバント議長個人だけに帰せられる問題ではなさそうである。

 

(2015年11月24日執筆)

 

【インドネシア政経ウォッチ】第130回 ペトラル解散の裏にある深い闇(2015年5月28日)

インドネシアのジョコ・ウィドド政権は5月13日、石油マフィア撲滅策の一環として、国営石油会社(プルタミナ)の子会社で香港に本社のあるプルタミナ・エネルギー貿易会社(ペトラル)を解散させた。ペトラルはこれまで、シンガポールの子会社を通じて原油・石油製品の輸出入を取り仕切ってきたが、その機能は、プルタミナ本社の内部ユニットである統合サプライチェーン(ISC)が担うことで、マージンコストが大幅に削減できるとみている。

ユドヨノ前政権でもペトラル解散への動きはあったが、実現できなかった。スディルマン・エネルギー鉱物資源相は「大統領府が支持しなかったため」と発言したが、それに対してユドヨノ前大統領が激怒した。ユドヨノ氏はツイッターで、「大統領府にペトラル解散の提案が出されたことはないし、ブディヨノ前副大統領を含む当時の閣僚5人に聞いたがその事実はない」と反論し、名誉毀損(きそん)だと息巻いた。

ユドヨノ時代のペトラルは事実上、シンガポールの「ガソリン・ゴッドファーザー」と呼ばれた貿易商リザル・ハリド氏が牛耳っていた。リザル氏は、ハッタ前調整相(経済)、エネ鉱省幹部、プルタミナ幹部らと近く、ユドヨノ氏周辺との関係さえうわさされた。大統領選挙でハッタ氏が副大統領に立候補した際、対抗馬のジョコ大統領候補を中傷する大量のタブロイド紙が出回ったが、その資金源はリザル氏だったと報じられている。

一方、ジョコ政権下で石油マフィア撲滅を指揮するアリ・スマルノ氏は、闘争民主党のメガワティ党首が大統領だった時代にプルタミナ社長を務めた人物で、リニ国営企業大臣の実兄である。アリ氏は当時、ペトラルを縮小してISCを主導させたが、偽原油輸入疑惑を起こし、ユドヨノ政権下でプルタミナ社長職を更迭された。スディルマン・エネ鉱相は当時アリ氏の部下で、プルタミナのサプライチェーン管理部長だった。

石油マフィア撲滅を名目としたペトラル解散の裏には、深い闇がある。