【インドネシア政経ウォッチ】第71回 マナドを襲った洪水(2014年1月23日)

昨年に引き続き、インドネシア各地で洪水の被害が伝えられる。なかでも、1月15日に北スラウェシ州の州都マナド市を襲った洪水はすさまじいものだった。気象庁は、フィリピン南部で季節外れの台風が発生した異常気象の影響とみている。

これまでに19人が死亡、27人が重傷、706人が軽傷のほか、565軒の家屋が流され、1万軒以上が全半壊した。人口40万人のマナド市の被災人口は2割以上の8万7,000人で、市内11郡のうち9郡が被災した。道路も寸断されて交通はまひし、停電も長期化した。

北スラウェシ州のサルンダヤン知事によると、被害総額は1兆8,710億ルピア(約161億円)とみられるが、これは数千億ルピアと現時点で推定されるジャカルタでの被害額を大きく上回る。中央政府は18日と20日、空軍機で緊急物資をマナドヘ送ったほか、スラウェシ島内で同じく洪水の被害に苦しむ南スラウェシ州政府も救援物資を送った。

海に面したマナド市には平地がほとんどない。4つの中級河川と10前後の小さな川が南部の山間部から市内へ流れてくるが、市街地に山がすぐ迫る地形のため、川の流れは急である。これら河川上流部の山間部で激しい降雨が続き、かつ土砂崩れも加わって、鉄砲水がマナド市を襲った。有名企業グループが丘を崩して造成した高級住宅地では、昨年に続いて家屋の倒壊が相次いだ。地元の専門家は、上流部で進む急速な森林伐採による保水力の低下が洪水や鉄砲水の原因と指摘する。

マナド市では一時約4万人が避難したが、これは洪水被害者だけではなかった。洪水発生後、しばらくして水が引き始めた沿岸部に「津波が来る」という噂が交流サイト(SNS)で流れ、市民の間に広まった。津波を恐れて避難した者も相当数いたのである。

被災者からはマナド市や北スラウェシ州の対応の遅れが批判されるが、行政自体が被災して機能不全となった。今回を含めたこれまでの教訓を生かし、中央政府と地方政府が連携して迅速に対応できる、有効な災害対策が求められる。

【インドネシア政経ウォッチ】第24回 洪水と企業移転論議(2013年 1月 31日)

首都ジャカルタで洪水が事業活動に及ぼす影響が議論されている。今月半ばに数年ぶりに大洪水が発生したためで、インドネシア経営者協会(Apindo)のソフィヤン・ワナンディ会長は、洪水を不可避と指摘。最低賃金や電気・ガス料金の上昇で、首都圏の事業コストが既に高いことにも懸念を示した上で、「企業が安心して事業に専念できる環境を得るには、東ジャワや中ジャワなどジャワ島の他地域への移転を政府が促すべきだ」と主張する。同会長の頭にはおそらく、労働争議が激しくなっていることも入っているのだろう。

実は今回の大洪水の前から、労働集約型産業では既に首都圏から最低賃金の低い他の地域へ生産を移管する動きが出ていた。西ジャワ州スカブミ県、中ジャワ州クンダル県、ボヨラリ県などが移転先として名乗りを上げている。特にボヨラリ県では韓国政府の支援を受け、韓国系の繊維企業が工業団地を造成する計画が進んでいる。東ジャワ州も企業移転を積極的に呼び掛け始めた。

ただ政府は、ジャカルタ周辺での事業活動に楽観的な見方を示している。投資調整庁のカティブ・バスリ長官は「今回の洪水は首都中心部でひどかったが、工業団地での生産活動に直接影響しなかった」と述べ、首都圏への投資家の評価は下がらないとの見方を示した。ヒダヤット産業相は、工業団地または産業都市を全国レベルで整備する必要は認めつつ、まだ他地域への企業移転を優先政策としない方針を示した。

確かに工業団地自体は、ジャカルタ東部のプロガドゥン工業団地やバンタン州タンゲラン地区の一部を除いて物的被害は微小だった。これに対して首都圏以外の地域、特にジャワ島以外ではインフラ整備がまだまだ必要な状態だ。

今回の企業移転論議は、地方経済の活性化を進めたい政府にとっては契機となり得る。一方で企業の海外への生産移管こそが、投資を経済成長の原動力としたい政府にとって最大の懸念材料なのである。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20130131idr023A

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【インドネシア政経ウォッチ】第23回 洪水のジャカルタ、遷都論議再び(2013年 1月 25日)

雨季のジャカルタは洪水の街となる。4~5年に一度は大規模な洪水が起こる。そう分かってはいても今月17日に首都を襲った大洪水はかつてない規模だった。

国家災害対策機関(BNPB)によると、1月20日時点で死者20人、避難者4万416人に上った。都心部にあるタムリン通り、スディルマン通りといった幹線道路が冠水して川のようになり、結果的に市内の至る所が冠水した。前日に「ジャカルタ全体が水に浸かる」というショート・メッセージ・サービス(SMS)が流れ、デマとして警察が捜査する矢先に、それが現実となってしまった。

洪水に加えて停電も深刻だった。ジャカルタ市内に電気を供給するムアラカラン発電所の一部が冠水して発電できなくなり、1,245カ所の変電所が停止。広範な地域で停電が長時間続き、一部のオフィスは閉鎖を余儀なくされた。

今回の洪水は基本的に予想を超える長時間の豪雨によるものではあるが、排水ポンプの機能不全、川沿いの堤防の決壊、ビルの浸水対策の不備、川などに廃棄された大量のゴミへの対策の遅れ、などさまざまな問題を浮き彫りにした。西ジャワ州ボゴールやプンチャク周辺での不動産開発による森林伐採・土壌保水力の低下が河川への流量を増やした可能性も高い。地下水汲み上げなどによるジャカルタ全体の地盤沈下も被害を拡大させた要因だ。

洪水対策のインフラとしてジョコ州知事は昨年末に、多目的な地下トンネルの構想を発表した。ジャカルタ東部から北部の全長10キロメートルを3段構造(上2段を自動車道路、下1段を電線・電話線・ガス管や浄水・下水管)とし、洪水時には自動車の通行を禁止して配水管として活用するというものだ。またユドヨノ大統領は20日に、チリウン川から東部放水路へ結ぶ2.1キロメートルの水路建設を決定した。

しかし、ジャカルタが災害への脆さを克服できるまでの道のりは遠い。大洪水を契機に、遷都の必要性がより真剣に議論されるのは確実である。

 

http://news.nna.jp/cgi-bin/asia/asia_kijidsp.cgi?id=20130125idr021A

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