この1週間、体調がすぐれず、発熱、悪寒、下痢と戦っていた。そのため、恥ずかしながら、ブログの更新を怠ってしまった。
8〜9日にジャカルタへ出張し、ワークショップなどをこなしたが、急遽、10日にジャカルタで用事が入ってしまった。9日のスラバヤへの帰り便(LCCなのでキャンセルが利かず)をどぶに捨て、10日の便を取り直したが、連休前しかも直前ということもあって軒並み満席、値段も通常のLCCの3倍だった。
何とかスラバヤに戻ったものの、体調がいまいちで、昨晩、日本料理屋KAYUの鍋焼きうどんを食べ、ゆっくり寝たことで、ようやく復活、さあブログ、となったわけである。
先週から今週にかけて、インドネシアのメディアは、憲法裁判所のアキル・モフタル長官が汚職で現行犯逮捕されたニュースであふれている。10月2日、情報をキャッチして張り込んでいた汚職撲滅委員会(KPK)捜査官が現場に踏み込み、アキル長官らを逮捕、贈収賄用の現金(28万4040シンガポールドル及び2万2000米ドル)をその場で押収した。
今回の事件は、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙をめぐるものである。すなわち、同選挙で現職が再選を果たしたが、敗れた候補側が選挙に不正があったと主張し、憲法裁判所に選挙結果に関する異議申立を行った。当選した現職側は、憲法裁判所がこの異議申立を受け入れないようにと願い、アキル長官へ贈賄を行い、長官側もそれを収賄しようとしていた、というものであった。
憲法裁判所は通常、法律等の違憲審査を行うが、それ以外に、異議申立のあった選挙結果についての判断を下したり、地方政府分立の是非に関わる判断を行ったりもする。裁判は1回のみで、憲法裁判所の判断が最終決定になる。インドネシアでは、汚職撲滅委員会(KPK)と並んで、民主化を担う信頼できる機関と見なされてきた。
しかし、よく考えてみると、それは幻想に過ぎなかったことが後付けで分かる。第1に、裁判が1回のみで最終判断ということは、第三者によるモニタリングの利かない機関ということである。審議内容はオープンにされているとはいえ、チェックアンドバランスが制度的に弱かったといわざるを得ない。第2に、政治家出身者が裁判官や長官にさえなる構造である。アキル自身もゴルカル党所属国会議員で、しかも、現役のままだったというから驚く。本当に政治から独立した判断がなされていたのだろうか。
アキルには、これまでも汚職の噂が何度かあったが、それは今回と同様、地方首長選挙結果への異議申立をめぐる案件だった。今回も、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙以外に、バンテン州レバック県知事選挙絡みでも贈収賄があったとしてKPKが捜査中である。過去にも、アキルが裁判官の時に、北スマトラ州シマルングン県知事選挙などで同様の疑惑が出たが、当時は証拠不十分で不問に付された。
また、アキルは、地方政府分立の是非についても多数案件に関与してきた。アキルの判断で分立が正当化された地方政府も少なくないようである。
贈収賄によって生まれた地方首長や分立地方政府はいったいどれぐらいあるのだろうか。今さら、「我々がそうでした」とは言えないだろうが、 KPKの監視は地方へも広がっており、戦々恐々としている者たちはかなりいるのではないか。また、今後、過去のそういった話が蒸し返されて、混乱する可能性もあり得る。彼らの正統性の危機が内在する。
コンパス紙によると、アキルに依頼する場合の相場がすでに存在し、その額は1件当たり30億ルピアだったとのことである。今回の現行犯逮捕の際に押収された金額もそれに相応する。また、アキルには他人名義の隠し口座に1000億ルピアあることが明らかになった。KPKは、マネーロンダリングの可能性もあるとして追及している。
さらには、アキルの執務室から麻薬や覚醒剤が見つかり、そのなかには市中に出回っていない物も含まれていたということである。
果たして、これらは、アキルを糾弾し、憲法裁判所の評判を貶めるためのヤラセなのだろうか。インドネシアで国民が最も信頼するKPKによる捜査であることからして、世論はその見方に否定的である。
アキルは貧困家庭の出身で、子供時代は貧しい生活のなかにあった。ゴルカル党に入るのは1998年、スハルト政権崩壊後であった。国会議員としては主に地方政府分立などに尽力したといわれる。憲法裁判所裁判官は国会承認が必要で、後付けでしかないが、アキルのような人物を憲法裁判所へ送るということ自体、明らかに、政党が憲法裁判所を利用するという意図がそもそもあったとしか考えられない。
日本の大手メディアではあまり報道されていないが、今回の事件はインドネシアの汚職事件の中でも最も影響の大きい事件だったといっても過言ではない。憲法裁判所以外にも、最高裁判所裁判官の選出をめぐる国会議員と最高裁との贈収賄の疑惑も浮上している。
ここで本格的に司法関連の汚職へメスが入るのか、そして、2014年総選挙を間近に控えて、本当に信頼できる汚職フリーの議員をどのように国民が選ぶのか、国会議員を監視する何らかの仕組みができるのか。誰が当選するかよりももっと重要なシステムの話がクローズアップされてくることを願っている。