断食中の機内食、ガルーダの場合

今回のゴロンタロ州ボアレモ県訪問は、断食中の用務でした。

断食明けは7月6日と予定されていますが、通常、月が新月かどうか、実際に見て判断するので、直前まで決まりません。というわけで、イスラム教徒の皆さんは、「もういくつ寝ると・・・」という感じで、指折り数えて断食明けを待っているところです。

断食中でも、私たち非イスラム教徒は通常通り飲食をしてかまいません。もちろん、断食中の方には一応「食べさせていただきます」と断わりを入れるのが礼儀でしょうね。

イスラム教徒としては、異教徒に断食を強制させることは罪という意識があります。昔、役所の職員と一緒に地方出張したとき、たまたまタイミングを逃して飲まず食わずとなり、気がつくともう夕方の4時でした。職員たちは「お願いだから食べてくれ」と懇願され、カーテンのかかった小さな食堂へ押し込まれてしまいました。

今回も、一緒に動いてくださったカカオ栽培指導のコンサルタントの方と運転手が、気を遣って、田舎なのでなかなかないのですが、いつも昼食の場所を探してくださいました。おかげで、昼食をとることができました。

ところで、断食中の飛行機の機内食ですが、今年は少し例年と変わった光景を目にしました。これまでは、通常通りの食事が供され、断食中の人には食事が供されませんでした。

今回、ガルーダ・インドネシア航空で目にしたのは、紙の箱に入った食事です。1時間程度の短距離飛行の時にはパンなどの入った紙の箱が渡されますが、通常の食事もまた、紙の箱に入って渡されたのです。中を開けると・・・。

ガルーダのマーク入りのポリ袋が1枚入っています。この袋、紙の箱をお持ち帰りするための袋なのでした。断食中の客も、紙の箱に入った食事をお持ち帰りできるようにしたのでした。機内で見ていると、ほとんどの客が紙の箱をポリ袋に入れて持ち帰っていました。

工夫しましたね、ガルーダ・インドネシア航空。5つ星航空会社と認定された自信が、こうしたちょっとしたサービス向上に結び始めたような気がしました。

山頂までトウモロコシ畑

ボアレモ県に滞在3日目の7月2日は、県南東部の村を訪問しました。本当は6月30日の午前中に訪問予定だったのですが、「雨がひどくて、道路状況が良くないので、来ないほうが良い」と言われて、行けなかった村です。ゴロンタロ空港へ向かう途中での寄り道でした。

スラウェシ島のマカッサルからマナドまで通じるトランス・スラウェシ道路から一本入ると、その道は、舗装されてはいるものの、穴だらけで、中には舗装が剥がれてガタガタになっている、急なアップダウンの道でした。上り下りが相当に急で、たしかに、これでは、大雨の中、行くのはかなり危険だと思わざるをえない道でした。

標高は上がっていきますが、道の両側はトウモロコシ畑が広がり、しかも遠くに見える山々の頂までトウモロコシ畑が広がっている様は圧巻でした。トウモロコシ畑を広げるために、削られた山肌があちこちに見られます。

村に着くと、そこもまた、山の頂までトウモロコシ畑でした。山肌が削られ、新たにトウモロコシ畑となるであろう様子もうかがえます。

昨日訪問した別の村では、かつてはほとんどがトウモロコシを栽培していたのに、今は皆んな止めてしまい、カカオへ転作していました。曰く、種子や肥料などの代金を商人から借りても、収穫の時に返済すると儲けがほとんどでないかマイナスになる、化学肥料や殺虫剤の投与で農地がダメになるのに加えて自分たちにも健康障害が出る、といった理由でした。

ゴロンタロ州は、北スラウェシ州から2000年に分立してから、州を挙げてトウモロコシ生産を奨励し、「トウモロコシ州」としてゴロンタロ州の名前を売りました。それから15年、トウモロコシ生産の弊害が出ている一方で、この村のように、今もなお、山を裸にし、トウモロコシを植え続け、森がなくなっていく状況も併存しています。

トウモロコシ栽培のための森林減少を食い止めるため、代替物としてカカオを含めたアグロフォレストリーの奨励が試みられていますが、この村のトウモロコシ栽培の広範な拡大を見ていると、アグロフォレストリーの前途は相当に多難だと思わざるをえません。

こんな村でも、ゴロンタロの断食明け直前の風物詩トゥンビロ・トヘの準備が行われていました。

トゥンビロ・トヘとは、灯を照らすということで、元々は、夜のイスラム礼拝を人々に伝えるための道しるべの灯りとして使われたようです。昔のブログでトゥンビロ・トヘについて書いたことがありますので、参考までにリンクを貼っておきます。

ゴロンタロ「灯りの祭典」

トゥンビロ・トヘは、なかなか幻想的できれいなので、機会があれば見に行かれたらと思います。州全体で行われ、今回訪問したすべての村で、準備が行われていました。でも、膨大な数の灯りをつけるために燃やされる大量の灯油とそこから発せられる二酸化炭素のことを思うと、ちょっと複雑な気持ちになります。

発酵カカオ、未発酵カカオ

昨日は、午後、ようやく雨が上がり、再びカカオ農家を訪問することができました。

カカオは収穫後、実を割って中からカカオ豆を取り出し、それを発酵させてから、天日干しにして水分を飛ばし、加工へまわす、というのが一般的です。カカオを発酵させると、あのカカオ独特の芳醇な香りが生まれ、チョコレート原料となります。

上の写真はカカオ豆を半分に切った断面です。右から3番目付近の黒いのが発酵カカオです。一番右側は半分ぐらい発酵しています。残りの紫色のものはまだ発酵が十分でないカカオです。

ところが、ボアレモのカカオ農民の多くはカカオを発酵させず、未発酵のまま集配人に売ってしまいます。それはなぜでしょうか。

一つには、すぐにお金が欲しいからです。何はともあれ、現金がすぐに欲しいので、未発酵のまま天日干しして、すぐに売ってしまうのです。集配人も、天日干しして、水分を飛ばすことしか要求しません。

二つには、発酵は面倒くさいのです。発酵させる4〜5日間が無駄になるし、1日に何回かは発酵中のカカオを手でかき回さなければならないし、発酵してくるとカカオが熱くなるし、こんな手間暇かけたくない、という理由です。

そして、それらの理由の根本には、集配人から提示される価格は一つで、発酵してもしなくても、買い取り価格が同じ、という問題があります。

皆さんがカカオ農家だったら、それでも発酵させますか。しないですよね。

インドネシア産カカオは、世界市場では低品質のカカオとみなされており、しかも家畜のエサ用など低品質カカオの市場が存在するので、あえていいカカオを作らなくても済む構造ができ上がっています。

実は、発酵カカオと未発酵カカオの価格差がないという問題は、私がマカッサルでJICA専門家として地域開発政策アドバイザーを務めていた20年前から、全く変わっていないのです。それを今回、改めてボアレモのカカオ農家で確認しました。

しかし、状況は変わり始めました。ごくごく一部ですが、発酵カカオを未発酵カカオよりも高く買い取る動きが出始めました。その先陣を切った企業の一つがダリケーです。

ダリケーは発酵カカオを高く買い取るだけでなく、カカオ農民に対して、カカオの栽培・管理技術、発酵の方法などを指導し、それをマスターしてちゃんとした発酵カカオを作った農民からはプレミアムをつけた価格で買う、ということをスラウェシで行なっています。でもこれは、良いものを作った人には正当な価格で評価する、という商売として当たり前のことをやっているに過ぎないのです。

ボアレモ県のカカオ生産は年産わずか1000トンぐらいの少量生産ですが、県政府がカカオ栽培を奨励し、苗木や肥料などを無料で農民に配っています。このやり方だと、農民はオーナーシップを持たず、やる気も出ないのではないかと思いました。

ところが、現場へ行くと、過去にカカオ生産を経験した農民がリーダー格となり、他の農民を発酵カカオ生産へ誘っていました。

彼らの多くは、これまでトウモロコシ農家でした。気候変動の影響か、トウモロコシ生産が2期連続で不作となり、中間業者から借りた借金の返済に追われたと言います。トウモロコシで地獄を見た農民たちは、1回植えれば20〜30年持ち、毎週のように収穫でき、しかも初期費用は政府もち、というカカオへなびきました。そして、今、発酵させると、世界市場では高く売れるということを農民が知り始めました。

ボアレモ県のカカオ生産は、まだ緒につき始めたばかりで、生産量はごくわずかです。しかし、長年カカオを作ってきた農家とは違い、最初から発酵カカオの良さを理解し始めています。これからの戦略を間違えなければ、少量ではあるが、高品質の発酵カカオを生産できる場となり得るかもしれません。

これからのボアレモ県のカカオ農民の努力に注目していきたいです。

ボアレモは大雨だった

インドネシアのスラウェシ島にある、ゴロンタロ州ボアレモ県に来ています。今回は、ここで2日間、カカオ農家のヒアリングを行います。

今日と明日の2日間、なのですが、昨晩から強い雨が降り続き、今朝は8時に出発予定だったのが、訪問予定先のカカオ農家から「雨で道が悪くなっていて、土砂崩れが起こる可能性があるから、今は無理。しばらく様子を見て欲しい」と連絡があり、様子を見ながらホテルで待機しています。

本来であれば、今は乾季のはず。でも、昨日会ったカカオ農家の方によると、一週間前ぐらいから雨が降り出し、ずっと降っているとのことです。おかげで、そろそろ収穫期のカカオを乾燥させることができずに、困っていました。

しかもそのカカオですが、昨年12月の花がつく頃に雨が少なく、豆が例年よりも小さいそうです。本来ならば、12月は雨季で雨が多い時期だったはずなのですが。

寒気や雨季は、私たちが思っているほど、明確に分かれてもいないし、場所によっても異なります。ここは赤道よりも少し北側なので、赤道の南側のインドネシアの乾季・雨季とは逆になりそうな気もします。

他方、アルファベットのKの字をしたスラウェシ島は、場所によって乾季・雨季が入り乱れています。例えば、南スラウェシ州の州都マカッサルは今は乾季ですが、山を越えた東側、ボネ湾に面した地方は逆に雨季の真っ最中になります。今の時期は、西側は一般に乾季、東側は一般に雨季、といった様相ですが、では南側に面しているボアレモはどうか、というのはちょっとビミョーです。

ともかく、カカオ農家のヒアリングはうまく行われるのでしょうか。お天気の神様のみぞ知る、といったところです。

昨晩は、疲れ切ってしまって寝てしまい、ハッと気がついて起きたらすでに6月30日、本ブログの毎日更新の目標は破られてしまいました。しかも、停電が5時間以上続き、携帯電話の充電ができるかどうか不安な夜でした。

今日の写真は、昨日降り立ったゴロンタロ空港です。空港ビルが新しくなっていて驚きましたが、搭乗ブリッジはまだ使われていませんでした。