アンゴラ、ブラジル、福島を結ぶサウダージ
7月8日、友人である渋谷敦志氏の写真展を見てきました。渋谷氏とは昨年、ダリケー株式会社主催のカカオ農園ツアーをご一緒して以来のお付き合いです。
今回は「Saravá~Brazilian Journey~」と題する写真展でした。1990年代半ばから20年以上、ブラジルと付き合ってきた渋谷氏の軌跡を感じさせるような写真が展示されていました。
写真展は7月14日まで、新宿コニカミノルタプラザで開かれています。詳しくは以下のサイトをご覧ください。
渋谷敦志 写真展「Saravá~Brazilian Journey~」
合わせて、渋谷敦志写真集「回帰するブラジル」も購入しました。この写真集、アンゴラから始まり、そのすぐ後からは、ブラジル各地で過去20年間に撮影した写真の数々が続き、最後は福島で終わる、というものでした。
この写真集を貫くキーワードは、サウダージというポルトガル語です。
渋谷氏によると、サウダージとは、過ぎ去った時間への懐かしさ、何かが満たされない寂寞、心にはあるのに触れることのできない哀切、それらをぎゅっと詰め込んだ言葉にならない思いを表すようです。
渋谷氏は、彼自身の20年を超えた付き合いをしてきたブラジルに対するサウダージを抱きながら、写真の対象としての人々それぞれのサウダージに思いを馳せ、それを写真の中に表現しようとしてきたのかもしれません。
彼の写真の中の人々は、今を懸命に明るく生きているとともに、それぞれの人生の過去と今後を思いながら生きている、そんな様子を垣間見せています。それは、写真の中の人々の表情、とくにその目に表れているような気がしました。たまたま出会った被写体の彼らに対して、渋谷氏は、人間としての尊敬をもって、彼らの人生を映しだそうと誠意を持って向き合っている様子がうかがえる写真でした。
彼自身の、そしてブラジルでの被写体の人々の、サウダージが溢れ出してくる写真。そして、最後にそれが、東日本大震災の時に津波で家を流され、家族を失いながらも、前へ進もうとされている福島・南相馬の男性をめぐる写真で終わるところに、サウダージという言葉の持つ深さを感じたのでした。
渋谷氏は次のように書いています。
ーブラジル、アフリカ、そして福島。異なる三つの大陸をまたぎ、海を越え、サウダージは、ぼくを「いま、ここ」に連れてきた。そこから見える光景はかつての自分が思い描いていたものとはずいぶん違う。悲しい到達地と言えるかもしれない。失われた風景はもう戻らないかもしれない。でも、そこには心が残っていた。それは、人間が根源的に持つ生きる意志を確かめさせてくれるような何かでもあった。そんな心のよりどころのような場所に幾重にも立ち返り、生命の在り処にカメラを向けることで、未来を光で照らし出す可能性を探求しようとしているのだと思う。
渋谷氏の写真の真ん中には必ず人間とその人の人生がある、と思いました。サウダージを大切に大切にしながら、未来の光を映しだそうとする、真摯なカメラマンの姿がそこにはありました。
渋谷氏に教えていただいた、このサウダージというポルトガル語を、私も大事にしながら、前へ進んでいきたいと思いました。そして、これまで出会った人々やこれから出会う人々の未来に対して、もう一つ教えていただいたポルトガル語、サヴァーレ(祝福あれ)を送っていきたいと思いました。