私の最も好きなインドネシア料理といえば、それはナシ・ソト・アヤムである。ナシはご飯。ソト・アヤムは、鶏肉の入った実だくさんの野菜スープである。
ソト・アヤムは地方ごとに味付けや中に入れる野菜の種類などが異なる。独断と偏見でいえば、大きく、東ジャワ系と中ジャワ系に分かれる。東ジャワ系(ソト・マドゥラ、ソト・アンベガンなど)は全般に黄色っぽいスープで、ターメリックが若干入っているようである。一方、中ジャワ系(ソト・クドゥス)は全般に黒茶っぽい色のスープである。
ソト・アヤムのなかにご飯を入れて、雑炊のようにして食べるのは、東ジャワと中ジャワだが、多くの場合、ご飯を一緒に入れるか、ご飯をソト・アヤムと分けるか、と聞かれる。
ちなみに、ジャカルタでは、ほとんどの場合、ご飯とソト・アヤムは別々に運ばれてくる。そして、筆者が観察した限りでは、ソト・アヤムのなかにご飯を入れて食べている人を見かけたことはない。ご飯のうえにソト・アヤムをかけて食べている人が大多数である。
日本でも、味噌汁にご飯を入れて食べたりすると「猫マンマ」などと言われて、あまりしない方がいいように言われていたように思うが、ジャカルタでは、ソト・アヤムにご飯を入れるのも、そのような感覚で捉えられているのだろうか。
ソトにはソト・アヤム以外にもソト・ダギン(牛肉のソト)などがあり、スラウェシにはソトがないこと、スープ(ソプ)とソトはどう違うかなど、ほかにも色々と書きたいことはあるが、別の機会に書くことにして、4月20日に食べた美味しいソト・アヤムの紹介に移る。
場所は、スラバヤ市内のJl. Indragiriの薄汚れた名もないワルンである。市の中心部からJl. Dr. Sutomoを通ってJl. Mayjend Sungkonoへ抜ける手前の左側、ワルンが並んでいるところの一角である。
暗いワルンのなかでフラッシュをたかないで撮影したので、ちょっとはっきりしないかもしれない。ここのソト・アヤム、ソトのうえに細かい揚げ玉のようなものがふんだんにかけられている。これがアクセントになって、口の中に入れると何ともいえずいい。余談だが、インドネシアでナシ・ゴレンやガドガドにクルプック(揚げせんべい)が付いてくるのは、口の中にアクセントを求めるジャワ人のテイストなのではないかと思っている。
次にスープ本体だが、ややドロッとしたスープで、鶏の味が出ていて、しっかり煮込んである感じがする。極細の素麺らしきものとキャベツなどの野菜のバランスも良い。鶏肉は最初から煮込むのではなく、後から切って入れられる。これに、好みに応じてレモンやサンバルを加える。
筆者はナシ・ソト・アヤム、すなわち、ご飯がすでに中に入っているのを頼んだので、スープの下からご飯が現れる。ややドロッとしたスープとご飯との相性がまた格別である。
カウンター席の前には揚げ豆腐、揚げテンペ、ウズラの煮卵の串刺し、鶏の腸の串刺しなどがあり、それを適当につまみながらソト・アヤムを食べる、という形式である。
ナシ・ソト・アヤムが1杯7000ルピア、ウズラの煮卵の串刺し1本500ルピア、冷たいお茶2000ルピアで、しめて9500ルピアだった。普通のワルンでの食事に比べるとちょっと高めかとも思ったが、十分に経済的な値段である。
ワルンの前に置かれている屋台からすると、ラモンガン出身者のようである。ラモンガンはスラバヤから西へ車で2時間弱の地方都市で、ソト・アヤムが有名である。また、出稼ぎ者も多く、筆者がかつて住んでいたマカッサルでは、海岸沿いのジャワ人のやっている屋台のほとんどがラモンガン出身者だった。
この名前のないワルンは、昼間しか営業していない。おそらく、初めての人はなかなかたどり着けないだろうが、心配はいらない。タクシーの運転手ならみんな知っているからである。